第15話 『神の火』


――『七元徳』側 『中央』六封城



「根の迷路は我々の初手を崩し、天使を迷路内に閉じ込め……『美徳』を分断させるための餌。我らは1人ずつ削られていく寸法ですね」


「幹部格を復活させずに確実に詰めていく、そっちは守る組と攻める組で連携をとるじゃろうから、それを分断するための迷路じゃな。転移系統はデザイアが面倒見れるからのぅ」


「戦争前に主のDEを削り、流れるように天使の強みを消した戦い方を強いてくる。敵ながら見事です」


「お主らの本領は魔王本体が本気を出した時じゃろう? あまりに手ごたえが無さ過ぎて主が震えとるぞい」


「主にこれ以上手を煩わせるわけにはいきません」



――ゴウッ!!



 『希望デスペランサ』の『美徳』を司る神熾天使の1体。

 常に燃え続ける真紅の長髪を靡かせ、それに劣らぬ真紅の瞳、スタイルが良いと言われるような女性型の身体を持った者。

 神熾天使ウリエル、アクィナスから授かりし真名は『イネイン』。


 フォティアの『破壊の火』と同レベルの圧迫感を感じさせるような火の魔力を周囲に漂わせ、イネインの守る六封城に入ってきた五右衛門とシンラを冷たく視野に入れている。


 『神の火』の異名を持ち、イネインの様々な状態を火に影響する『生きる火』と、他天使から言われる特殊な火を使って戦う、フォティアと同じように戦うことをメインとした神熾天使である。



「2対1はそこまで鍛錬しとらんからのぅ……気張って行くぞいシンラさんよ」


「……」


「……たまには鳴いてくれてもええじゃろうに。儂らここに来るまで天使の力をいただきすぎて眠くなってしもうたか?」


「我ら天使の強みを消してくることは予測できましたが……集団戦は苦手だったのでは?」


「苦手なのと出来ないんもは違うもんじゃろ?」


「なるほど……知能が無いのは我らだったようですね。ですがまだ負けたわけではありません、『永久に生きる業火アゴニアス』」



――ゴゴゴゴゴッ!!



 イネイン周囲の空間が歪んでいくほどに強烈な火の魔力と『聖神力』を身体から溢れさせ、一瞬にして六封城は灼熱の魔力に覆われてしまう。


 イネインの放つ『永久に生きる業火アゴニアス』は、通常の火の魔力とはまったくもって違うものであり、魔物や人と同じように体力が存在し、ステータスという概念もありバフも受けることのできる異形の焔。

 発動したばかりの段階でも、超火力の火系統の力を有しており、自在に動く焔は素早い敵を追うことに関しては苦労するが、広範囲を一瞬で焼き尽くすパワー型のスキル。


 そんな強力なスキルと同時に発動しているのは『希望デスペランサ』の力。自身の体力が100%に近ければ近いほど、ステータスもスキル威力も何もかもに上昇倍率がかかり、最大値の1%の体力と魔力が毎秒回復し続ける恒常効果が発動しているのである。



「バフ効果を簒奪する蝦蟇。貴方のことは聞いています」


「お主との戦いで目立つのは儂ではなく、シンラなんじゃがな」


「『光を絶やせ天火踏逸コンテムプティオー』」


「儂の『強欲グリード』対策をしっかりされとるのぅ」



――ゴウッ!!



 イネインが展開している『永久に生きる業火アゴニアス』が五右衛門とシンラを囲うように燃え広がり、一瞬にしてドーム状に囲い込む。


 五右衛門対策でバフを自身にかけず、他天使たちを召喚して簒奪されないように単独で攻撃を仕掛けるイネインに称賛しながらも、囲まれているにも関わらず、特に動揺することなく様子を見ている五右衛門。


 そんな五右衛門の肩に乗りながら、自分たちを囲む炎を淡々と見つめるシンラ、『七元徳』側からすれば、魔王戦争で目立つような働きをしていないので情報が無い存在であり、ソウイチが警戒していた天使2体の内1体のイネイン特攻とも呼べる存在。



「シンラの『神炎』というよりか……イデアの根源魔導みたいな気配を感じる火じゃな」



――ジュワッ!



