第16話 『運命』は残酷なモノ


 帝都周辺、そして帝都内もバビロン率いる強化スケルトンが制圧し、帝国騎士以外の守りの要であった冒険者ギルドやプレイヤーたちも阿修羅が抑えきった。


 帝国皇帝を絶対に逃がさないぞという強い意志がこめられた、デザイアの『深奥の虚空・マウス・無明の閨房・オブ・無窮の宮廷マッドネス』は帝都を覆い、空にはデザイアの落とし子たちが産み落とされ悲鳴を上げ回っている。


 帝国騎士団もウチの面々が一人一人丁寧にやってくれたおかげで、お城の中はスッカスカになりかけている。

 やはり居住区を守らなくちゃいけないという騎士のあれなのか、どんどん城から騎士が出て行っていく、バビロン・阿修羅・イデアに任せておけば大丈夫だろう。



「こんな広い城、どこに何があるのか覚えきれんだろう」


「ますたー、お腹いっぱいで眠たい」


「目の前の騎士様が困ってらっしゃるようですが……」


「色々悟ったみたいだね」


「……これまでか」



 『罪の牢獄』の守りをアヴァロン・ハク・レーラズ・シンラに任せ、ポラール・メル・シャンカラでお城に挨拶転移をしたという現状。

 

 そんな転移してきた場所は、見るからに皇帝様が座ってそうな王座が置いてある広い場所、俺たちの登場に驚くことも無く、知っていたかのような表情で待っていたのは帝国騎士団第1師団副団長の『運命の輪フォーチュン・ロール』。


 ソレイユやバベルに色々仕込み、能力で俺たちの様子を帝都から覗こうとしていた厄介能力の持ち主。



「出会い頭にそんな悟りを開かれても困るんだが……」


「何をしても壊滅を避けられぬ運命であった。この選択が1番帝都の将来と、帝国騎士団を生存させられる」


「突然語りだされても困るんだが……」



 メルの『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』が反応してないってことは、敵意も何もなく、完全に戦うことを諦めてらっしゃるようだ。

 白髪でほっそりとした爺様だが、疲れ切ったような表情で語りだしたのを見て、ポラールとシャンカラでさえ戸惑っているようだ。


 彼の言い方的に、この状況まで帝都が追い込まれるのは計算通りらしいようで、現状が1番良いとのことだ。

 他の将来はどうなっていたんだろうか? 帝国騎士団を全滅させる俺が別の世界線では存在していたのだろうか?



「『皇帝ジ・エンペラー』の首を速攻差し出せば、もっと平和に済んだんじゃないか?」


「皇帝は頑固者でな、どれだけ説得しようと変わらぬ」


「隠れんぼも諦めてくれなかったから、なんとなくヤバい奴だってのは判るけどな」


「魔王であるお主だが、帝国を崩壊させるつもりが無いことは能力で知った。最善の道を選んだつもりだ。皇帝は諦めておらぬがな」



――グシャッ!



「よく話す奴は何か企んでるって、ますたーが言ってた」


「ご主人様が当てはまりますからね」


「メルの『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』速すぎて、毎回ビックリするんだけど」


「ますたー、今のおじさんも諦めてなかったから反応しちゃった」


「……死ぬのは承知だけど、帝国は負けてませんってやつか」



 メルの『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』が綺麗に『運命の輪フォーチュン・ロール』の上半身を喰い千切る。

 ボトリと倒れた『運命の輪フォーチュン・ロール』の下半身には特に触れることも無く、わざわざ俺たちに色々話をしてきたってことは、こうなる展開も帝国側としては予想通りだってことだ。


 結局かくれんぼには負けちゃって、俺が出てくるのが1番、皇帝さんも顔出してくれるかなと思ってきてみたわけだけど、予測されてたなら良くない流れなのかもしれない。



――パキパキッ!



