第12話 『嫉妬』vs『勇気』


「フォティア様ッ! 他の神熾天使様の援軍を待たずして行くのは危険かと!?」


「アフェクトを落とし、主を悲しませた者をこれ以上放ってはおけないッ! 僕の力で打ち砕いてみせよう!」


「アフェクト様がいらっしゃった城から複数の幹部格の気配有り……さすがに危険です!」


「その恐怖と消極的な心……僕の背を見ていれば大丈夫ッ! 『大罪』を駆逐するぞ!」



――ドシャァァァァンッ!



 真っ赤で目立つ短髪に小柄に合わぬ立派な2対の白翼、右手に真紅の炎を宿し、レーラズの創り出した根の迷路を一直線に破壊しながら進む存在。

 配下の天使たちの忠告を無視しつつ、仲間がやられてしまったことに対して怒りの炎を燃やしている者の名は、神熾天使カマエル、授かりし真名を『フォティア』と言い、『勇気ブレイブ』の美徳を持つ存在である。


 元気な少女の外見をしていることから舐められがちだが、生粋の戦闘狂でありインファイターな彼女は、戦うことにおいては神熾天使の中でもトップ2とも言われており、アクィナスの怒りを買った者を容赦なく破壊しにいくということから、『神を見る者』とも呼ばれている存在だ。



「迷路内だと邪魔が入るから、上まで突き抜ける!」


「迷路外には偽天使が見張っているとの報告があります!」


「僕が偽物に負けるはず無しッ! 『赤い豹はトロキア・ディス燃え滾るトラクションッ!』」



――ドドドドドドドッ!!



 全身に真紅の炎を纏ったフォティアによる、根の壁にむけての全力タックル。

 瞬間火力に劣る天使では、なかなか厳しいとされていた根の壁を容易く破壊するフォティアの『赤い豹はトロキア・ディス燃え滾るトラクション』、轟音とともに天井を突き破り、根の迷路を上から脱出することに成功する。


 『勇気ブレイブ』の『美徳』、その力は『破壊の火』と『勇気の心』の2点に在り、『破壊の火』は文字通り、敵対者を燃やし破壊し尽くす容赦なしの『火』の力だ。

 そして『勇気の心』は仲間を恐怖やネガティブ心から守る力があり、フォティアが存在するだけで味方の攻撃ステータスが特大のバフになるという力もある。


 最前線で敵を破壊し、仲間たちの攻撃性能を特大バフすることで、仲間が攻撃的になって行くことから、いかなる天使も『破壊の天使』に変えてしまうと、他の神熾天使からは裏で言われているような能力の持ち主。


 そんなフォティアは、待ち構えていたかのように自分たちの方を見ていた偽ラファエルを5体発見し、配下の天使たちに何も言わずに突撃を開始する。



「色違いラファエル発見ッ! 行くぞ! 『心に勇ましき熱を、スピサ・カロール拳に撃滅の炎を・スブリマシオン!』」


「「「「「『裁きの神槍』」」」」



――ドシャァァァンッ!



 凄まじい速さで突貫してくるフォティアに対し、咄嗟の対応で『裁きの神槍』を放つ偽ラファエルたちであったが、まるで最初から無かったかのように、燃え盛るフォティアに触れるかというところで灰になって消滅していく。


 フォティアの全身を包む真紅の炎、そしてパチパチと音を鳴らしながら拳に宿っている橙色の炎、『心に勇ましき熱を、スピサ・カロール拳に撃滅の炎を・スブリマシオン』はデバフ効果のあるスキルを無効化する炎を纏い、拳には防御貫通の効果を持った炎を宿すスキルである。

 全身を纏う真紅の炎は、攻撃スキルであっても、デバフ付与の効果があればダメージごと無効化することができる優れた防御性能をしている。


 ラファエルのサポート力と遠距離攻撃を披露させることのない、超高速でのインファイト、燃え盛るフォティアは一瞬にして偽ラファエルを拳にて灰へと変えていく。



――グシャッ!!



