第5話 『星』と『戦車』が止まる時


「私たちに幻を見せていた? 一体いつから?」


「女神の力とやらを貰っても、そこらへんは変わらんようじゃな」


「まだ付与効果は奪われたまま……なら行くしかあるまい!! 『蒼戦車大爆進ブルー・グラナータ』!!」



――ゴウッ!!



 蒼い闘気を纏ったシャールの『戦火王戦車パンツァー・イェーガー』が五右衛門に向けて勢いよく突進していく。


 地上しか走れないのを先ほど確認している五右衛門としては、どうしたものかと頭を悩ませるが、女神の力を得た団長格の耐久面がどれほどのモノか試すため、2匹の八咫烏を瞬時に召喚し、2匹に手短な指示を出す。



「吹いてやっとくれ」


「「カァァァァァッ!!」」



――ズゴゴゴゴゴッ!!



 2匹の八咫烏の鳴き声と羽ばたきの風圧が、強大な闘気を纏わせ、突っ込んで来る『戦火王戦車パンツァー・イェーガー』と激突させる。


 ただの衝撃波では無く、木々を斬り刻みながら吹き荒れる八咫烏の攻撃は、並の守護スキルならば最初から無かったかのようにバラバラに細切れにしてしまうほどの威力がある。

 


――ドゴォォォォンッ!!



「ぐうぅぅぅぅぅ! まだだ! 『紅戦車大進撃カノーネ・プーシカ』!」


「乗っとる本人が隙だらけで狙いたい放題じゃな」



 八咫烏が起こした衝撃波と『蒼戦車大爆進ブルー・グラナータ』のぶつかり合いは凄まじい爆風を生み出し、そのまま巻き込まれたシャールに傷を与えるという結果に終わる。


 再度『戦火王戦車パンツァー・イェーガー』に闘気を纏わせて突進させようとするが、その隙を見逃す五右衛門ではなく、『戦火王戦車パンツァー・イェーガー』の真上をシャールが気付かぬ間にとっていた。



「星魔法『雷撃弾星サンダー・コメット』!」


「よく見とるもんじゃな」



――ドシャァァァァンッ!



 五右衛門も驚くカバー意識で、Aランク星魔法『雷撃弾星サンダー・コメット』を直撃させるフェガリ。

 とにかく前に突き進むシャールの『戦火王戦車パンツァー・イェーガー』を補助できるような戦い方を徹底しており、『ザ・スター』の特徴である『霊感・付与・封印』といった後衛型の力を存分に発揮できているペアなのである。


 『星の軌道は希望への道オールビタ・セフィラ』や『星輝満天・エトワール・極壁煌風ラ・カーテン』といった得意なバフスキルが奪われてしまい、かなり厳しい戦況になってしまったが、敵位置感知と遠距離スキルでの立ち回りを徹底することで、五右衛門の隙をつく戦い方に上手く対応することができている。



――バシャッ



「また藁人形……しかも気配が複数?」


「囲まれているぞ!?」



 フェガリの放った『雷撃弾星サンダー・コメット』は直撃したかに見られたが、またしても藁人形へとすり替わってしまっていた。


 しかも、木の影から数体の五右衛門が2人を囲むようにして現れる。

 忍者である五右衛門の影分身の術なのだが、忍者というジョブに慣れていない2人は戸惑いを隠しきれず、特に前進することでスキルを放てるシャールは、どこに狙いを定めるか決めきれない。


 影分身複数体が煙管から吹かす煙によって、森の濃霧がさらに濃くなっていく。



「言い忘れておったが、儂らの目的は帝国皇帝の首だけじゃ、街の人間たちや、お主らの命を獲ろうとは思ってはおらぬ。ここまでやっておいて何じゃが、どーしたもんじゃ?」


「ふざけるなッ! 我らは帝国騎士! 魔物に『皇帝ジ・エンペラー』の首を獲らせるわけが無かろう!」


「まだ戦いは終わっていませんよ」



 五右衛門の忠告に、2人が奮起するかのように戦いに構えをとる。


 他国からは傭兵の集まりと言われることのあるアルカナ騎士団ではあるが、第10師団は帝国への忠誠がとても高い団であり、今の五右衛門の発言は2人の心に火と再点火するには十分なものであった。



――ボフンボフン!