 目の前の空間に裂け目が入り、ひょっこりと出てきたのは、とっても眠そうな顔をしたデザイアの首から上だけ、何か報告をしに来たようだ。


 裂け目から首だけ出てる姿は、正直怖いけれど、本人に言うのはやめておこう。



「主が探しておった皇帝さんとやらを見つけたもんじゃが?」


「おー! さすがデザイア! まぁどうせ近くにいるんだろ?」


「そこに座っとるみたいじゃぞ。妾が『深奥の虚空・マウス・無明の閨房・オブ・無窮の宮廷マッドネス』を展開したら見つけることができたのじゃ」



 デザイアが首を王座の方へ向けると、先ほどまでは空席だった玉座には、煌びやかな装飾をたくさんつけた、いかにもお偉いさんという感じの金髪の青年が座っている。

 その隣では銀色で統一された騎士装備、真紅のマントを靡かせながら、一本の剣を握った、長めの銀髪をした男が少し前に出て、こちらの様子を伺っていた。


 デザイアは気付けたけど、ポラールとシャンカラは気付けないなんて、さすが帝国最強とその主君様って感じだな。



「ふむ……バレてしまったか」


「この結界はガイストス様の力をも飲み込むほどのモノなようで」


「……妾は戻るぞ」


「あぁ……助かったよ」



――ゴウッ!!



 デザイアは、そこまで興味が無かったのか、報告だけして消えていった。


 目の前にいて気付かなかったことに対して昂ったのか、それとも2人からしても相当脅威な存在なのか分からないが、ポラールとシャンカラは、正面の2人に気付いた瞬間に魔力と闘気を放出した。


 見つかった2人は、発見されたことは残念そうだが、表情的には想定内という感じだ。



「あの眩しい方が『皇帝ジ・エンペラー』で、剣を持った人間が『世界ザ・ワールド』で間違い無いですね。能力も把握できました」



 ポラールが『善悪二天論ツヨサコソセイギ』で2人の能力を見通す。把握出来たということは衝撃のポラールよりもLvが高いというヤバい展開では無いということだ。


 ポラールが言い放った瞬間、落ち着いていた2人の顔が少しだけ曇る。



「本当に神話に出てくるような力を持った魔物ばかりを率いているんだな」


「ガイストス様の『皇帝ジ・エンペラー』も効かないようでは厳しいですね」


「かくれんぼは俺の負けだな。ちなみにどんな能力だったんだ?」


「ますたーの好奇心が爆発した」


「いつものデザイアに後ろから殺される流れかと思いましたが、勝てなかったようですね」



 ここまで来て不意打ちで殺せるかどうかも怪しい気がする。


 メル・ポラール・ウロボロス・シャンカラを目の前にして隠れることが可能な力。今後のためにも知っておきたいし、余裕があるのなら本人の口から聞いてみたいところだ。


 こんなことをやっているから油断してると言われて、後々怒られるものなのだが、こればかりは許してほしい。


 もしかしたら、この能力が今後役に立つ気がするんだよなぁ…。



「語れば帝都から退いてくれるようなサービスはしてくれないのかな? 魔王よ」


「それ聞いて帰りますって言うよな魔王が、こんな大掛かりで攻めると思うか?」


「随分棘のある皮肉だ。少し自分に自信の無さも伺える。本当に戦をしたくないようなタイプの相手だったようだ」


「自信家であり、堅実というよりは我が道を進むタイプ。頑固者っぽいのにキレのある奇策みたいなことも好きそうな嫌らしい人間だな」



 帝国皇帝さんのご丁寧な挨拶に、とりあえず丁寧に返答しておく。

 相手さんもサービスしてくれるだなんて思っても無いけれど、とりあえず揺さぶってみようと試しているのだろう。

 昔だったら、ポラールが怒ってそうなもんだが、俺たちから隠れ続けた能力に対して、俺がとんでもない興味を持っていることを解って、邪魔しないようにしてくれているのだろう。


 こんな感じの会話が続くなら、とっとと戦ったほうが速そうだな。なんか時間かけるとヤバいだろうか?



「全然まだまだ戦いは始まったばかりって顔してるな。さすが国テッペン」


「聞かれたから話すが、まだまだ運命に抗ってみるさ」



 不敵な笑みを浮かべながら、帝国皇帝さんは自身の力について語り始めてくれた。


 

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