第9話 止まらぬ『流れ』


 レーラズとシャンカラによる華麗な連携不意打ちが決まり、魔王戦争開始から数分で『七元徳』側の真名持ちが死亡してしまう展開。

 他の天使たちに見えるような形で撃墜されたフロネシスの影響は大きく、単純な強さで天使トップクラスであったフロネシスが開幕直後に負けたことは、天使たちの自信に罅を入れ、『大罪』軍への恐怖心を植え付けるには十分であった。


 レーラズが創り出した根の迷路は成長と再生を続けており、SS・EXランクで構成された天使たちでさえ突破に苦労しており、ソウイチとバビロンのスケルトン爆破作戦も相まって、最初の六封城でさえ辿り着けていない戦況である。


 なんとか根の迷路から脱出し、自分たちの得意としている広々とした大空へと飛び出した天使たちの前に現れたのは衝撃の存在。



「ど、どういうことだッ!?」


「イスラフィア様ッ!?」


「落ち着くのだッ! アクィナス様がおっしゃっていたコピー能力を持つ魔物だ! こんなにも大量のイスラフィア様がおられるわけなかろう!」



 『七元徳』の天使たちの前に現れたのは、『天海の旅魚ラビエル』を周囲に漂わせた神熾天使、帝都での戦いで死んだはずの『節制テンパランス』の『美徳』を司りしイスラフィアの少し色違いの集団であった。


 通常のラファエルと違い、『節制テンパランス』の象徴である『天海の旅魚ラビエル』と、神熾天使の特権である『聖神力』を纏っており、所々色が違うだけで他は同じなのもあり、天使たちに動揺が走ってしまう。


 正体はイスラフィアの一部を喰らってコピーできるようになった、メルクリウスの分裂体なので、実際のイスラフィアよりもワンランク弱いのだが、それでも神熾天使以外の天使を一蹴できる力はあるのである。


 そんな偽イスラフィアが10体も飛んでおり、それぞれが『聖神力』を集中させながら、根の迷路を脱出してきた天使たちを迎撃する。



「「「「「『神が求めるは不朽なる身サーナーティオ』」」」」」


「「「「「『不浄を流す翡翠の川ポティスティリ』」」」」」



――ドシャァァァァッ!!!



 5体の偽イスラフィアが全体に『神が求めるは不朽なる身サーナーティオ』でバフをかけ、能力値や再生力を底上げし、他5体の偽イスラフィアが天から降り注ぐ怒涛の濁流である『不浄を流す翡翠の川ポティスティリ』を放つ。


 メルクリウスの分裂体のスキルなので、元のイスラフィアのスキル効果よりも断然劣ってしまってはいるが、数の暴力と言わんばかりのスキル数で押し切ろうという構えである。



「退避せよッ! 偽物であってもスキルは同じ! 我らの攻撃は打ち消されてしまうので無駄打ちは控えよッ!」


「ゴボボボボボボボボッ」


「お助けをォォォォォッ!」



 さすがに天使たちはイスラフィアの力を知っており、生半可な迎撃では、全て『聖なる秤はヴァ―ゲ・ミル万象を整える・テンパランス』によって打ち消されてしまうことを知っているため、どうにか回避に務めようとするが、天から降り注ぐ超広範囲の濁流を避けきれず、大量の天使たちが圧し潰され流されていく始末である。


 さすがのメルでも神熾天使の分裂体は数に限度があるが、10体でも恐るべき制圧力を発揮しており、根の迷路を正規ではないルートで強引に脱出してくる天使たちを次々と沈めていく。


 一度脱出した穴はレーラズの力ですぐに修復されるので、より強靭な根の迷路へと進化することにも繋がっており、戦場はさらなる地獄絵図へと姿を変えていくのであった。









――『七元徳』側 『南』六封城 入り口付近



――ドドドドドドドッ!!



