第18話 『世界』は廻る


 女神の強大な力を纏い、さらには帝国皇帝であるガイストスを殺し、能力を使用したことで『皇帝ジ・エンペラー』を奪うという2段階の強化がされた帝国騎士団第1師団団長であり、帝国最強と名高い騎士、『世界ザ・ワールド』ことフェルナンド。


 普通の魔物では怯えて動けなくなるようなほどの力を纏い、ソウイチに剣をむけるフェルナンドに正対したのはシャンカラ。


 デザイアの『深奥の虚空・マウス・無明の閨房・オブ・無窮の宮廷マッドネス』が解除されたことで、力を十全に発揮できるようになったのを確認し、シャンカラとフェルナンドは同時にスキルを使用する。



「『世界断切ワールドブレイク』」


「『神化アヴァターラ』『創造ト原理ノ神ブラフマー』」



――ドシャァァァァンッ!



 フェルナンドの放った渾身の斬撃と、シャンカラの身体から溢れ出した神気がぶつかり合い、凄まじい衝撃波が生じる。


 あまりにも強大な衝撃波は、玉座を吹き飛ばし、城の大半を粉々に消し飛ばしてしまうのであった。









「城が吹き飛んだな。助かったよデザイア」


「せっかく『深奥の虚空・マウス・無明の閨房・オブ・無窮の宮廷マッドネス』を展開したのに酷いもんじゃ」


「転移に別結界に作成まで、仕事が速いですね」


「次こそ寝るから後は頑張るんじゃぞ」


「……バイバイ」



 他の団長格とは比べ物にならないほどの女神の力を纏い、帝国皇帝さんの『皇帝ジ・エンペラー』をも習得した帝国最強らしいフェルナンドと、ウチのシャンカラのスキルのぶつかり合いは、しっかりと城の大半を消し飛ばした。


 俺たちはデザイアに城近くに転移して逃がして貰った。

 『深奥の虚空・マウス・無明の閨房・オブ・無窮の宮廷マッドネス』から、城を囲むように別結界が張られており、上手くやってくれたようだ。


 城にいた騎士団員やその他の人々は、今の2人のスキルで消し飛んでしまったようだ。見境なしってのは恐ろしいもんだ。


 これ以上は仕事が無いと判断したデザイアは、再び次元の狭間へと戻っていった。



「あれだけの建物が吹き飛ぶと、さすがに砂煙が凄いことになっているな」


「この視界でも、異質な気配を2つしっかりと感じ取れますね」


「……シャンカラのほうが全然強いよ」



 舞い上がる砂煙の中から感じる強大な2つの圧。


 少しずつ砂煙が晴れると、そこには巨大な4つの顔をもったシャンカラがおり、フェルナンドは女神の力なのか、身体から黄金のオーラを溢れさせている。


 シャンカラの『神化アヴァターラ』の1つである『創造ト原理ノ神ブラフマー』。

 四方を向く4つの顔を持ち、4本の腕と、かなり目立つ巨大な王冠、巨大な蓮に鎮座する巨人。



「『創造ト原理ノ神ブラフマー』とは驚きですね。てっきり『雷霆ト天空ノ神インドラ』で戦うと思いました」


「ますたーの好奇心を満たすために耐久タイプ」


「そんな余裕ある相手なのか?」


「リトスが食べた神熾天使と同じくらいでしょうか?」



 元は人間が『七元徳』が誇る神熾天使のと同レベルまで強化された。正直とんでもない強化幅だ。

 『皇帝ジ・エンペラー』の能力を得たことは正直、シャンカラクラスならどうということは無いだろうが、女神の力が凄い。

 元のLvが300くらいだったとしたら600は上がってることになる。完全に人間の枠組みから外れて、こっち側の存在になったみたいだ。


 人間をここまで強化できるのならば、魔王を強化したら凄いことになりそうだけど、原初爺さんが魔王側、女神が人間側で手を出せる範囲が決まるっぽくて助かったな。



「ちなみに『世界ザ・ワールド』はどんな力だったんだ?」


「『完成・衰退・崩壊』の3点が特徴でしょうか? 今の姿は『崩壊』部分に特化したようですね。シャンカラは、その部分を理解して『創造ト原理ノ神ブラフマー』で応戦することにしたのでしょうか?」


「騎士様が放ってきたスキルに後だしで合わせてたから、そういうことなんだろう」



 シャンカラに下手な能力は通じず、シャンカラ自身も相手をデバフするようなアビリティは持っていないため、シャンカラの自己バフと、相手の自己バフを覗けば、単純な力比べになるだろう。


 シャンカラの『神化アヴァターラ』の中でトップ3に入る力があるらしい『創造ト原理ノ神ブラフマー』だが、その3つの中で1番使う機会が少ないようで、模擬戦でも1度しか見たことがないため、女神の力を相手にどんな風に応戦するのだろうか?



