第10話 『異形』の天使


――『七元徳』側 『南』六封城 



――ドシャァァァァンッ!!



 『七元徳』軍陣地、『大罪』の陣地に1番近い場所にある南の六封城の門が重力の波に飲まれて潰れてしまう。

 ガラクシア・イデア・デザイア&ニャルラトホテプという、『七元徳』側がまったく予想していなかった『枢要悪の祭典クライム・アルマ』の集団突撃を受け、天使たちの鉄壁の守りと連携が一瞬にして崩壊していく。


 六封城の封印の効果で、とてつもないほどのバフを受けている天使たちを塵のように吹き飛ばしていく4体の連携攻撃。


 ガラクシアが天使が苦手とする闇魔法・闇魔導を中心に放ち、特に範囲が広く対応が難しい『飲み込み滅する深淵ダークマター』で前線を押し上げ続ける。

 イデアはガラクシアの遠距離スキルをサポートしつつ、天使の死体を使って偽天使を創り出し、他の六封城へと繰り出している。

 デザイア&ニャルラトホテプは、天使たちの攻撃や付与スキルを妨害し、天使たちに逃れようのないデバフを付与して弱らせていく。


 ガラクシアの能力の大半を無力化できるイデアとデザイア&ニャルラトホテプであるが、自身の力を出しすぎるとガラクシアに影響が出てしまうので、良い感じのところで連携しているようだ。



「ハクがDE削ったから、熾天使さんたちがいないねぇ~……でも数多いよ!」


「『主天使ドミニオン』や『座天使ガルガリン』、他にも竜種なんかはしっかり居るから油断しないように!」


「さすがに妾らが集まると楽ではあるのぅ。援軍が来る前に終わらせてしまおうぞ」


「城はコアが壊れないと破壊不可らしいからねッ! 禁忌魔導『銀ノ雨ハ穢アトミック・ドローレレヲ抹消ス・ジ・テンペスタ』」



――ゴシャァァァァンッ!


 

 ガラクシアの周囲に展開された銀色の小さな雫が、次々と飛来していき天使たちを消滅させていく。

 本来ならば城を外から吹き飛ばせば速い話だったのだが、コアを破壊しないと城は壊れないルールとなっているので、内部からコアを目指して進んでいくしか無い状況、ガラクシアの広範囲スキルを中心に難なくコアのある広間へと近づいている。


 『色欲ラスト』『偽神ヤルダバオト』『欲夢パッシオン』が揃っていれば、次々と天使たちはガラクシアたちの配下へと変貌していく、洗脳され、創り変えられ、変身させられたりと様々な方法で支配されては、別の城へと特攻隊として扱われていくという天使の数の多さを利用されている状況でもあり、完全に『大罪』側が優勢に事を進めているようである。


 天使や天使が呼び出す召喚獣たちの連携を難なく破壊していき、ガラクシアは1番乗りで封印のコアがある広前に辿り着く。



「……ミステリアスな天使発見♪」


「マスターの読み通りかな。たぶんアレが幹部の一人だったはず」


「五右衛門より大きいくらいじゃが……天使にしては『死』の臭いが濃いのぉ」


「………」



 コアの目の前で堂々と浮かんでいたのは、ヴェールのようなもので全身をグルグルに巻かれており、2対4枚の白翼を靡かせ、右手に黒い本、左手に巨大な鎌を持った天使にしては巨体型の存在。


 『神と魂の監視者』と呼ばれる『七元徳』の幹部が1体。

 『タナトス』の『美徳』を司る神熾天使アズライール、アクィナスより授かりし真名を『アフェクト』と言う。


 ヴェールで全身を隠す異形の天使、自身の感知範囲に来た存在の名を自動的に記す『審判名簿』と魂を肉体から切り離すことのできる『魂魄死鎌』を武器に、天使としては珍しい闇系統のスキルも使用できるタイプの神熾天使。



「『星空領域スターリーヘブン・無窮ノ夜エンドレス・ナイト』発動♪ ……2人とも準備は終わりそう~?」


「私の方は後少しだよ」


「妾も残り僅かじゃな」


「じゃ~頑張っちゃうぞ! 禁忌魔導『銀ノ雨ハ穢アトミック・ドローレレヲ抹消ス・ジ・テンペスタ』」


「……『救済死黒』」



――フォンッ



 六封城の周囲が星の輝く夜の世界へと覆い尽くされる。

 ガラクシアが力を発揮することのできる『星空領域スターリーヘブン・無窮ノ夜エンドレス・ナイト』が展開され、『星空の魅力スターウラノス』によって威力が格段にあがっている『銀ノ雨ハ穢アトミック・ドローレレヲ抹消ス・ジ・テンペスタ』を発動する。


 そんなガラクシアに対し、アフェクトは自身の周囲に小さい黒球を生み出し、同じようなスキルで迎撃しようとどっしり構える形。


 そんな2人を見て、イデアとデザイア&ニャルラトホテプは自分たちに任されている準備を先に終わらせようと意識を集中させる。



――ドドドドドドッ!!