「スケルトンどもが来たぞ! 爆発に注意せよッ!」


「遠距離スキルで崩すのだッ!!」



 自信家の天使たちが自分たちが守るべき六封城の入り口で、Gランクという最低クラスの魔物であるスケルトンに慌てるという前代未聞ともいえるような光景。


 本来ならば、六封城の守りはラファエルやアリエルのような真名は無いが、最高クラスの天使である熾天使たちが守るのが一番なのであるが、魔王戦争前に『七元徳』のDEが大量に減らされるという事件が発生し、熾天使たちは最奥部の守りに配置されることになってしまっているのだ。


 バビロンの『強化蘇生』と、ソウイチの『大罪』付与による厄介スケルトンの雪崩に対し、天使たちは各々の遠距離スキルを放って、スケルトンの波を食い止めるよう迎撃を開始する。



「フロネシス様が落とされたが、まだ城は1つも落とされておらんッ! 『大罪』の幹部は単独行動を基本とする! 転移できぬ状態ではあるが見逃さぬようにせよ!」


「スケルトンと偽物の我ら以外の魔物を見つけ次第、すぐ報告するのだッ!」


「し、しかしフロネシス様は複数の幹部と戦っていたのではと聞きましたが!?」



 フロネシスが撃墜されたことは、一瞬で天使たちに報告され、激しい動揺を生んだが、スケルトンの大群が落ち着くことを許さず、迷路を綺麗に抜けてくる圧倒的な数に押され気味なのである。


 『七元徳』軍も攻めに天使の数を費やしているが、偽ラファエルと根の迷路、ソウイチの『憤怒』付与の影響でまったく上手くいっていない戦況。



「ッ!? 強い魔力が来るぞ!」


「闇魔導だッ! 少し下がるのだ!」


「『飲み込み滅する深淵ダークマターッ!』」



――ゴシャァァァァッ!



 根の迷路から走り込んで来るスケルトンたちも巻き込んで飲み込むような闇の濁流が天使たちに襲い掛かる。

 凄まじい引力を誇るSSランク闇魔導の『飲み込み滅する深淵ダークマター』は少しでも遅れた天使たちを引き込み圧し潰していく。


 通常の天使であれば迎撃できるものではあるが、規模と魔力量の圧倒的差を見せつけるかの如く、大規模で放たれた『飲み込み滅する深淵ダークマター』は六封城の入り口を綺麗に掃除してしまった。


 なんとか六封城の中に入り、難を逃れた天使たちは見たものは、絶望するような魔力と邪気を放つ4体の魔物であった。



「やっと城に到着~♪」


「途中から走ってくれたニャルに感謝だね。さっさと終わらせちゃおうか」


「妾は後ろで控えておるから、お主ら頑張るんじゃぞ」


「デザイアちゃんもやるんだよ~! せっかく4人もいるんだから派手に落としてこいって言われたじゃん♪」


「ガラクシアの好きにしたほうがいいね。影響を受けない私たちが同行したのは、好き放題するのをサポートするためだし」


「妾たちはお主の能力影響を無視できるのじゃから……遠慮せずやるとええのぉ」


「むぅー……1番弱いって言われるのは嫌だけど、それなら好きにやるもんねー!」



――ゴウッ!!



 根の迷路から『飲み込み滅する深淵ダークマター』とともに現れたのは4体の幹部格。

 『色欲ラスト』の大罪を司り、光属性の天使に対して相性の良い能力セットを持つガラクシア、『偽神ヤルダバオト』の大罪を司り、遠距離メインで戦うガラクシアのサポートをしながら、ガラクシアのデバフを自身で無効化できるイデア、『欲夢パッシオン』の大罪を司り、ガラクシアとイデアの敵味方関係無し効果をも無効化し、何かあればすぐに助けてくれる便利屋として着いてきたデザイア&ニャルラトホテプ、この4体が堂々と姿を現したのだ。


 話が違う。

 4体を見た時に天使たちが抱いた感想がこれだ。


 『大罪』の幹部格は単体で超強力だが、幹部格は単体でエリアを区切って行動するという前情報とはまったく違う状況。


 SSランク・EXランクの両天使関係無く、自然と身体が震えてしまうような、圧倒的なまでの魔力と邪気を放つ正面の4体。

 

 最初の城を速攻で潰すというソウイチの策、魔王戦争では今まで見せていなかった『枢要悪の祭典クライム・アルマ』の4体行動という鬼作戦の開幕である。

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