「ッ!?」


「……速い」



 フォティアと配下の天使たちを襲ったのは、大量の『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』、いつもよりも2倍ほど大きくなった頭で、天使たちを一瞬にして喰い千切る。

 間一髪で回避することに成功したフォティアが上を見上げると、そこには巨大な龍が3匹、偽ラファエルが5体、そして龍の上には『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』を出しているメルクリウスがフォティアを見下げていた。


 フォティアが驚いたのは、驚愕の速さで伸縮する『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』ではなく、攻撃されるまでまったく気付くことができなかった気配遮断のほうである。


 一方のメルクリウスは『宵の水星』を使用し、完全に気配を断ちながら分裂体を産み出しつつ、隙を狙って仕掛けたつもりだったが、驚きの反応速度で回避されたことに驚いていた。



「……例のスライム、僕の配下をこうも一瞬で」


「……力は増しても、守りは変わってない」


「僕の『勇気ブレイブ』も知られてるのか……やりにくいけどッ!」


「……心の中までポジティブすぎてビックリ」



――ゴウッ!!



 配下の天使たちが一瞬にして倒されてしまったことを力に変えたかの如く、闘気と『聖神力』を全身に纏わせるフォティア。


 全身が真紅の炎で燃え盛り、先ほどよりも出力のあがっている『心に勇ましき熱を、スピサ・カロール拳に撃滅の炎を・スブリマシオン』、気合十分とばかりにフォティアがメルクリウスを見た瞬間……勝負は始める。



――ギャリリリッ!



「ッ! 『閃光は炎豹となりてスキンティッラ』」


「……もっと速い」



 フォティアの敵意に反応して、再び発動したメルクリウスの『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』、それを合図に分裂体の龍と偽ラファエルも遠距離スキルで迎撃を開始する。


 驚異の速さで迫りくる『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』を、メルが驚くほどの速さで弾きながら進むフォティア。

 敏捷性を時間経過で上昇させつつ、自身の打撃全てに『破壊の火』の力を宿す『閃光は炎豹となりてスキンティッラ』を使用したフォティアもまた、メルクリウスの『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』の伸縮速度と反応速度に驚愕していた。



――ドシャッ! ドスッ!



 大量の『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』を捌きながら行われる超高速インファイト、メルクリウスによって産み出された偽ラファエルや龍は反応することできずに沈められていく。


 次々と産み出されていく分裂体に飽き飽きしたのか、フォティアはさすがに狙いをメルクリウス本体に定めた。



「吹き飛べッ! 『烈日にて迸るプロミネンス・は紅炎の叫喚ドゥルヒブルフ!』」


「『捻じれ逆巻く母なる海レヴィアタン』」



――ドゴォォォォンッ!!



 フォティアの拳から放たれた燃える拳圧がメルクリウスの手前で大爆発を起こす。

 凄まじい轟音と熱気を広げたフォティアの『烈日にて迸るプロミネンス・は紅炎の叫喚ドゥルヒブルフ』は、メルクリウスの周囲にいた分裂体を一気に燃やし尽くした。


 メルクリウスは全てを拒否する水の結界である『捻じれ逆巻く母なる海レヴィアタン』で、自身と乗っている偽龍を『烈日にて迸るプロミネンス・は紅炎の叫喚ドゥルヒブルフ』から守る。



「本当にスライムなのか疑いたくなるな~。僕のスキルを受けて傷一つ無いなんて」


「……火力と速さは凄いけど……動きがわかりやすい」



――ギャリリリリッ!



「さすがに慣れたよッ! 『閃光は炎豹となりてスキンティッラ』」


「まだ速くなるんだ」



 フォティアの敵意に再び反応し、大量の『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』が襲い掛かるが、先ほどよりも速くなっているフォティアの『閃光は炎豹となりてスキンティッラ』に上手く捌かれていく。


 決して挫けることがなく、戦い中で鋭く強くなっていくフォティアの『勇気ブレイブ』の魔力、事前に知ってはいたが想像以上の力押しのスタイルにメルクリウスも手を焼いている戦況。


 そんな拮抗しそうな状況を打ち破る者が襲来する。



「『天罰』」


「『捻じれ逆巻く母なる海レヴィアタン』」



――バシャァァァンッ!!



「僕たちがペアを組むのは久々じゃない? 『神の言葉』様」


「せめて『信仰マディス』と呼んでください……フォティアさん」


「……面倒くさい」



 メルクリウスの周囲に急に出現し、大爆発を起こす光球。

 咄嗟に『捻じれ逆巻く母なる海レヴィアタン』を発動して難を逃れ、メルクリウスは援軍としてやってきた者をスライム形態から人間形態へと変形しながら見つめる。


 フォティアの援軍に現れたのは、金髪に翡翠色の瞳をした爽やか青年の姿をした神熾天使。

 『信仰マディス』の『美徳』を授かりし者ガブリエルであった。


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