第13話 『魔術師』への骨難
帝国騎士団団長格が次々と『大罪』の魔物の前に屈してしまう状況の中、第2師団副団長、黒と青の鎧を身に纏い、左右が刈り上げされた金髪、そしてサイコロをモチーフとした耳飾りが特徴的な青年、『
ミネルヴァが行方不明になってから第2師団をまとめ上げ、他の団よりも戦力では劣るが、元々防衛に秀でていた部分を伸ばし、今回の作戦では、『大罪の魔王』が攻め込んで来ると踏んでいた南門の守備を任されている。
マゴス率いる第2師団は、南門付近を陣取る魔物が『スケルトン』と知ると、問題無いかのような空気が漂ったが、第2師団自慢の魔法による一斉攻撃がまったく通じなかったことで、普通じゃないと感じ取った団員たちは張り詰めた空気の中、じわりじわりと近づいてくるスケルトンの軍団と小競り合いを続けていた。
「あんな頑丈で、邪気と魔力を纏っているスケルトンなんて聞いたことない! しかも数が増える一方じゃないか……」
「このままだと10分も経たぬうちに激突することになります」
「前に出ているスケルトンは、まだどうにかなるが、後方に控えている武装したスケルトンはヤバい。持っている武具からふざけた魔力を感じるからな」
『
イデアが様々な冒険者や騎士から学び、コツコツと想像し続けた『偽魔装具』とも呼べる、恐ろしい性能をした武具たち、武器では『剣』『槍』『片手斧』『弓』と4種のバランスの良い組み合わせで、武具はスケルトンでも動きやすいように設計された軽鎧セットである。
「いくら魔王だからって、どうやってあんな装具を揃えたっていうんだ」
マゴスは強化スケルトン軍団の突破口が浮かばず、防衛も厳しいと見て、他師団に応援の要請をしたが、居住区にいるはずである面々から返事がなく、ジリジリと追い詰められているという不味い状況。
そんな重苦しい空気の中、一人の騎士団員が帝都から走って出てくる姿をマゴスは確認する。
待ちわびた援軍かと思い、急ぎ走ってくる騎士団員に近づいていくが、団員の顔は絶望に染まり切っていた。
「きょ、居住区に配置されていた各師団……突然の時空間魔法で消息不明!」
「バカな! すでに帝都内に侵入されていると言うことか!?」
援軍が来ないという悲報、そして居住区で仕掛けられてしまったということから考えられる、魔物はすでに帝都内に侵入し、好き勝手やっているという悲劇。
あまりの状況に、頭での情報処理が追い付かず、第2師団にどのような指示を出せばいいのか、まったく浮かばないマゴス。
――ドドドドドドドッ!
悲報に頭を悩ませるマゴスたちが感じたのは、激しい地鳴りのような音。
まるで大量の魔物が一斉に走っているかのような轟音と地面の揺れに、ただでさえ混乱していたマゴスたちは冷静さを失っていき、団の統制を崩していってしまう。
居住区に魔物が侵入しているとの報告で、帝都の方を見ていたマゴスが振り返ると、走らないはずのスケルトンが、第2師団にむけて勢いよく走ってきている姿であった。
「げ、迎撃せよ! 最悪帝都の結界内へと逃げ込むのだ!」
赤黒い魔力を纏った大量のスケルトン軍団が驚きの速さで走り込んで来る。
マゴスは一度迎撃の指示をだしたが、あまりの恐怖に腰を抜かす団員や、一度も攻撃をせずに帝都を守る結界内へと逃げ込んでいく者が多数。
完全に崩された第2師団、そんな中マゴスは、大量の強化スケルトンたちの奥に、多頭の魔物に乗る煌びやかな装備をした1体のスケルトンを発見する。
そんなマゴスと目が合ったスケルトンの王バビロンは第2師団に聞こえるよう、声を高らかに宣言する。
「貴様らの結界なぞ! 我らが王がすでに細工しておるわァ! すでに無いも同然!」
「なっ!?」
ソウイチが聞いたら、余計な事を言うなと怒りそうな情報をしれっと漏らすバビロン。知られたところで止められるわけ無いという自信と、帝国陣営を動揺させるために放った一言は、見事第2師団を、さらなる混乱へと陥れていた。
スケルトンとは思えないような速度で走り迫ってくる危機的状況、そして帝国が誇る結界も無意味とされてしまったという事実を前に、迎撃も撤退もできず、ただただ戸惑う第2師団団員たち、そんな中、副団長のマゴスは魔力を滾らせながら前線に出る。
「逃げても帝都に侵入されては終わりだ! 結界が無意味であるなら迎撃するのみ!」
マゴスの持つ能力『
意志・奇術』であり、運の要素が多く含まれる能力である。
『
1番良い段階になれば、普通では考えられないような威力になるのでメリットもあるが、普通なら土壇場で使用したくない能力である。
視界を埋め尽くす強化スケルトン軍団を突破するため、マゴスがとった手段は、『
「全ての魔力を持っていけ!」
小さな杖を取り出し、先端に全魔力を込めるマゴス。
完全なギャンブルではあるが、都合よく行けば突っ込んで来る敵陣を崩せるような一撃を叩き込める可能性があり、1/6の確率と考えれば、全てを賭けても行くしかないとマゴスは意気込む。
元の威力が大きければ大きいほど、『
「吹き飛ばせ! 『
――ゴウッ!
マゴスの全魔力が注ぎ込まれた渾身の魔法『
もし、マゴスの都合よく事が進めば、一撃でスケルトン軍団を吹き飛ばし、『
そんな迫りくる巨大な蒼球を見ながら、バビロンはマゴスに現実を突きつけるかのように宣言する。
「我の前で、貴様らに都合の良いことなんぞ起こるわけ無かろうが! 『
「なっ!?」
――ブシュッ!
バビロンに起こる不都合を塗り替える理不尽なアビリティ。
マゴス渾身の『
運での勝負すら許さぬ、バビロンの害悪のようなご都合主義なアビリティである『
もちろん、マゴスが南門に出てくること知っていたソウイチによるバビロンの配置なので、マゴスからしたら得意の博打すらさせてもらえない最悪の組み合わせであったと言える。
「スケルトンと侮り、初手で舐めた行動しとる時点で、貴様らに勝ちは無いのだ! このまま骨の海に沈むが良いわァ!」
「クソォォォォォォォ!」
「このような場面で博打をした自分を恨むが良いわ!」
――ドドドドドドドドッ!
マゴスは全ての魔力を使い果たし、ただただ叫びをあげながら強化スケルトンの波に飲み込まれていく。
マゴスを信じ、後方で準備をしていた第2師団の団員たちも、抵抗する間もなくスケルトンに轢き殺されていく。
こうして、帝都南門は崩落し、帝都内に大量のスケルトンが雪崩れ込むという、帝国側が一番恐れていた事態になってしまったのである。
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