第14話 『冒険者制圧戦』


 バビロンが第2師団の南門防衛ラインを突破し、強化スケルトンの大群とバビロンが堂々と帝都内へと侵入、住民には手を出さず、帝都内をとにかく制圧するように各所へと走り込んでいくスケルトン軍団。


 冒険者ギルドを中心に防衛ラインを築きあげている帝都を拠点としている冒険者とプレイヤーたちは、次々と迫りくる強化スケルトンとスライムに抵抗を続けていた。


 そんな抵抗を続ける冒険者たちに近づいていくのは『大罪の魔王』の配下が1体である阿修羅だ。



「ふぅー……『大武天鬼嶽道』の圧で気絶する人間が多くなりそうだが仕方ない」



――ゴウッ!!



 阿修羅の身体から闘気と魔力が爆発的に溢れ出る。


 『大武天鬼嶽道』と『天地悪路王』による凄まじいバフ、そして追い詰められている冒険者たちに対して優位に立っていることで発動している『暴虐フォルテ』によるパワーアップ、暴風のように荒れ狂う阿修羅の闘気で、次々と冒険者たちは意識を失っていく。


 特に後衛職は普段、ここまでの近距離の存在圧を受けないのもあるのか、次々と倒れていき、阿修羅と戦ってもいないのに戦線が崩壊してしまっていた。



「若が言うには、事前に名のある冒険者は帝都から離れているとのことだが、この現状ならバビロンにそのまま任せて良かったな」


「人語を話す魔物だ! こいつが統率者である可能性があるッ!」



 人語を話す魔物は、冒険者の間では知能が非常に高く、ランクの低い魔物を率いているという認識があり、長を倒せば低ランクは統率を失い崩壊していくという定石があるようで、意識を保っている冒険者たちは阿修羅へと視線をむける。


 ソウイチが帝国内のダンジョンを荒らしまくったせいで、名のある高ランク冒険者たちは帝国の各地へ出て行ってしまっているので、帝都に残っているのは比較的中堅どころの冒険者たちばかり、どうにか阿修羅に攻撃を集中させたいが、強化スケルトンの圧に屈しそうな状況である。



「スキルが使えない! どうなっている!」


「武技は使えるッ! あの鬼が何かしてるはずだ!」


「今さらだが、俺の格好はこういう時良くないのかもしれんな」



 大量のスケルトンとスライムの中、あまりにも自分の姿が目立つと言うことで、少し気にし始める阿修羅。


 最近イデアが色んな色やデザインの服を創ってくれているので、気分によって変えることがあるのだが、かなり目立つので、すぐに居場所が視認されてしまうのである。

 五右衛門やメルのように隠密スタイルではないので、目立ってヘイトを稼ぐ方が、敵が近寄ってくれて都合が良いと切り替える阿修羅。


 そんな阿修羅の前に、エメラルド色の闘気を纏う青年が1人、勢いよく飛び出してくる。



「見たこと無い竜闘気だな」


「はぁぁぁぁぁ! 竜撃拳ッ!」


「ふんッ!」



――ドゴッ!!



 竜闘気を纏った正拳突きに対し、阿修羅は素早く地面を強く踏みしめる。

 轟音とともに足場は割れ、風魔法かと思うような衝撃波が竜闘気を纏った冒険者を襲い、体勢を大きく仰け反らせる。


 阿修羅は、そんなバランスを崩した冒険者に対し、地面を強く踏み締めた力をしのまま利用し、拳に闘気を纏わせ、そのままストレートに放つ。



「ハァッ!」


「うぉぉぉぉぉッ!」



 阿修羅からの攻撃箇所を素早く察知し、竜闘気を纏わせて守りを固める冒険者の青年。

 通常の闘気とは大きく異なり、守りにも使用できる竜闘気を上手く使った方法ではあるが、咄嗟の守り程度で阿修羅の拳を防げるわけもなく…。



――バァンッ!



