第11話 迫られた『決断』


 イデアが創り出した『偽主天使偽ドミニオン』の、上からの遠距離スキルの雨に圧倒される第9師団の団員たち。


 開幕で使用した『女教皇プリーステス』のデバフスキルも通じず、天使たちは第9師団で遠距離で火力を出せるのがヤヒンしかいないと見ると、上からのスキルを永遠と放り投げている状態。

 なんとか天使の攻撃を防げる『神秘の光壁』を維持しつつ、『聖母の抱擁』で負傷した団員たちを癒すべく魔力を使用していたヤヒンだが、現状を打破しなかればという焦りから、一気に攻勢に躍り出た。


 団員たちを守る『神秘の光壁』を消し、使用していた魔力を全て注ぎ込み、イデアたちの真上に光り輝く魔法陣を描き上げる。



「巻き込まれる前に離れてください!」



 第9師団の団員たちは、上空に描かれる魔法陣を見て、素早く引き判断ができていたが、もしも気付けていない団員たちが居たときのことを考え、ヤヒンは素早く指示を出す。


 魔法陣から光り輝く小さな流星が大量に降り注ぐ。その流星は一直線に地面に向かっていくのではなく、宙に浮いている天使たちを追尾するような軌道で飛んでいった。


 

「「「「「裁きの光槍!」」」」」


「無駄ですよ!」



――パキンッ!



 ヤヒンの『女教皇プリーステス』スキルでトップクラスの攻撃力を誇る『聖母の鉄槌』、魔力消費をメインとしたスキルを吸収しながら敵を追尾する光の弾は、『裁きの光槍』を吸収し、輝きを増しながら天使たちに迫りゆく。


 『裁きの光槍』や『審議の光矢』を吸収し、自分たちを一方的に追い詰めていた『偽主天使偽ドミニオン』をようやく沈めれると、ヤヒンの指示で下がっていた団員たちも確信するほど完璧なカウンター。


 しかし、そんな都合よく物事を進ませまいと動いたのがイデアだった。



「根源魔導『宙の黎明界』」



 イデアの指先から小さな灰色の正面体が、空を飛ぶ天使たちの中央付近に飛ばされる。

 クルクルと回転しながら飛んでいく正面体は鈍い音を響かせながら、1番近くにいた天使を魔力の粉にしながら吸収し始めた。


 

――ギュォォォォォ!



「なっ!?」



 イデアから放たれた『宙の黎明界』は『偽主天使偽ドミニオン』だけでなく、ヤヒンが放った『聖母の鉄槌』も勢いよく魔素へと分離させ、吸収していく。


 敵味方関係なく、近くに存在している魔力中心で構成させた全てを魔素へと分解しながら吸い込んでいく『宙の黎明界』にヤヒンたちは呆気に取られてしまう。

 自分たちの最大火力ともいえる技が、恐ろしく簡単に返されてしまったこと、しかも敵であったはずの『偽主天使偽ドミニオン』すらも消滅させていっている行動に理解が追いつかずにいた。



