第14話 『傲慢』vs『勇気』&『信仰』


「ハクちゃん……ナイス着地」


「……力出して大丈夫そ?」


「転移できるようになったから、もう根の迷路邪魔だし、天使を墜とすには丁度良いってマスターが言ってたんだ」


「……けっこう危なかったかも?」


「幹部いなかったけど、手前の城2つ壊してから来たんだから許してよ。僕でも城2つ壊すのに1分はかかるんだからさ」


「……さすが。邪魔にならないように小さくなっとくね」


「うん」



――ゴゴゴゴゴゴゴッ!!



 突然の強襲、そして目の前で語られる衝撃の発言に絶句し動けずにいるフォティアとジブリール。

 あっさりと『讀言』と『神域は焼灼に至りてテオ・ビッグバン』を打ち破り、天が泣いているのではないかと勘違いするような闘気と邪気を放っている異質の存在に、2人は経験したことの無い恐怖を感じていた。


 団子くらいの大きさになったメルクリウスを、自分の頭の上に乗せたハクは『私だけが唯一絶対ゼロ・スペルビア』を解放する。

 これを発動してしまえば、メルクリウスですら何もできない存在へとなってしまうため、事前に小さくなって避難したのである。



――バキバキバキバキッ!



 ハクの『私だけが唯一絶対ゼロ・スペルビア』の影響で、真下に展開されているレーラズの根の迷路が崩壊していく。

 迷路内にいたスケルトンと天使たちが崩壊して砕け散って行く根と共に落ちていく。発動していた能力も強制的に解除され、発動すら許して貰えないハクの『私だけが唯一絶対ゼロ・スペルビア』、バフの掛け合いで戦う天使たちのステータスバフすら許すことなく、範囲内の全てを無力化していく。


 フォティアとジブリールは動けずであり、自分たちの『美徳』の力も、神熾天使としての力も解除され、無防備になったのに身体が言うことを聞いてくれない未知の状況。



「『讀言』をどうやって…? ここには乱入できないはず……気配すら感じなかった」


「僕の『神域は焼灼に至りてテオ・ビッグバン』が簡単に……」


「……お前ら塵と僕を同じ土俵で語らないでくれる? 虫唾が走っちゃうよ」



 メルクリウスの『嫉妬エンヴィー』の力もあり、完全にメルクリウスにしか意識がいっておらず、自分たちの城がさらに2つ壊されたことも感知できず、ハクという存在が暴れていることすら気付くこの出来なかったフォティアとジブリール。


 ハクからすれば、最早ただ存在しているだけの塵レベルになった2体の神熾天使、根の迷路が完全に崩壊していくのを確認しながら、仕留めるべく『傲慢プライド』の魔力を放出していく。



「僕が力だしてると、誰も転移できなくなるから終わらせる」


「ジブリールッ! どうなっているんだ!?」


「飛行は出来ます! 全力で退避すべきですッ!」


「逃げれるわけないじゃん……『独覇道・無限廼終卓ムゲン・シマイノタク』」



――ブワッ



 魔王戦争数日前に天使たちに訪れた恐怖。


 全力で逃げようと提案し合うフォティアとジブリールにむかって展開されたのは、ハクの最強結界である『独覇道・無限廼終卓ムゲン・シマイノタク』。

 数日前に天使たちを壊滅させ、天使たちに恐怖を刻み、『七元徳』のDEの残量をボロボロにした地獄のスキル。


 崩壊する根の迷路から脱出しようとしている大量の天使たちもまとめて滅ぼすためにハクは狙いを定めてスキルを放つ。



「『清らかなる一色滅界チンイツ・メツ』」


「「ッ!?」」



――グシャッ!



 何かが潰れるような音ともに、なんともアッサリと神熾天使2体が真っ二つとなり絶命する。

 『清らかなる一色滅界チンイツ・メツ』の効果は最初に斬った者と同じ種族を連鎖的に滅殺していくというもの、根の迷路から抜け出そうとする天使たちも本人たちが気付かぬ間に真っ二つとなり消し飛んでいく。


 

――バグッ!



 神熾天使の2体が消滅してしまう前に、ハクは『独覇道・無限廼終卓ムゲン・シマイノタク』と『私だけが唯一絶対ゼロ・スペルビア』を解除する。

 ハクが能力を解除した瞬間、能力が使用可能になったメルクリウスは死体となった神熾天使2体を素早く『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』で吸収する。


 『七元徳』との魔王戦争における最大の障壁である神熾天使2体を瞬殺しても、特に喜ぶこともなく、根の迷路が完全に崩壊し、ハクの効果範囲内にいた天使が『清らかなる一色滅界チンイツ・メツ』によって全滅していることを確認しているハク。



「あんだけ僕らの戦い方研究したみたいな感じだしてたのに、おバカな考え方でやってきたんだろうね?」


「……天使全員、自分たちの方が絶対に強いって思ってる。細かな作戦なんて実行しなくても、簡単に首を獲ってやろうって野心に塗れてた」


「僕より『傲慢』な連中だね……群れなきゃ弱いのに、少数で戦おうとするなんてさ♪」


「……ますたーのところまで行こ」


「情報の持ち帰り!」



 終わって見ればお決まりの戦い方で勝利を手に入れた2人。

 『七元徳』との魔王戦争でソウイチが決めた鉄則とも言えるようなルール。様子見や油断をしてくる『美徳』を集団で囲んでやっちまうか、転移解放後の不意打ち殺しで相手の強みを出させる前に殺す……いつもとそこまで変わらないが、この戦い方を徹底したことが現状の圧倒的有利を作り出しているともいえる。


 『七元徳』側がまったく予想することができなかった『枢要悪の祭典クライム・アルマ』が2人以上で行動するという行為、個々の能力の影響が大きすぎて足を引っ張りあってしまうので、基本的にやってこなかったことだが、組み合わせを考え、戦う相手もソウイチが事前に想定しているので、隙の無い戦争運びになっている。



「一応相手の幹部は後2人だっけ?」


「何人いても変わんないよ」


「……油断させて実は残り10体とかいると面白いけど」


「まだ始まって1時間くらいだけど、今のところマスターの想定通り♪」


「……色々考えすぎて、どうなっても想定通りってなりそうだけどね。この展開の後に敵のどんでん返しあるって言ってた」


「確かに……帰ろうか」


「は~い」



 魔王戦争開始から、まだ1時間も経過しておらず言ってしまえば始まったばかり、しかし『七元徳』の幹部格はこの戦争ですでに4体倒されてしまっている。

 死体があればジブリールの『信仰マディス』で復活させることができるのだが、元々死体を回収し記憶を喰らって作戦を立てるソウイチとは相性が非常に悪かったとも言える。


 復活方法があるのにソウイチがわざわざ許すような戦い方をするわけないのだが…。


 圧倒的な不利状況に陥った『七元徳』側は、アクィナスがダンジョンから戦場に出てきて、最奥の六封城周辺で守りを固めている。

 

 魔王戦争を観戦している者達からすれば、勝負が決まったような感じがしてしまう流れではあるが、アクィナスが前線に出てきたことがあれほど恐ろしいことだとは、ソウイチ達はまだ知らぬことなのであった。


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