第16話 『希望』と『強欲』


 五右衛門の『五行天滅封羅ノ太刀ゴギョウハメツノタチ』により、イネインのメインウエポンである『永久に生きる業火アゴニアス』が完全に封じられた状態、そんな隙を五右衛門が見逃すわけもなく追撃の『八之俣分奪求大蛇懐刀ヤマタノオロチ』が襲い掛かる。


 8つの霊体である蛇竜が何かを簒奪すべしと、それぞれの首が目についたモノに喰らいついていく。



「どのスキルにも簒奪の力が含まれているのは厄介ですがッ! 『懺悔の光!』」


「そういえば『神の光』とも言われたことがあったようじゃな。やはり侮れんのぅ」



――バリンッ!!



 『懺悔の光』と『八之俣分奪求大蛇懐刀ヤマタノオロチ』がぶつかり合い相殺される。

 五行を封じるという五右衛門の発言から瞬時に『光』という五行に含まれない属性の力を放ち、多大な範囲で『八之俣分奪求大蛇懐刀ヤマタノオロチ』の八首を同時に相殺させたところを見て、五右衛門とシンラはイネインの判断力に驚嘆する。


 対するイネインは五右衛門とシンラの対スキル完封デュオの恐ろしさに戸惑いを隠せずにいた。

 五右衛門の相手のスキル使用そのものを封じてくる技も、シンラの存在も把握してはいたが、まさかここまで豊富な手段があり、これほど自身の力と相性が良いとは思いもしなかった。



「ここまで力を隠して我々の元にやってくるとは……」


「お主らのような化け物には完全な初見殺しで何もさせないことが一番の勝ち筋じゃそうじゃぞ? お主を封殺するために色々練ってきたもんじゃ」



――バリバリッ!!



「くぅッ!!」



 飛び回るシンラから放たれる『神雷』がイネインに少しの間すら与えない。

 まるで網のように張り巡らされたように感じるほど広範囲に渡る『神雷』が驚愕の耐久値を誇るイネインを削り焦がしていく。

 攻防の要、メインウェポンである『永久に生きる業火アゴニアス』が完全に封じられ、ほぼ全ての攻防の手段が手詰まりとなってしまったイネインに、最早五右衛門とシンラを退ける方法は存在していなかった。



「『希望デスペランサ』もここまで削られては意味を成しません」


「お主の『美徳』は最大火力だと恐ろしいもんらしいからのぅ……さすがに潰させてもらうぞい」


「……ここまでのようですね」


「……怪しさ満点の諦めの速さじゃな」


「ここで足掻いても結果は変わりません。貴方たちの手札は見ることができました」


「まだまだ戦争は続くような言い方じゃな。戦力の大半は削れておると言うのに」


「主が生きている限り我々は負けることはありません。それが魔王戦争ですから」


「まるで儂らが悪党みたいな感じじゃな……終いじゃッ!」



――ザシュッ!!



 完全に戦いを諦めたイネインにトドメの一太刀を浴びせる五右衛門。

 綺麗にイネインの首を跳ね飛ばし、消滅しゆくイネインの元に残ったのは、真っ赤に燃え盛る小さな球体のみであった。



――ゴゴゴゴッ!!



「とんだ置き土産じゃなッ!」



――ジュッ!



 イネインの置き土産である燃える魔力の球体は凄まじい速度で圧縮し、周囲を消し飛ばすかの如く爆ぜる寸前にシンラに吸収された。

 しかし、シンラの身体から僅かな黒煙が上がっているのを五右衛門は見逃さず、自身の頭の上に止まったシンラに問いかける。



「お主に『火』の力で傷を与えるとは……さすが神熾天使の置き土産じゃ」



『火』『氷』『雷』の三属性に関しては絶対的とも言える防御性能を持つシンラにダメージを与えたイネインの力に素直に驚愕する五右衛門。

 現状『枢要悪の祭典クライム・アルマ』と『美徳』の神熾天使たちとの戦いは相性を考えて戦っている以上に『枢要悪の祭典クライム・アルマ』側の圧勝というペース。

 残るは自分たちのリーダーであるポラールと神熾天使側のリーダーである『正義』の『美徳』を司るミカエルのみである。


 圧勝ムード中、五右衛門とシンラはポラールの勝ちを疑うことはしないものの、『七元徳』陣営の手ごたえの無さに対し、出だしの段階で疑いはあったものの、さすがに五右衛門は確信したようだ。



「確実にどんでん返しが待っとる展開じゃな。もちろん主も警戒は出来とるじゃろうが、何をしてくるか予測がつかんのぅ」



 このまま魔王戦争がすんなり終わるなんてことは、『大罪』陣営の誰も思っていない。

 最強の魔王の一体である『七元徳』がこんな呆気の無い終わり方をするだなんて、考えられない。

 『真名』持ちである『美徳』の神熾天使たちが壊滅していくことすら後の布石であるだろうと予想する五右衛門は、イネインが消滅した跡を見ながら呟く。



「儂ら『大罪』と違って戦闘特化の魔物じゃないとしても、こんなので終わるような天使様じゃないはずなんじゃがな……」



 五右衛門からすれば、今まで『大罪』陣営が撃破に成功した神熾天使たちの動きは怪しさに満ち溢れていた。

 『六封城』の制限が圧倒的に優位、そして集団で力を発揮する天使ならば、何故各個撃破されるような展開に持ち込んで来たのか。


 レーラズが上手く戦場を変化させたにしては、『七元徳』側の統制のとれなさが怪しいと感じる五右衛門。



「まるで復活前提で様子見しに来とるような無謀さじゃな。儂らのことを調べとったにしては迂闊すぎる」



 『真名』持ちがそのままコアで復活することができないので、普通は慎重になるはずな神熾天使たちの無謀とも思える単騎行動の数々、五右衛門はルールを捻じ曲げて神熾天使たちが再び蘇るのではないかと思えてきてしまう。



「『大罪』のライバルみたいなもんだと主が言っておった『魔名』じゃ。主と同じくらいふざけた力があると思って動いた方が良さそうじゃの」



 自身の頭の上で受けた傷の回復に努めるシンラを気にかけながら、五右衛門は次にやるべきことを整理しながら周囲の状況を気配で感じ取る。


 

――ゴゴゴゴゴゴゴッ!!



「今まで神熾天使たちと違う異質な圧じゃな。ウチのリーダーと張れる魔物なんて、そうそうおらんと思っとったが、さすがは天使の長じゃな」



 『枢要悪の祭典クライム・アルマ』の中でも最強格、みんなの圧倒的リーダーであるポラールの存在圧と張れるだけの圧を出す天使が互いに凄まじい速さで接近しているのを感じた五右衛門。


 『大罪』と『美徳』による幹部対決。

 今までの戦いとは違う何かを感じさせる衝突が始まろうとするのを、五右衛門とシンラは感じたのであった。

 



 

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