第10話 『女教皇』の焦り
帝都を囲む、普通では考えられないほど強化されたスケルトンとスライムの大群、住民に声をかけに行っていた騎士たちの消失。
居住区に行ったはずの騎士たちの消失は、『大罪の魔王』による仕業、時空間魔法や結界魔法を使用された可能性が高く、その事実は帝都内に魔王の配下が侵入してきていること示していた。
城の入り口付近では、黒い長髪を忙しそうに揺らしながら、白いローブを着た騎士、帝国騎士団第9師団団長『
「魔物は、すでに帝都内に多く侵入していると考えられます! 結界術は効かないと思っておいてください! ここからは場内への進軍を阻止するために全力を出しましょう!」
「「「「「ハッ!」」」」」
団長格が次々と魔王側の手で何かしら被害を受けており、帝都居住区で行方不明になってしまった団長格を含めると、帝国騎士団団長格の半分は帝都に居ないということになってしまっている。
第9師団団長『
「一瞬ではありましたが、大量の邪気を帝都内に感じました。何故消えてしまったのか解りませんが……」
通常では感じることのできないような『邪気』や『敵意』を、一瞬ではあるがヤヒンは感じたことで、警戒度を最大限にまで上げていた。
邪気を感じることができたのはヤヒンが宿す『
「小さい魔物ですが、数は多く感じました。油断すると城にも侵入を許してしましますね」
城の入り口に団員たちを率いてきた瞬間に、感じていた邪気を見失ってしまったので、疑問は多く残るが、とにかく城への侵入を防ぐため、防衛戦に戦力を注ごうと団員たちに声をかけるヤヒン。
そんな張り詰めた空気の中、騎士団員たちが聞きなれない鋭い声が、ゆっくりと響き渡る。
「敵の気配を感じた時には、自分たちが感じた以上に近くにいると思った方が良い……ってウチのマスターは言っていたよ」
「「「「「ッ!?」」」」」
まだ魔物の存在を認知しておらず、確実に通していないと思っていたヤヒンたちの背後から響く声に、全員素早く振り返って警戒の姿勢をとる。
ヤヒンたちの背後をとっていたのは、『大罪の魔王』の配下である、『
真っ赤なポニーテールを靡かせ、コートのポケットに手を突っ込みながら、ヤヒンたちを観察しているイデア。実は少し前から背後にいたのだが、気付かれる気配がなく、不意打ちで捕縛しても良かったのだが、これも実戦経験の1つと言うことで、わざわざ声をかけたのである。
「無理に仕掛けてはいけません! とんでもない魔力を秘めています」
「相手の秘めた力量を測り、弱点を見抜いて的確な魔法で攻める。なんだか似たようなスタイルだね」
「……わざわざ戦い方を教えてくれるのですね」
「私だけ知ってるのも可哀想かなってね」
「気配をまったく感じませんでしたのに……どうやって?」
「それは内緒。皇帝さんの首をくれるなら見逃すけど?」
「舐めないでください」
――ブワッ!!
ヤヒンの身体から魔力が溢れだし、第9師団の団員たちは素早く動き出す。後衛型のヤヒンの前に壁を作るように陣形を整えていく団員たち。
イデアは情報にあった女神の力とやらを薄っすらヤヒンから感じつつ、どれほど守りが固くなっているか試すかのように、瞬時にスキルを発動する。
「さぁ……私の敵を滅ぼしてきて」
――ボコボコボコボコッ!
地面から生えるようにして出てきたのは大量の『
15体程の『
ヤヒンは『
そしてもう1つ、異常なまでの直感が示す非常な事実を知ることになる。
「……Sランク相当の魔物」
「数はそっちのほうが圧倒的に上なんだから、騎士の連携を見せてもらうよ」
「『悲観の象徴』」
ヤヒンが青色の球体を複数『
――パリンッ!
「効きませんか」
ヤヒンの放った『悲観の象徴』はイデアたちに当たる直前に砕けるように消滅する。
自分たちの背後を容易にとるような魔物に、正面からスキルを簡単に通せるとは思っていなかったヤヒンだが、まさか何かするわけでもなく弾かれてしまったのは予想外だったようで、隙を伺って突撃しようと構えていた団員たちは呆気にとられてしまう。
イデアが敵前で呆気に取られ、足が止まっている騎士たちの隙を見逃すはずも無く…。
「さぁ……放ちなさい!」
「「「「「裁きの光槍ッ!!」」」」」
「くっ! 『神秘の光壁』」
――ドドドドドッ!
「「「「「ギャァァァ!!」」」」」
イデアの号令で素早く『裁きの光槍』を放つ『
ヤヒンも咄嗟に防御スキルを発動するが、全員を守り切れるわけでもなく、貫通力の高く、弾速も速い『裁きの光槍』を前に、多くの団員が断末魔の叫びをあげながら串刺しにされていく。
一般団員たちからすれば『
「『女教皇の抱擁』! 負傷した者はこの中へ!」
「「「「「審議の光矢!!」」」」
――ドドドドドドドッ!!
ヤヒンが後方に光の牢のような結界を展開する。
『女教皇の抱擁』は外部からの攻撃を防ぎつつ、中にいる者の傷をいやしていく守りのスキル。
前線を『神秘の光壁』で守り、維持しながらも負傷した団員たちに指示を出していくヤヒン。500人は居たであろう第9師団の団員たちは、次々と『
団員たちも遠距離武技や魔法で抵抗するが、『
(あの天使に火力を出せるのが私しかいない状況、しかし壁を維持することで精一杯……非常に不味いですね)
指示だしと『神秘の光壁』を維持しながら、どうにか打破できないかと必死になって考えるヤヒン。
団員たちでは歯が立たない魔物を一瞬にして呼び出すことの出来るイデアが、戦況を観察するだけで動かないことにも恐ろしさを感じてしまうヤヒン、どう頑張ってもイデアが動いただけで戦いが終わってしまうのビジョンが脳裏をチラついてしまい、ヤヒンは冷静さを保てなくなってきてしまう。
「『聖母の鉄槌』!」
――ゴゴゴゴゴゴッ!
『神秘の光壁』を維持するのをやめ、上空に魔法陣を展開し、光の流星を降らせようとスキルを発動するヤヒン。
素早いスキル移行で邪魔されること無く、『聖母の鉄槌』を発動させることに成功し、少し安心するヤヒン。
壁が無くなったことで団員たちが傷つくことになる事を承知しながら、ヤヒンは自身が放てる最大の攻撃スキルに魔力を注ぎ込んだ。
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