 同じタイミングで対象へと飛来する、ガラクシアの『銀ノ雨ハ穢アトミック・ドローレレヲ抹消ス・ジ・テンペスタ』と、アフェクトの『救済死黒』、小さな球体同士がぶつかり合って互いに消滅していく。


 『救済死黒』は『銀ノ雨ハ穢アトミック・ドローレレヲ抹消ス・ジ・テンペスタ』と同じように、触れたモノが生物であれば魂にダメージを与え、スキルであれば相殺できるスキル。


 アフェクトのスキルは、敵の魂や魔力にダメージを与えるものが多く、守りにいくら優れていようと貫通するものが大半、そして『タナトス』は対象に割合ダメージや妨害系統のものが多く、正面での戦闘には自信のあるタイプなのである。



「なんか居るよ~! 回復系の天使じゃん……面倒だなぁ」


「アフェクト様……援護させて頂きます」


「……汝らの働きに期待しよう」


「「「「ハッ!!」」」」


「その布とって本気出さないの?」


「……その必要性はまだ感じぬ」


「そっか♪」



 アフェクトの周りに集まってきたのは4体の熾天使ラファエル。

 イスラフィアには遠く及ばないが、支援能力は天使の中でもトップということもあり、六封城の効果で回復スキルが阻害されないことを良いことに、ひたすらアフェクトにバフをかけ続ける。


 ガラクシアはアフェクトの本気を出さない発言に少し感じるものがあったようだが、イスラフィアを喰らったメルから事前に情報は聞いているので、油断はせずに魔力を集中させていた。



「『色の狂うはデス・テン愛情と愛着プテーション♪』」



――ブワッ!!



 桃色の魔力と邪気が勢いよく広間に広がる。


 『色欲ラスト』の魔力で精神を犯し支配するスキル、アフェクトの支援に回っていたラファエルたちは一瞬にして表情を失い、アフェクトへの付与魔法の手を止め、虚ろな瞳をもってアフェクトをただ見つめていた。


 洗脳されたことに素早く気付いたアフェクトの行動は速く、両腕に巻かれていたヴェールが解けていき、大量の目が蠢いている白い腕が現れる。



「『死眼愛握』」



――キィィィ―――ン



「すんごい腕だねぇ~」


「……『タナトス』を受け入れぬか」


「洗脳するのは好きなんだけど、されるのは嫌♪ お互い様だね! 魔力チャージ完了したし……行くよ♪」


「汝の技と同じにするでない。『穿眼愛気』」



――ドドドドドドッ!



 アフェクトの両腕の眼たちから一斉に魔力の光線が撒き散ららすように放たれる。

 味方であるはずのラファエルですら容易に貫き殺していく無慈悲の光線は、不規則な軌道を描いてガラクシアへと迫っていく。

 

 アフェクトは全身の至るところに眼が蠢いている異形の神熾天使。

 その眼に見つめられれば、アフェクトの『タナトス』により死ぬまで支配され、完全に自由を奪われてしまうという『七元徳』ですら扱いに繊細にならざる終えない力、普段はヴェールで隠しているが、一度封印を解いてしまえば、全てを支配し魂を肉体から切り離すという『タナトス』を振りまく神熾天使。


 アフェクトが放った『穿眼愛気』も、掠ってでもしまえば、身体の自由は奪われ、魂は汚染されて徐々に支配されてしまう極悪なスキル。



「吹っ飛んじゃえ! 『宙を射貫くはカタストロフィー・破滅と終夜エバポラシオン!』」



――ゴゴゴゴゴゴッ!



 ガラクシアを中心に巨大な白と黒の魔法陣が一瞬して六封城を覆い尽くす。


 大きな地鳴り音とともに放たれたのは、天へと伸びる白黒の極光。

 六封城は壊れずというルールではあったが、それは外部からであり、内側から天へと伸びていく極光は城の天井を消し飛ばし、いともたやすく六封城を破壊していく。


 無詠唱にしてこの威力、『星空領域スターリーヘブン・無窮ノ夜エンドレス・ナイト』という力を発揮できる環境下での使用だったので自信ありげなガラクシアだったが、巻き上がる砂煙の中に、しっかりとアフェクトの気配があることを感じると、思わず苦笑してしまうのであった。




 


 

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