第3話 悪さの『感触』


――『罪の牢獄』 居住区 コアルーム



 『七元徳』との魔王戦争まで、残り2日となった日の夜。

 本日仕掛け、仕掛けられた戦争前の前哨戦についてのまとめをコアにメモしているところだ。色々と得るモノがあったので忘れないようにしておかないといけない。


 こちらからの仕掛けとしては、デザイア&ハクのペアが聖都近辺に転移していき、警戒度MAXの『七元徳』の配下たちを荒らしまくるという作戦だ。



「ハクのDE削りがどこまで効いてるか気になるが、今回やったから明日は魔物を外に出してはこないだろうな」


「楽しそう♪」



 レーラズが珍しく果樹園から出てきて楽しそうに俺を観察している。

 俺がコアのメモ欄とにらめっこしている姿のどこが面白いのかは分からないけど、とりあえずレーラズが楽しいなら気にすることも無いだろう。


 ハクが相手魔王のDEを削れることを知ったのは最近のお話だ。バビロンと模擬戦をしたときに判明したので、まだまだどれだけの削り力なのか把握できていないが、ハクの倒した数を何となく聞かせてもらった感じ、魔王戦争に影響が出るレベルには削れたとのことなので大成功だ。


 デザイアは『七元徳』のダンジョン近くにいた天使たちにコソコソと仕込みをしてくれた。

 ニャルラトホテプのサポート力も目立ち、仕込みに集中する中、上手く他スキルを駆使して身を隠してくれていたので上手くいった感じだ。

 この仕込みは魔王戦争当日に花開くことになると思うので、忘れないようにしておかないといけない。



「魔王戦争頑張ってほしいと懇願されてしまったので、今の内にマスターパワーを補給しなくてはいけませんね♪」


「マスターパワーってなんだ?」


「気にせずにコアと睨めっこしていていいですよ~」


「……そうですか」



 『七元徳』との魔王戦争の舞台に決まった、呆れるほど広い戦場である『六封城』。

 各ダンジョン侵入への壁の役割を果たすことが出来る城が、俺と『七元徳』に6つずつ配置され、それらを守り合う面倒な戦い。

 ただでさえ広い戦場を支配するには、守りを意識しつつも完璧なエリア管理と感知力を持つ誰かが常に自軍の中央にいてほしい。

 いつもはデザイアとウロボロスが全体エリア管理をしてくれるのだが、今回は『七元徳』側のエリアで仕事が多くなりそうなので、全体指揮をレーラズにお願いすることにした。


 レーラズの力は、相手にメルのような理不尽な情報収集力が無い限り確実に知られていることはないだろう。

 ポラール・シャンカラ・阿修羅・ガラクシア・ハク・デザイア・ウロボロス・バビロン・リトスあたりは魔王戦争で目立って大暴れしているので、普段はダンジョンの守りを頑張ってくれているレーラズに、『七元徳』をギャフンと言わせるために作戦を立てた。



「ダンジョンに最低2、城の守りで6、城攻めるのに6……そんで他は遊撃と考えるとウチの戦力じゃ数だとギリギリだからなぁ」


「少し面倒な気持ちはありますが、マスターの隣を独占できるとのことなので頑張らなきゃいけません♪」


「天使お得意のお空での戦いだと浮かれてる奴らを叩き落としてやってくれ」


「デザイアが仕込んでくれているので、割とスムーズにやれそうかも~♪」


「もし仕込みがバレても『怠惰スロース』でどうにかなるだろ?」


「疲れるので嫌~♪」


「……なるほど」


「冗談ですよ~。みんな気合入っていますし、ポラールに怒られないように頑張るよ~」



 さすがに魔王戦争2日前にもなると、相手が相手なのでダンジョン全体が緊張化に包まれるのかなと思ったものだが、みんな早く戦いたいようでウズウズしており、緊張感というよりかは、待ちきれない良い感じの空気だったのはさすがだった。


 俺もここまで来てビビっていられないし、『罪の牢獄』の全力を発揮できれば、どれだけ戦場とルールで相手側に優位が作られようが、破壊出来ると思っている。

 さすがに『七元徳』も油断せず、全力で俺を殺しに来るだろうが、殺し合いにおいて、ウチの面々がどれほど恐ろしいか味合わせてやらなきゃいけない。


 せっかくレーラズもやる気になってくれていることだし、普段模擬戦もそこまでやっていないので、レーラズの力を大舞台で見れるのも楽しみなもんだ。



「マスティマたちもやる気出してくれてるし、フェンリルとアマツにダンジョンの周辺は任せっきりで大丈夫そうだな」


「すんごい元気でしたねぇ~」



 魔王界で、ウチの戦力は『枢要悪の祭典クライム・アルマ』ばかり注目されていると思うが、まだ実戦に出た数が少ないだけで、フェンリルにアマツのEXコンビ、そしてマスティマとグレモリー率いる面々も、かなり強力な戦力だ。


 相手に知られてないからこそ色々暴れられると思うので、グレモリーなんかは悪いことがたくさんできそうだ。アマツは何気表でけっこう暴れてるから対策されてそうだが…。



「『罪の牢獄』まで辿り着ける天使がいるのかな~?」


「相手ダンジョン入口付近に、序盤の内に細工しておくのも策としてありそうだから、何かしら来るんじゃないか? レーラズの守りを突破できるやつがいるとは思えないけどさ」


「マスター褒めるの上手♪」


「真面目になったレーラズが凄いのは、ウチの誰もが知ってることだからな。魔王戦争開始の合図、その数秒後に『七元徳』の度肝をぶち抜いてやろう」


「は~い♪」



 明日は皆で戦場にいって、誰がどこを守ったり攻めるのかについての最終確認と、どんな策が飛んでくるかについての考察会をして準備は終わりだ。

 もし『七元徳』との魔王戦争に勝利することができても、そこから先は怒涛の展開で大忙しになることが確定しているので、のんびり悪巧みをしていられる時間も、実は今が最後だったりするのかもしれないな。


 最強勇者も公国で色々と自分の力を磨きながら暴れているようだから、『原初』の爺さんと『女神』がそちらに意識が持って行かれている内に、俺も色々磨きながら暴れないとな。



「まずは魔王戦争に勝ち切らなきゃいけないな」


「完璧に勝つって言ったんだから、ファイトだよ~♪」


「レーラズもな」


「そうだった♪」


「そろそろ寝るか……レーラズはどうする?」


「マスターを果樹園に連れて行って寝るよ~♪ いつもよりもリフレッシュした朝を迎えれるよ~♪ たくさん寝よう~!」


「そのためにコアルームで待機してたのか……」


「その通り♪」


「……行くか」


「やった~♪」



 レーラズのスキルと、果樹園の力で脅威の回復力を発揮する寝床になっていることをアピールしてくれたので、今日はレーラズと寝ることにする。

 遅くまで悪いことを考えて疲れた俺を心配してくれたんだろう。レーラズの優しさに感謝しながら、俺はゆっくりと果樹園へと行くことにした。


 

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