第11話 『色欲』vs『愛』


 感知した者の名を記し、悪しき者であれば『愛』をもって『死』を送る役目を授かりし神熾天使アズライール、真名をアフェクト。

 『タナトス』の『美徳』を授けられ、全身に蠢くようになった眼で見つめれば、敵味方関係無く支配してしまう驚異の力を手にし、味方天使からも恐れられようとお構い無しに使命を全うし続ける冷徹な天使。


 ガラクシア・イデア・デザイア&ニャルラトホテプを前に、とにかく1体を支配し優位に立とうと立ち回った結果、同じような精神支配系統の能力を持ち、遠距離スキル豊富なガラクシアとのスキルの打ち合い中放たれた、敵味方関係無しの『宙を射貫くはカタストロフィー・破滅と終夜エバポラシオン』。


 外部から破壊出来ない城を内側から破壊していく白黒の極光は、アフェクトの封印ヴェールを焼き尽くし、かなりの損傷を負わせていた。



「……何個眼ついてるの?」


「……無詠唱でこの威力……無差別と言えど恐るべし」


「馬鹿者ッ! 妾を殺すつもりか!?」


「詠唱して知らせてくれないと危ないんだけど……まったく」


「2人なら余裕でしょ~? 天使さんだってピンピンしてるもん♪」


「そこそこのダメージ入っておるようじゃが……」



 無詠唱と言えど、『罪の牢獄』で1番のアビリティ数を誇り、様々なバフを得ているガラクシアの極闇魔導は、容易にアフェクトの守りを破壊しダメージを与えたが、この後の仕込みをしていたイデアとデザイアたちにはさすがに叱られているガラクシア。


 戦闘中とは思えないほど和みある光景に、アフェクトは少し恐怖を感じていた。



(我ら天使とは違い……標的を殺すことのみを考えられた魔物)



 これまでの『大罪』の戦いでも判っていたことだが、あまりにも戦闘に特化……それぞれの形で殺傷することに尖っている魔物たち集まり、そしてあまりにも援軍が来ないことに驚くアフェクト、おそらく援軍に向かってきてくれていたはずの天使たちはイデアとデザイア&ニャルラトホテプに葬られてしまったのだろうとアフェクトは察する。


 事実アフェクトの援軍として大量の天使たちが六封城に向かっていたのだが、『星空領域スターリーヘブン・無窮ノ夜エンドレス・ナイト』の中に入る前にイデアたちに始末されており、変わらぬ数的不利状況なのである。


 幹部格による集団突撃、『七元徳』側がまったく予想できなかった数的不利の戦い、アフェクトは全身の眼に『聖神力』と魔力を集中させる。



「周囲の天使は妾とニャルで抑えるから、とっとと終わらせるのじゃ」


「イデアとペアだね! 気を取り直して行くよ♪」


「話してる隙に、お相手さん大技放ってきそうだけど?」


「……随分余裕なのだな」


「自分と死体の位置を入れ替えられる能力あるんだも~ん……消し飛ばせなかった死体と入れ替わられると面倒だから、仕掛けてもらったほうが良いかなって!」


「お主アホじゃな。なんで敵に作戦をバラすのじゃ……」


「でも動揺してるからチャンスじゃない?」


「言わなくて良いんだって……」



 ガラクシアの天然な発言にツッコミが止まらないイデアたち、イスラフィアの記憶から手に入れた情報で、アフェクトの能力はほとんど把握されており、事前にどのような方法が1番省エネかつ手早く倒せるのか話し合われた上での戦闘なのだ。


 『死魂交換』という自身のスキルが知られていた事実に対し、ガラクシアが言うように動揺してしまったアフェクト、目の前で繰り広げられる隙だらけの漫才行為にも手が出ずにいたが、ここまでコケにされて黙っているわけにもいかず、溜めた『聖神力』と魔力を解き放つことにした。



「死あるからこそ命に価値あり、永久の眠りを届けし光、我裁定するは悪に溺れし汚れの魂……極光魔導『邪なる魂を滅するリュミエール・デ日輪と大地の祈願ユ・ソレイユ』」


「こんな近距離で詠唱なんかしてたらマスターに怒られない? 根源魔導『ゾビアーの水鏡』」


「デザイアちゃん鏡の前に魔物創って!」


「もう出しとるわ……眩しいから妾は隠れるぞよ」



――キィィィィィンッ!!