「……シャンカラ、この城再生させるつもりだと思う」


「そういう意味での『創造ト原理ノ神ブラフマー』か」


「なるほど」



 メルが教えてくれたおかげで、シャンカラが『創造ト原理ノ神ブラフマー』で戦うことにした理由がよく解った。

 

 消し飛んだ城も、巻き込まれてしまった騎士団員たちも、帝国最強騎士さんを相手取りながら戻していこうって狙いだそうだ。

 シャンカラが判断したなら大丈夫だろうと思いつつ、俺はシャンカラの配慮に感謝して、帝国最強と女神の力が合わさった怪物を観察することにした。









「……随分な化け物に変身したようだな」


「我が名は『創造ト原理ノ神ブラフマー』。その『崩壊』の力、汝の手には余るものだ」


「女神様は俺に魔王の力をも弾けるだけの守り、そして『世界ザ・ワールド』の力をさらなる高みへと昇華してくださった。これで化け物退治も成せる」


「女神とやらに、我らの力がその程度で対抗できると思われては心外であるな」


「『世界断切ワールドブレイク』」



――ゴウッ!!



 フェルナンドが『創造ト原理ノ神ブラフマー』に斬撃を複数放つ。

 

 『世界ザ・ワールド』と女神の力が合わさった能力を持つスキル『世界断切ワールドブレイク』、触れたモノを分解し破壊する斬撃。

 結界や壁を分解しながら突き進んでくるスキルなため、ただ止めるだけでは意味が無く、避けるのが賢明ではあるが、フェルナンドは連撃で『創造ト原理ノ神ブラフマー』の周囲に散らすようにして放っていた。



「その巨体では躱せまい!」


「『創造せし黄金の卵ヒラニヤガルパ』」



――パリンッ!



 『創造ト原理ノ神ブラフマー』の巨体の周りに、1mほどの金色の卵が大量に召喚され、フェルナンドの『世界断切ワールドブレイク』と激突していく。


 触れたモノを分解し、崩し消し去っていく『世界断切ワールドブレイク』を受けても、ただ罅が入るだけの『創造せし黄金の卵ヒラニヤガルパ』、その力は、この卵にスキルが触れた場合、中から新たな卵を生み出し、その卵にスキルの完全耐性を与えるという守りの技。



「小賢しい! 『世界断切ワールドブレイク』」


「悪手なり」



――パキパキッ



 一度『世界断切ワールドブレイク』に当たった『創造せし黄金の卵ヒラニヤガルパ』が割れ、中から新たな『創造せし黄金の卵ヒラニヤガルパ』が生まれ出る。

 新しく誕生した『創造せし黄金の卵ヒラニヤガルパ』に『世界断切ワールドブレイク』が直撃すると、斬撃がゆっくりと『創造せし黄金の卵ヒラニヤガルパ』に吸い込まれていく。


 『世界断切ワールドブレイク』が簡単に防がれてしまい、しかも『創造ト原理ノ神ブラフマー』の周囲を漂う『創造せし黄金の卵ヒラニヤガルパ』が少しだけ大きなったのを見て、さすがのフェルナンドも動きを一旦止めてしまう。



「どうなっている? 何故崩れ去らない?」


「その程度で我が力を除けるには傲慢が過ぎる」


「ならば! 『結合死滅テラブレイク』」


「結果は変わらぬぞ」



――ドドドドドドドッ!



 フェルナンドの周囲にいくつもの魔法陣が生成され、そこから白銀の砲撃が何発も放たれる。

 『世界断切ワールドブレイク』と同じで、触れれば対象を滅ぼすだけの効果があり、弾速も連射速度も『世界断切ワールドブレイク』よりも速くなった分、対応が難しいだろうとのことで放った『結合死滅テラブレイク』。


 しかし、『創造ト原理ノ神ブラフマー』の宣言通り、フェルナンドの放った『結合死滅テラブレイク』は『世界断切ワールドブレイク』と同じように、『創造せし黄金の卵ヒラニヤガルパ』を1度割るも、中から出てきた新たな『創造せし黄金の卵ヒラニヤガルパ』に吸収されてしまった。


 女神の力で大幅強化されたはずの『世界ザ・ワールド』の攻撃が一切通じず、フェルナンドは動揺を隠し切れないでいた。



「一体……どうなっているのだ?」


「汝に苦獄の世界を創り出してやろう。その苦獄を抜けしとき、真なる帝国の守護神として生まれ変わるのだ」


「ふざけたことを抜かすな! 化け物風情がッ!」



――ゴウッ!



 フェルナンドは、この状況化で余裕を見せる『創造ト原理ノ神ブラフマー』に激昂し、全てを破壊すべく、魔力を解き放った。

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