 臍周辺に竜闘気を纏わせた冒険者の青年の努力空しく、阿修羅の放った拳はいともたやすく冒険者の上半身を消し飛ばす。

 その光景はスケルトンやスライムと戦っていた冒険者やプレイヤーたちのメンタルに大きな影響を与えるには十分であり、怯んでしまった冒険者とプレイヤーたちに、容赦なくスケルトンとスライムの軍勢は襲い掛かっていく。


 阿修羅に粉砕された冒険者は個人でSランクの実力を持ち、近接戦で素晴らしい力を発揮できる竜闘気の持ち主。そんな冒険者が一撃で砕け散る姿を見てしまえば、士気が下がってしまうのは仕方のない話である。


 一度崩れた戦線はスケルトンとスライムの大群圧で完全に崩壊する。



「イデアの武具とバビロンの『強化蘇生』の組み合わせは恐るべしというところだな」



――ドドドドドドドッ!



 強化スケルトンの強さに驚く阿修羅。

 連携の取れた冒険者たちを数と勢いで押していく通常種と、イデアが創造した武具の性能で圧倒するスケルトン、倒しても復活し続けるので、冒険者たちもどうしたものか困り果てている。


 アンデット系統に効く、聖職者が覚える有効なスキルには、さすがの強化スケルトンにも効くようだが、阿修羅が近接スキル以外封じてしまっているので、その心配も無い状況。



「俺のアビリティ内でも活動できるのが便利ではあるな」



 元々大したスキルが使用できない強化スケルトンたちは、阿修羅のアビリティ内でも活動することができ、敵には制限をかけたまま数で戦うことができるので、阿修羅的には楽ができるという布陣。


 さすがに真面目に戦う時は邪魔なのだが、バビロンが指示すれば戦いやすいように退いてくれるので、阿修羅的にもスケルトン軍団は強いとしか言えないのである。



「メルの分裂体は死体回収係か」



 強化スケルトンや阿修羅にやられてしまった冒険者を取り込んでいくメルの分裂体。

 しっかりとスキルやアビリティ、冒険者たちの記憶を回収することで、生まれて1年しか経過していない経験や知識の少なさを補おうとするソウイチの作戦である。


 できるだけ殺さず気絶させようの作戦ではあるが、抵抗してくる者に強化スケルトンが手加減できるわけもなく、敵意や闘気、魔力を感じれば走り込んでいくような指示をバビロンが組み込んでいる。


 ゆっくりと強化スケルトンたちを観察しながら、冒険者ギルドまで歩みを進める阿修羅、そんな阿修羅の前の空間に歪みが入る。



「さすが阿修羅とバビロン軍の組み合わせだな」


「強化スケルトンは遠距離スキルには弱いですからね」


「今のところ若の想定通りに進んでいる」



 歪んだ空間から出てきたのはソウイチとポラール。


 『罪の牢獄』からタイミングを見計らって冒険者ギルドを直接見に来たという訳である。

 帝都にある冒険者ギルドを隅から隅まで調べれば、何かしらのマル秘情報がでてくるのではないかという読みと、ギルドマスターには話をつけておかないと、後々面倒なことになりかねないという予想の下の行動である。



「若は戦場に出てくるのは大好きだという情報が、さらに出回ってしまうな」


「私たちのご主人様は好奇心を抑えられませんからね」


「急に始まる俺の悪口大会やめてくれ」


「若は自分が好奇心を抑えられないのを、しっかり考慮した作戦を考えているから大丈夫だろう」


「立派な餌ですからね」


「ん? どんどん馬鹿にされてる流れ?」


「俺たちが若を馬鹿にするわけないだろう」


「その通りです」



 転移してきていきなり和やかな会話を始まる3人。

 周囲では強化スケルトンと冒険者による激しい戦いが行われているのが見えていないかのような光景である。

 

 阿修羅とポラールの放つ存在圧が凄すぎて、どの冒険者も意識を保つのが精一杯になる中、少しでも気を抜いてしまえばスケルトンの波に飲み込まれてしまう厳しい流れが冒険者たちにできてしまう。



「若……白旗だそうだ」


「高ランク冒険者たちを帝都から出しといて良かったな」



 冒険者・プレイヤー側の全滅が見えてきた時、冒険者ギルドから武装を解除した集団が出てくるのを確認する3人。


 ギルドマスターによる完全な白旗宣言により、帝都の冒険者ギルドは陥落し、騎士団を抱える城以外の全ては、ソウイチに制圧されてしまったのであった。

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