 アフェクトの全身にある眼から放たれる幾多もの光線。

 先ほど放った『死眼愛握』の完全上位互換とも言えるような威力と魂に与えるダメージ力を持つ『邪なる魂を滅するリュミエール・デ日輪と大地の祈願ユ・ソレイユ』、燃費が非常に悪い魔導ではあるが、自身が悪と定めた者を追尾する効果があり、逃がさず殲滅することができる大技なのである。


 本来ならば、崩壊しかけている六封城を跡形も無く吹き飛ばすほどの威力を誇る『邪なる魂を滅するリュミエール・デ日輪と大地の祈願ユ・ソレイユ』だが、周囲を一瞬閃光で包んだと思いきや、イデアの正面にある水鏡に収束していってしまったのだ。


 イデアが放った『ゾビアーの水鏡』、その鏡に映っていたのは、焼け焦げボロボロになり、全身の眼から血を流すアフェクトの姿であった。



「……馬鹿な……」


「魂へのダメージが大きすぎて、肉体も崩壊しかけちゃってるね。さすが魂に影響を与えることに特化した天使」



――ドシャッ



 イデアの根源魔導『ゾビアーの水鏡』は正面にいる相手を映し出して身代わりにする謎理論なスキル。

 『ゾビアーの水鏡』の前に産み落とされた魔物に光が収束し、そのままの勢いで鏡に映ってしまっていたアフェクトの魂にダメージを与えた。


 魂が崩壊寸前までボロボロになり、肉体にも多大な損傷を負ってしまったアフェクトは地面に落ち、なんとか倒れ伏さないように意識を保ちながら、ガラクシアたちを睨みつける。



「あんなに目の前で詠唱されたら、それは仕方ないと思うけどね。マスターだったら爆笑してたよ」


「トドメの『蝕犯月光エクリプス・ルナ』だよ♪」


「……れず…か」


「妾ら目掛けて……凄い勢いで向かってきおる天使がおるのぅ。気配からして神熾天使じゃろうが……コアを壊せば転移可能じゃし、他の者に任せるとするかのぉ」


「洗脳したのは良いけど、ボロボロだなぁ~……デザイアちゃんとイデアちゃん治して!」


「治した瞬間元通りってことは勘弁だよ? 私たちが集団でいる時点で互いに悪影響だして少し弱体化してるんだから」


「そんな簡単に『色欲ラスト』は破られませ~ん♪ コア壊し終わったら結界解除するね~♪」


「妾たちが集まれば、さすがにすぐに終わったのぅ。最初の封印解除までの時間にこだわっておった主も大喜びじゃろうて……妾はコアを壊してくるぞよ」


「「は~い」」



 『大罪』と『七元徳』の魔王戦争で1番重要だと思われていた、最初の封印解除にむけた攻防。

 誰も予想だにしないほどにアッサリとソウイチが1つ目の封印を解除してしまう。

 『枢要悪の祭典クライム・アルマ』による集団での突撃という『七元徳』側が予測できなかった戦術による破壊行為は、まさしく痛恨の一撃とばかりに大成功を収めた。


 ガラクシア・イデア・デザイア&ニャルラトホテプという遠距離のスペシャリストたちが揃った結果、近距離&精神汚染を主としたスタイルのアフェクトを容易に打ち砕いた。

 アフェクトは最大の武器である鎌を1度も振ることなく、イデアにも指摘された敵を眼前にしながらの悠長な詠唱を行ってしまい見事に返されてしまった。


 デザイア&ニャルラトホテプにより援軍に来ていた天使を滅され、コアも破壊されてしまった今、転移系統の制限が解除された。



「スケルトンにスライム分裂体、妾とイデアの創造物……主大好物の数の戦いもこれでやれるのぅ」


「戦争開始から10分も経ってないし、予定より少し早い感じだね♪」


「さぁ……次行こう」



 魔王戦争開始から僅か10分程、『七元徳』側の幹部格が2体も早々に落とされる衝撃の展開。

 『枢要悪の祭典クライム・アルマ』による今まで見せてこなかった集団による力押し、根の迷路を創られてから完全に迷走してしまった天使たち、流れは『大罪』側に傾いたが、『美徳』を2体も失い怒りに燃える存在が今、『大罪』陣地に凄まじい勢いで向かっているのであった。

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