第13話 『見る者』と『言葉』


 フォティアとメルクリウスの戦闘に転移してきたのは、『信仰マディス』の『美徳』を司りし神熾天使ガブリエル。

 『神の言葉』という異名を持ち、アクィナスから『ジブリール』という真名を授かっている者である。


 『大罪』大好きな転移直後の不意打ちをやったは良いが、見事に凌ぎ切られてしまい、少しバツの悪い顔をするジブリール。

 簡素な白服を身に纏った金髪イケメンは、人間形態へと姿を変えたメルクリウスに驚きながら、フォティアのほうへと近づいていく。



「攻め手は同じで対応しやすそうですが、守りはカッチカチですね」


「僕はギアが上がってきたから、そろそろ行けるぞ!」


「なら私はサポートに回ります。『我らが戦地に乱入者無し』…これで良いでしょう」


「……本当に面倒」


「僕らの能力知られてるから気を付けろ! 気か何かに反応して蛇が飛んでくる!」


「それは事前に主から知らされていたことでしょう」


「……あれ?」


「とにかく、あの水の結界は凄いですね。お相手も結界内からは攻撃できないようですが……」



 『神の言葉』の異名。その由来はジブリールのスキルの1つである『讀言』の影響が大きく、1つの条件をあらゆるモノを無視して最優先事項にすることができる力という少し難しい効果である。

 『我らが戦地に乱入者無し』、これは2対1の状況を確実に続けるために使用した『讀言』であり、アフェクトが複数体の幹部格にやられてしまったことから、『大罪』の幹部格複数とやるのは、1番危険と判断した結果のスキル使用である。

 これでこの戦いに転移や何かしらのスキルで乱入することは、基本的には不可能となったのだ。



「…はぁー……」



 『捻じれ逆巻く母なる海レヴィアタン』で身を守りながら、援軍としてきたジブリールの能力を思い出し、深くため息を零してしまう。

 元々正面向き合って戦うタイプではなく、感知や守りの面で優れているメルクリウスなので、この状況は非常によろしくないのである。


 メルクリウスは、敵のヘイト意識の操作・感情操作・気配遮断に気配察知と万能ではあるが、2対1の状況ではあまり使いづらく、神熾天使ともなると状態異常や精神汚染に対して耐性があるので、どうしたものかと悩んでいた。



「『信仰マディス』……か」


「あの結界……解除してくれそうにないですね」


「僕が力溜めるから……見張ってて!」


「了解です」



 七つの『美徳』の1つである『信仰マディス』。

 その力は神熾天使ですら死体が存在していれば復活させることのできる蘇生能力と、存在するだけで天使系統の種族以外にデバフを付与することができるもの。

 特に復活能力が超強力であり、低燃費で短時間で復活させることができるので、神熾天使を倒しても、死体があれば何でも蘇り戦うことになるという地獄を創り出すことが出来るのだ。


 今は発動していないが、天使系統の味方が近くにいればいるほど、自身のステータスがバフされる効果もあるので、天使らしい集団で輝く存在なのである。


 メルクリウスの『捻じれ逆巻く母なる海レヴィアタン』が、相当頑丈であることを認識しているので、変な攻撃は加えずに、フォティアはひたすら闘気と『聖神力』を溜め続け、ジブリールは『捻じれ逆巻く母なる海レヴィアタン』が解除されないかどうか見張り続けている。



「貴方がイスラフィアの死体を取り込んだと聞きましたが……貴方を殺せば死体は返却されるので?」


「……それはない」


「……蘇らせることは叶いませんか」



 現状の魔王戦争で『七元徳』側が大打撃を受け、一気に崩れるキッカケになってしまった根の迷路とソウイチの『憤怒』の魔力付与効果をもったスケルトンの大爆発進撃、崩れた戦況を立て直すのに適した能力セットを備えていたイスラフィアの不在をどうにかできないかと、メルクリウスに問いかけるジブリールであったが、それは叶わないとのことで軽く落胆する。


