第4話 戦争前夜の『宴』


――『罪の牢獄』 居住区 食堂



 『七元徳』との魔王戦争前、最後の準備やら確認事項やらを皆で終わらせ、戦争前夜のモチベーション上げということで、食堂で鍋パーティーを開催中である。


 鍋料理といっても、数えきれないくらいの種類があったのであるだけ出してみた感じで、各々が食べたい鍋の近くに行き、回りながらガヤガヤするという面白い形式が出来上がっていた。

 すき焼き・鴨鍋・水炊き・磯鍋・もつ鍋・土手鍋・おでんなどなど、本当に料理ってのは面白いもんだ。どれも個性があって美味しくて箸が止まらない。



「ウロボロス……お腹ペコペコだから運んであげる」


「運ぶのだッ! スケルトンの有用さを見せてやるのだ!」



 空間の裂け目にある、ウロボロスの巨大な口に料理を次々と運んでいるのは、メルの分裂スライムと、バビロンのスケルトン達だ。

 テンポよく投げ込まれる料理にウロボロスも満足だろうが、ウロボロスが満足する量は果てしないと思うので、正直DEが心配ではあるが仕方ない。


 テキパキ働く分裂スライムとスケルトンたちを見ながら、メルとバビロンも鍋を楽しんでいるようだ。

 なかなか珍しい組み合わせだが、根が真面目な2人だし

明日の魔王戦争のついての話をしてるんだろうな。2人とも大軍を創り出せる点で忙しくなるだろうから、似たような話題で盛り上がれるんだろうな。



「きゅっきゅ~~♪」


「妾の椀から一瞬で消えてしもうたんじゃが……」



 シンラとリトス用にデザイアが世話をしているのだが、シンラの分もデザイアの分もまとめてリトスが吸い尽くしている。

 味云々じゃなくて、とにかく目の前に注がれていく料理を見て呆れるデザイアと、自分の分が一向に来ないのにも関わらず、リトスが満足するまでは見守ることに徹しているシンラ、なかなか面白い光景だ。


 下手したらウロボロス以上に食べなきゃ満足しないだろうから、デザイアとシンラは当分食べれそうにないな。



「お前たちもよく食べるな」


「ガウッ!」



 阿修羅が酒を飲みながら、用意された料理を勢いよく喰らい尽くすフェンリルとアセナを見守っている。

 フェンリルとアセナも身体が大きいから、結構な量を食べるだろうから、どんどん追加しないとすぐ無くなっちゃいそうだな。


 本格的にDEが心配になってきたが、こんなところでケチっていたら、普段使わないのもあって、ただ貯まるだけのものになってしまうから、使う時に盛大にやらなきゃな。



「この麺は最後に使うから置いとくんだって♪」


「それにしても、同じような見た目をしとるのに味が全然違うもんじゃから飽きんもんじゃ」



 ガラクシア率いる悪魔軍(マスティマ・グレモリー・ゼブルボックス)が色んな種類の鍋を均等に食べて楽しんでいる。

 そんなガラクシアたちが注いだ皿からチマチマつまみながら酒を楽しんでいるのは五右衛門。けっこう大きな身体をしているのだが、そんなに食べず、いつも酒ばかりなので、鍋も酒の当てにしか見えないんだろう。


 マスティマたちも次の魔王戦争は頑張ってもらうことになると思うので、好きなだけ食べてほしいもんだが、ガラクシアのお付きみたいなことをさせられているのが悲しい。

 ゼブルボックスに関しては動く椅子みたいな扱いだが、どことなく嬉しそうなので良いということにしておこう。



「たくさん野菜を摂取できるから、人間界で人気なのも頷けるね」


「果樹園の果物は食後のデザートだね~♪」


「これだけ用意してもらえるのも、ありがたい話だね」



 イデア・レーラズ・シャンカラが穏やかなに会話をしつつ、ゆったりと鍋を楽しんでいる。

 鍋ごとに違う食材を観察し、楽しみながら食事をしている姿は、なんだか大人組だなと感じさせるし、食後のデザートを準備してくれている姿には感動すら覚えてしまう。


 シャンカラは多すぎる鍋の種類に戸惑っているようだが…。



「僕熱いの苦手なんだけど……ニャル冷ましてよ」


「……」



 ニャルの身体の上についている玉座にハクが座っている。鍋の熱さに苦戦しているのか、ニャルに色々頼みながらゆっくり食べている。とりあえず可愛い。


 ニャルとハクのペアは初見な気がするが、ニャルは誰とでも合わせられるし、面倒見も良いのでハクと相性が良いんだろうな。

 普段より小さめになっているが、普段は大きいのでご飯をよく食べるかと思いきや、小食なのがニャルの可愛いところだ。



「ご主人様。どの鍋がオススメですか?」


「どれも好きだけどなぁ……選ぶとなると戦争になりそうな気がする」


「……やめておきましょうか」



 ポラールが丁寧に鍋を注いでくれる。

 俺はそこまで食べないのもあるし、みんながガッツリ食べる姿を見ていると、それだけでお腹いっぱいになりそうになってしまう。


 そこまで盛り上がっていないように見えるが、みんなリラックスしているって感じで、コンディションは凄く良さそうに見える。

 前日のコンディションが魔物に変化を与えるのかどうかは不明だが、こういう空気は大事なんじゃないかなと、個人的には思っている。



「大きな戦い前の食事も、みんな慣れてきましたね」


「まぁ……名物みたいなもんだしなぁ。この空気感が俺は好きだよ」


「ルジストルはリーナと楽しんでいるようですね」


「あの2人……特にリーナはよく分からん」



 『原初』から俺への監視役としてダンジョンに来ているはずのリーナだが、未だにアークで働いてくれている。

 まだ監視の仕事が続いているのか、それとも別の何かをしているのか分からないが、ルジストルが気に入っているので、何かあるまではそのままで行こうと思っている。

 何かあってからでは遅いかもしれないが、あのルジストルが大丈夫と言うのならば、きっと大丈夫なんだろう。


 アークの主というのはとにかく忙しく、俺もできることはやっているが、魔王戦争前であることから、気を使ってくれているのか、仕事を回さないでくれている。



「さぁ……明日は気張っていこうか」


「そうですね。完璧に勝ちましょう」



 終始穏やかな空気のまま、魔王戦争前夜の食事会が終わっていった。

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