 2人の決意が固いものだと感じた五右衛門は影分身を全て消滅させ、『智慧の本源を断つ刃アマノムラクモ』を抜いて、膨大な闘気を纏わせる。


 濃霧に包まれた空間を震わせる五右衛門の闘気は、闘志を燃やしている2人の足を、自然に一歩引かせるほど。


 五右衛門は『智慧の本源を断つ刃アマノムラクモ』を、ゆっくりと唐竹に振る。



――ヒュンッ



「五右衛門流『空撫瞬ノ一筆書カラノヒトフデ』」


「ぁ!?」



――ドシャッ!!



「ッ!? …大丈夫ですか!」



 五右衛門の空を撫でるようにして放たれた『空撫瞬ノ一筆書カラノヒトフデ』は容易に『戦火王戦車パンツァー・イェーガー』に乗っていたシャールの意識を狩り取る。


 フェガリはすぐさま名を呼びカバーに入ろうとするが、シャールの名前が浮かんでこず、自分と気絶しているシャールがどういう関係だったかも曖昧になっており、頭の中がグシャグシャになってしまっていた。


 五右衛門の『空撫瞬ノ一筆書カラノヒトフデ』は敵味方関係なく、範囲内にいる全てを対象に効力が発揮されるが、五右衛門が普段から吹かせている煙管から発せられる煙、この煙に秘密があり、霧のように広がり残る煙管からの煙は、五右衛門の一部スキルをピンポイントで煙内の対象に当てられるようにするための忍術と仙法の組み合わせスキルである。



「そこに倒れとる騎士の『名』と『気』を斬った。残るはお主1人で、この霧は儂が作り出したもの……逃げ切れぬがどうするかのぉ?」



――ドシャッ!



 先ほどまで戦闘がお遊び以下に感じるような呆気なさ、そして聞いたことも無いような摩訶不思議な力に圧倒され、先ほど闘志が再点火したはずのフェガリの心を簡単に圧し折った。


 味方であったはずの第10師団の団員たち、そして倒れている副団長のシャール、誰1人の名前も思い出せず、自分との関係性も解らなくなってしまい、完全に意気消沈し、フェガリは地面に膝をついてしまう。



「ガラクシア辺りは生かしておくって選択をしなさそうじゃから……主の頭が痛くならんように儂がやるとしようかのぉ」



 五右衛門は帝国騎士団と戦っている面子を頭に思い浮かべる。


 ソウイチ的には帝国皇帝を殺した後に、帝都の治安を守るためにも、何人かの団長格は生かしておきたいという願望があるが、その願いをスルーして最低限度である身体の一部持ち帰りで済ます者が多そうだと予測し、五右衛門はフェガリとシャールを生かしていく方法を選択した。



「主も儂らと相性の良い相手をぶつけたがるもんじゃから、ただでさえLv差があるもんじゃから遊戯になってしまうのぉ」



 煙管を吹かしながら、今戦っていたフェガリとシャールの戦闘スタイルを振り返る五右衛門。


 地上戦を得意とし、突破力と一撃の威力を重視した『戦車ザ・チャリオット』シャールと、味方へのバフ、敵の感知、そして遠距離スキルを得意としていた『ザ・スター』フェガリでは、神出鬼没で場所を選ばず、バフを吸収し続けて強くなる五右衛門に勝てる見込みは最初から無かったであろう。


 事前に情報を揃えて、女神の支援も、ある程度予測しておきながらの襲撃。



「まぁ女神の力は本命に多く注がれてるかもしれん……という主の予測もあることじゃから、まだまだ油断せず行かねばなるまいのぉ」


 

 ソウイチの予測では、女神と原初が創り上げたこの世界。

 互いの介入できるレベルには限度があると予測しており、全体を満遍なく超強化するほどの権限は女神だけでは発動できないという考えを事前に聞かされていたのもあり、再度気を引き締める五右衛門。



「一服タイムは終わったかい?」


「ふむ……バッチリじゃ、そろそろ次に移るとしようかのぉ」



 この結界の創り主であるイデアが五右衛門のもとに跳んでくる。


 結界内の様子を見て、次の場所へと移るように言いに来た様子、五右衛門は煙管を終い、意気消沈するフェガリを気絶させ、地面に倒れているシャールとともに『罪の牢獄』へ一時帰還するのであった。


 

 

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