 すでにこの魔王戦争で『七元徳』側はフロネシスとアフェクト、2体もの真名持ちを失ってしまっている。

 いくら天使たちの数で戦況を少しは拮抗させることができるとは言え、すでに1つ目の六封城が落ちてしまっている。

 『信仰マディス』の力で7人の『美徳』を揃え続けることが勝利に近いこと、真名持ち数で劣っており、勢いも負けている中で逆転する術は多くない中、ジブリールはさらに頭を回そうとするが…。



「……けっこう余裕なんだ」


「表情に出てしまっていましたかね? 確かに3名もの友を失い、客観的に見れば敗戦も時間の問題かと思いますが……我らには主がおられますから」


「ジブリールが前線に来たってことは、主が表に出てきたんだろう?」


「えぇ……自軍奥地の根は全て消し飛ばしておりました。北側の六封城の守りにとりあえず入るそうです」


「ふむ……もう少し溜めさせてくれッ!」


「まだ30秒しか経過してないので構いません」



――ゴゴゴゴッ!



 空気が揺れるほどの闘気と『聖神力』を溜めるフォティア。


 『捻じれ逆巻く母なる海レヴィアタン』の中でジブリールと会話に花を咲かせるメルクリウスは、この状況を切り抜けるべく幾つかの策を頭の中で組み立てていく。

 何かしら行動するにも、必ず『捻じれ逆巻く母なる海レヴィアタン』を解除しなくてはいけない状況、維持し続けてもフォティアに破壊されてしまう可能性が有り、解除のタイミングもジブリールに見張られ続けている。

 気配遮断も自身が1人ではそこまで効果が無く、分裂体もジブリール相手では長くは持たない……簡単に言えば状況は不味いのである。


 そして、フォティアが手を上に掲げると、超巨大な火球が燃え盛る。



(ますたーが言うよりも早く『七元徳』が前に出てきてる)


「このままでは私が灰になりそうなのですが……そろそろ溜まりましたか?」


「ふぅ~……良し! 行けるぞッ! 『神域は焼灼に至りてテオ・ビッグバン』の準備完了だ!」


「……確かに不味いかも」



――ゴゴゴゴゴゴッ!



 その姿はまさしく太陽の如くと言わんばかりの超巨大な火球。

 フォティアの闘気に『聖神力』、そして『勇気ブレイブ』の魔力をタンマリとつぎ込み、何故かフォティアのメンタル状態が正常である限り消えることなく燃焼と爆発を繰り返すループスキルとなっている『神域は焼灼に至りてテオ・ビッグバン』。


 『神域は焼灼に至りてテオ・ビッグバン』のあまりの圧力に、『捻じれ逆巻く母なる海レヴィアタン』の中で身を守っているメルクリウスも驚いてしまう。



「スライムに奥義を使うのは癪だが、これでこちらも幹部格を1人削ったというわけだな!」


「まだ倒してませんよ。灰になるのを確認してからにしましょう」


「……『嫉妬エンヴィー』舐めすぎ」


「水の盾の中に引きこもっているのに、随分なことを言うじゃないか! 正々堂々僕と戦ってくれればいいものを!」


「……『嫉妬エンヴィー』の魔力は感知を狂わせ、敵意を自在に操ることができる。1分もあれば十分時間は稼いだから……」


「私たちが貴方のことしか見ることができていないとしても、我が『讀言』の力でこの戦場に援軍は来ませんよ?」


「……過信しすぎ、それは傲慢」



――バキバキバキバキッ! パリンッ!



「……邪魔」


「「なっ!!」」



 何かが割れるような音とともに出現したのは白兎。

 立派なウサ耳をピョコピョコさせ、右手に持った太刀の一振りで『神域は焼灼に至りてテオ・ビッグバン』を真っ二つに消滅させた、『傲慢プライド』の『大罪』を司りし真祖神兎のハクであった。


 

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