「また創ればいいからね」



 1人になった隙すらつかせず、『宙の黎明界』が役目を終えて消滅した瞬間、再びイデアは『偽主天使偽ドミニオン』を創り出す。

 しかも、先ほど創り出していた『偽主天使偽ドミニオン』の倍はいるだろう数を一瞬にして、見せつけるかの如く展開する。


 そんな圧巻な光景を一瞬にして見せつけられ、ヤヒンと第9師団の団員たちは1つの考えに辿り着く。


 『いつでも殺せるけど……興味本位で遊ばれている』…と。



「そんな一気に士気を落とされてもねぇ……まぁ気持ちは分からないでも無いけどね」


「「「「「裁きの光槍!」」」」」



 覆しようもない力の差に絶望に落とされる第9師団に、容赦なく襲い掛かるのは、先ほどよりも数が増した雨のような『裁きの光槍』。

 『神秘の光壁』を展開することもなく、あまりの現実が受け入れられなくなったのか、俯きながら戦意を喪失してしまったヤヒン。


 団員たちは次の指示を貰おうと声をあげるが、次々と『裁きの光槍』に貫かれ息絶えていく。


 そんな絶望に叩き落されたヤヒンに、ゆっくりと近づいていくイデア。



「出来れば諦めてくれると助かるんだけど?」


「……最初から無理な戦いだったのですね」


「忘れられないような力の差を見せつけといたほうが、話をしやすい……ウチのマスターが推してる作戦でね」


「……なるほど。女神様の加護も霞むほどの魔物が存在していたなんて……」


「女神さんを信用しすぎじゃない? 受け身になって帝都を囲まれ侵入された時点で厳しいと思うけどね」


「団員と住民たちは……」


「もちろん、私たちが欲しいのは帝国じゃなく、帝国皇帝さんだけだからね」



 完全に心折れ、敗北宣言のような会話をしてしまうヤヒン。


 そんなヤヒンの雰囲気をしっかりと感じ取り、右手をあげて『偽主天使偽ドミニオン』たちの攻撃を止めさせるイデア。

 城への侵入を許してしまうことに責任感を感じてしまうヤヒンだが、目の前にいる化け物が居住区で暴れられては、誰も止めることができないので、大人しく捕まっておくのが国のためだという判断から、白旗をあげることにしたのだ、



――パキパキ……パリンッ!!



「えっ?」



 周囲の空間に大きく罅が入っていき、硝子のように次々と割れ落ちていく。


 空間が割れた後に見える景色は、先ほどまでと変わらぬ城前、何が起ったか理解が追いつかない第9師団の騎士たちに対して、イデアは淡々と状況説明を開始する。



「最初っから、城前の景色を模した結界内で戦ってたのさ、援軍に来られると面倒だからね。城から出てきた時に結界内に取り込ませてもらったよ」


「では……私たちが城から出てきたときには、すでに魔物が城の中に……」


「昨日の夜からある程度は潜入してるよ。ウチのマスターは100%勝てるような勝負じゃないとやらせてくれないからね。良いところではあるんだけど」


「最初から弄ばれていたということですね」


「ん~……もしかしたら、とんでもなく強かったり、どこぞの天使や女神さんが混じっている可能性があったから、とにかく孤立させて戦うって感じなんだよね」



 女神と『七元徳』による帝都侵略戦への介入。

 この2点がソウイチの懸念するポイントで、見事どちらとも戦いに介入してきたので、出来るだけイデア・リトス・デザイア辺りが作り出した結界内へと団長格を取り込み、そこで戦っていこうという作戦である。


 もし相手が単体で戦うには厳しい相手だった場合は、デザイア&ウロボロスがカバーできるように待機しているという充実っぷりである。



「そこで戸惑っている騎士さんたちの説得、私の仲間には説明しておくから、帝都のどっかしらで休んでて良いよ。帝国皇帝さんの首を頂いたら、後はなるようになるから」


「勝つことが前提なのですね」


「1人強い人間がいるってのは知ってるよ。でもウチのマスターが送り出してくれてるんだから、勝てる舞台になってるはずだからね」



 ヤヒンに語りながら、イデアは天使たちに指示を出し、城の周囲や居住区の偵察へと行かせる。

 帝国騎士団には、帝国最強と名高い第1師団団長『世界ザ・ワールド』がいることはソウイチもしっかり押さえ済みである。


 ヤヒンも『世界ザ・ワールド』の強さは知ってはいるが、この正面に立つイデアに敵うかどうか、正直厳しいのではないかと感じてしまっていた。


 この魔物は帝国皇帝にしか興味がないと言っているが、それは嘘かもしれない。結果、魔物たちに帝国を支配されてしまう流れなのかもしれないが、無意味に住民や団員たちが死ぬよりは良いと、自分に言い聞かせながらヤヒンは第9師団の団員たちの説得を試みることにした。


 こうしてまた1人、帝国騎士団団長格が『大罪』の魔物によって沈められてしまったのであった。


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