外伝 『憩い』の時間


――迷宮都市アーク ルジストルの館 食堂



「こうして2人で飯食べるのなんて……いつ振りだ?」


「私も閣下も忙しいですからね。相当振りだと思います」


「色々押し付けて悪いな」


「お陰様で好き放題させていただいておりますので大丈夫ですよ」


「……ヤバいことしてないだろうな?」


「閣下のためになることしかしておりません」


「……怖い返答だな」



 こんな感じで揶揄ってくるが、なんだかんだ尽くしてくれるし、俺じゃ思い浮かばないような効率的な方法でアークを治めてくれるので安心できる。

 魔王としてのやりたいことに囚われすぎて、迷宮都市の長としての仕事は全てルジストルに投げてしまっている現状、どんな方法でやっていようが文句は言えない立場なのだが、さすがに気になりはするもんだ。


 特に動きを見せないリーナのことも、ずっと任せっきりなので、隙をみて報告を聞いておかないと何があるか分かったもんじゃないからな。



「閣下が心配するような問題はありませんな。アークも今では人気な迷宮都市の1つ、人が多くなってきて困ってきたくらいでしょうか」


「『罪の牢獄』に挑む冒険者増えたもんなぁ……どっかの手先も混じってるけど」


「そちらはメル様とレーラズ様に任せているので安心でしょう」


「デザイアとシンラも目を光らせてるから、守りの面は万全だと思うよ」


「閣下が多数を引き連れて出る時も、防衛力が高いので安心して仕事ができるのでやりやすいですね」



 アヴァロンにレーラズ、フェルにアマツが基本的には防衛面子になってくるが、余程のことが無い限り崩されることは無いと思うし、ハクかシャンカラのどっちかも残すようにしているから安心できる。


 アークの守りに関しても、ルジストルに任せておけばラインを見極めて動いてくれるだろうから、特に言うことも無いので、本当に楽で助かる。



「そういえば閣下は、毎日毎日配下の魔物にボコられるようなトレーニングを続けておられますが、体調のほどはよろしいので?」


「言い方に棘がありすぎるだろ……」


「傍から見ていればそのようにしか見えませんよ。特に阿修羅から5分間逃げ回る練習は、見ていられないと聞きました」


「……最近は良い感じだから見てられると思うぞ。少し前はタコ殴り手前だったけど」


「その後は研究の日々……閣下は体力がありますね」


「悪さ考えるのも、みんなとトレーニングするのも楽しくてな。やってても苦じゃないから続けられるよ」


「アークに関する仕事にも、楽しさを覚えて頂ければ、私も楽できますな」


「……それはすまん」



 基礎を固めるのが肝心だと思っているので、戦闘時に前にでることは無いと思いつつも、未だにボコられるような戦闘訓練を毎日励んでいる。

 魔王にはLv制度がないので、ステータスは特に変化無さそうだが、確実に成長はしているので、いざという時役に立つだろう。


 毎日のトレーニングも、みんなが付き合ってくれるので、楽しくやれているのが続いている秘訣かもしれないな。



「1つ疑問に思っているのですが……よろしいですか?」


「そんな改まって何だよ」


「いくら同盟だとは言え、『焔天』に心許しすぎではございませんか? 一時距離を置くように感じましたが、最近も『罪の牢獄』に招いておられましたし」


「その心は?」


「彼女は唯一王を望む器。いずれ閣下と戦う運命にあるのでは? 叩けるうちに叩いておくのが今後のためだと思いますが? 恩があるにしても、それはお互い様の話ですので、気になさることもありますまい」


「アイシャとの関係はそういう感じじゃないんだけどなぁ……直感的というか何というか……難しいなぁ」


「戦うことになればどうするのです?」


「そりゃ殺すよ。もし立ちはだかるなら叩き潰すまで……だけど、そんな感じにはならんと思うんだよなぁ」


「我々は閣下の方針についていきますが、あまり油断はなさらぬ様にしてください。閣下が死んでは全て終わりですから」


「心に刻んでおくよ。ありがとう」



 アイシャは魔王としての強さ、最強の魔王になって成し遂げたいことがあるのは知っている。

 もし戦うことになれば全力でやり合うのは仕方ないことだが、そうでない限りは今の感じの距離感でいたいと思っている。

 メリット・デメリットの考えとは違う何か……言葉にはできないけれど、俺から同盟を切ろうとは思っていない。


 ルジストルの心配もごもっともな話なので、忘れないで覚えておかなきゃいけない。

 内側から壊されることが1番防ぎにくいことだからな。



「閣下の食べている……それは何ですか?」


「鰻だな。これ食べて力付けなきゃな」


「閣下が好んで食べるモノが『罪の牢獄』では流行りますからね。次は鰻が来るのかもしれませんな」


「好きになると1週間くらいは同じものばかり食べてられるタイプだからなぁ……でも鰻は定期的に食べてるぞ?」


「DEとは便利なモノです。アークではダンジョン内のように自由に食べれませんので」


「……確かにDEって不思議だな」


「今更な気もしますが……」


「便利ではあるんだけど、制限もあって万能じゃない。『原初』の力のヒントになったりするもんだろうか?」


「可能性はあるかもしれません」


「……コアルーム戻るか」


「……熱中しすぎて仕事を放置しないでくださいよ」


「……無理かも」



 ルジストルの一言で探究欲が溢れてきてしまった。


 アークに関しての仕事を頼まれていたが、どうしても抑えきれないので、DEを調べ尽くした後に頑張ることにしよう。


 俺は呆れるルジストルの視線を受けながら、急いで『罪の牢獄』へと帰ることにしたのだった。

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