外伝 ただ『登る』のみ


――『罪の牢獄』 居住区 コアルーム



「ハク……この頃強くなりすぎじゃないか?」


「それは同感です」


「僕最強だからね♪」



 毎日のように行われている『罪の牢獄』内での模擬戦大会。

 様々なシチュエーションを加味して行われる模擬戦は、経験の少ないウチの面々にとって、とてつもない経験値へとなっている。


 数をこなすごとに、互いの戦い方や考え方が理解出来るようになっていき、様々な戦法が生み出される日々の中、元々『敵を倒す』ことにおいては右に出る者がいなかったハクが、日に日にパワーアップしているのだ。


 本気を出せば、Lv1000でなければ土俵にすら立たせてもらえないハクの戦闘スタイル。力押しだけで勝てるような強さを持つハクだが、ポラール・シャンカラ・デザイアの3人がハクの力を、さらに次の段階まで上げてくれている。



「これなら誰が相手でも勝てそうかもな」


「まだ……もっともっと強くなりたいな」


「内面も変わりましたね」


「僕だって『罪の牢獄』の一員だもん! ややこしいことは他のみんながやってくれるから、僕はただただ目の前の敵を殺せばいい……そこだけは1番じゃないとマスターが困っちゃうからね♪」


「なんか泣かせる話じゃないか」


「みんなマスターが凄く頑張ってるの見て、自分も強くなろーって思ってるんだから、もっと胸張っていいのに!」


「みんなと頂点目指すってのは楽しいしな。テッペン見えてるなら、向いてるとか才能じゃなくて、ただただ藻掻いて登るだけ……いいもんだな」


「また難しいこと言ってる」



 ストレートに褒められたので、逃げるように適当なことを言ってしまったが、あながち間違ってもないんじゃないだろうか?

 運が良いのか、必然だったのか分からないけど、こんなに素晴らしい仲間が一緒に居てくれるこの時間を無駄に過ごしたくない。テッペンが見えてるなら出来ることを絞り切って藻掻き登るのみ。


 魔王としての強さは相変わらずだけど、みんなを活かすことに関しては妥協せずやっているつもりだから、あながち良いこと言ってるのかも?



「僕も変わったかもしれないけど、マスターも十分変わってるよ!」


「昔より強気な性格になったかもしれませんね」


「ビッグマウスでもして、後に退けないようにしとかないと揺らぐこともあるかもしれないからな。やるからには逃げ道無しで強気の勝負って奴さ」


「カッコいいこと言ってるけど、魔王界では評判悪いって嘆いてたじゃん♪」


「世間体とは難しいものですね」


「まぁ気にはしてるけど……魔王に品やら格を求めるくらいなら、絶対に勝つために考えろよって思うけど伝わらないから仕方ない」



 転移して優位な戦いの組み合わせを構築し、敵に何もさせずに勝つ戦い方は、なかなかに批判の的になっている。

 こればかりは『銅』の魔王とやりあった時くらいから、俺の考え方は魔王界では、あまり良いように見られないということで叩かれてきたから仕方ないとも思っているが、気になるものは気になるのだ。


 批判しても責任に問われることが無いのがいけないのか、言いたい放題な世の中らしいから、特定して叩き潰しに行こうかとも思ったことが一瞬あるが、時間の無駄なので無しにした。


 

「それにしてもハクの本気のやり方は恐ろしいものですね」


「ポラールだって面倒だよ。僕が認めるよ、あれは凄いよ」


「自分優位の押し付け合い……たまらんなぁ」


「私のは解りやすいですが、ハクの方は戦っている相手としても困惑してしまいます」



 互いに殺し合いまでは出来ないので、全力では無いんだろうが、ポラールとハクの本気は恐ろしい。

 大軍だろうが敵を制圧することに適したポラールと、狙った相手を滅殺するハクの力は殺傷力が高すぎて、誰も近づけない恐ろしさがある。


 強いて2人の弱点をあげるとするならば、最強技を放てるまでに時間がかかるということだ。

 いくつかの準備が必要になるので、デザイアやシャンカラみたいに初撃からギアをあげられないことが気になる……こともないくらい強いので問題無しか。



「マスターもいつか強くなって、僕らより前で暴れてるの見てみたいな♪」


「それは危険なので止めますが……」


「イキって前でた瞬間に不意突かれて殺されそうだな」


「僕らがそんなことさせるわけないよ」


「それは同感です」


「まぁ……一回くらいドヤ顔で最前線立ってみたいけどなぁ。なんかカッコいいセリフと一緒に」


「ぼ、僕、マスターのすぐ右に立つね!」


「左側は私が貰いますね」


「立ち位置大事か?」



 今のままではドヤ顔でカッコいいセリフ言って、最前線に立っても、すぐに転移してもらって自軍陣地に帰るのがお決まりなので、最前線で暴れられるくらい強くなったら1度くらい試すくらいの気持ちでとどめておこう。


 これだけの面々がいるのに、俺が前に出る必要のある日が来るのかどうかは気にしないほうが良さそうだな。



「そういえばハクは阿修羅と模擬戦する回数が増えてきてるらしいけど、なんかあったのか?」


「僕お願いされてる側だけど、なんでか聞いてないよ」


「阿修羅にも色々あるのでしょう」


「真面目だからなぁ……強さに貪欲だし、何より戦うの好きだから模擬戦も、観戦してて気迫が伝わってくるもん」



 ハクと阿修羅は主に魔王戦争では役割が似てるところがある。

 相手の能力を封じて、自分優位な土俵での戦いを強制する恐ろしいアビリティとスキル構成は2人に共通しており、阿修羅はハクの戦い方から何かを見出そうとしているのかもしれない。


 あれだけ強い阿修羅でも貪欲に上を目指す姿は……素直に素晴らしいと思う。



「命の奪い合いを楽しいって思うのは良くないだろうけど、戦うこと考えるのが最近は楽しく感じてきちゃってるんだよな~」


「昔は楽しくなかったの?」


「今もあるけど、失えないプレッシャーがあるからさ。みんなを絶対に失いたくないって気持ちが緊張と怖さを呼んじゃうもんだ。最近はしっかりやれば皆が絶対完勝してくれるって思えるからな」


「ご期待に応え続けないといけませんね」


「なんだか僕、もう一戦やりたくなってきたからシャンカラにお願いしてこよ~っと」



 話をしている内に模擬戦をする意欲が出てきたのか、楽しそうにシャンカラを探しに行くハクを、何も言わずポラールと見守る。


 とりあえず、シャンカラには後で労いの言葉と甘味でも持って行くとしよう。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る