「……どういうことですか?」



 『永久に生きる業火アゴニアス』で敵を囲み、スリップダメージと継続的なデバフを付与し続ける『光を絶やせ天火踏逸コンテムプティオー』、五右衛門たちを囲んでいた炎の牢獄が一瞬にして、シンラの身体の中に吸い込まれるようにして消え去った。


 スキルを解除されたわけでも、相殺されたわけでもなく、一瞬にして吸収されてしまった出来事に上手く言葉が出せないイネイン。

 自身の攻めの核である『永久に生きる業火アゴニアス』が秒で無効化されてしまった事実、『聖神力』を纏っていたスキルであったにも関わらず無効化されてしまった衝撃、僅かではあるが隙を見せてしまう。



「合わせいシンラ……『空撫瞬ノ一筆書カラノヒトフデ』」



――バリバリバリッ!!



 如何なる『火』であっても火系統のスキルに該当しているものは全て吸収可能なシンラと、全ての魔物の中でもトップ3に入る火の力を持つイネイン、絶望的な相性であり、確実にシンラたちが勝てるように考えられた組み合わせ。

 

 あまりの出来事に僅かな隙を見せたイネインを見逃さず、シンラの『神雷』と五右衛門の『空撫瞬ノ一筆書カラノヒトフデ』が襲い掛かる。

 五右衛門の『空撫瞬ノ一筆書カラノヒトフデ』がイネインから飛行能力を斬り取りバランスを崩させ、『雷は駆ける悪の下へスカイ・ブリッツ』により防御貫通・威力激増しているシンラの『神雷』が隙を逃さずイネインを貫く。



「ぐぅぅぅッ! 『猛れ波導、赤熱よりもベルグエンサッ!』」


「空中で咄嗟にバランスを整えるのは見事じゃが、『火』で守るのは悪手じゃて」



――ジュッ!!



「火に対策してきましたかッ!?」


「『五行天滅封羅ノ太刀ゴギョウハメツノタチ』」



――グシャッ!!



 イネインが自身を守るために時間経過で火力を増していく炎の盾である『猛れ波導、赤熱よりもベルグエンサ』は、『光を絶やせ天火踏逸コンテムプティオー』と同じようにシンラの『火は巡る明日の空へムエルト・フェネクス』により吸収された。

 

 飛行能力を五右衛門に奪われ、なんとか放った『猛れ波導、赤熱よりもベルグエンサ』を剥がされ、空中でバランスを崩したまま隙だらけに落下したイネインを見逃さず、紫色の魔力を纏った『智慧の本源を断つ刃アマノムラクモ』を叩きつける五右衛門。


 

「天使の皮膚固すぎるじゃろ!」


「くッ!!」



 両断するぐらいの気持ちで振った五右衛門の一太刀は右肩に軽い切り傷を創る程度のダメージしか与える程度に終わる。

 

 なんとか地上へと着地し、五右衛門に斬られた傷口を抑えながら、イネインは五右衛門とシンラを強く睨みつける。



「お主の『神雷』、儂にも当たって痛すぎるんじゃが……」


「どう……なっているのです?」



 シンラの『神雷』が五右衛門にもダメージを与えていたが、イネインにも確実に大ダメージを与えていると見たシンラは、特に五右衛門の嫌味をスルーしてそのままイネインに狙いを定める。


 大きな隙を見せ、致命的な一撃かと思いきや軽傷で済んだイネインは『永久に生きる業火アゴニアス』を再び展開しようとするも、発動すらできない事態に1人困惑していた。



「言い忘れとった。お主の『火』を含む五行の力はしばらく使えんので気をつけるんじゃぞ」


「そんな出鱈目なことがッ!?」


「『八之俣分奪求大蛇懐刀ヤマタノオロチ』」



――ギャオォォォォォォォォッ!!



 五右衛門の『強欲グリード』と『智慧の本源を断つ刃アマノムラクモ』の合わせ技の1つである『五行天滅封羅ノ太刀ゴギョウハメツノタチ』。

 相手に直接ダメージを与えることに成功すれば、相手の五行に関する全ての力を一定時間封印することができる効果がある。


 五右衛門の言葉に反応し、またも隙を見せてしまったイネインに8つの首を持った霊体の蛇竜が襲い掛かるのであった。



 

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