外伝 遥か『高み』へと


――『焔輪城ホムラ』 コアルーム



「これが……今のソウイチの力ですか」



 『焔天の魔王アイシャ』。

 彼女は今、自身のダンジョンのコアルームにて、とある魔王戦争を何度も見返していた。


 戦争終了後から魔王界を賑わせている『大罪』と『異教悪魔』の魔王戦争。


 戦争前は、『ルーキー明けの新星』と『公国の上級魔王』という『異教悪魔』が力を見せつけると言われていたような戦い。

 それも蓋を開ければ、ソウイチが自分の力を魔王界に見せつけるかのように圧倒し、『異教悪魔』含む、数体の魔王に何もさせずに完勝するという誰もが予想できなかったような結果。


 そんな魔王戦争の映像を3度ほど見返したところで、アイシャは1度、肩の力を抜いて天井を見る。



「ソウイチの配下……特に真名持ちは魔王界でも最強クラスと言っても良いレベルに達しているということなのでしょう。強いことは知っていましたが……上級魔王を一蹴するほどだったなんて」



 アイシャは間近でソウイチの配下たちの戦いを見てきている分、他の誰よりもソウイチの力を知っているつもりではあったが、まさか上級魔王を歯牙にもかけず葬り去るほどの強さを持っているとは思っていなかったのだ。


 『大罪』のデメリットはソウイチ本人から聞いていたが、メリットの部分はそこまで聞いたことが無かったので、今回の『異教悪魔』との魔王戦争を視て、アイシャは同期に負けないために様々なことを考えている。



「真名持ちの数がどの魔王とも比べ物にならないくらい多いですね。いくらコアから復活できないとは言え、あそこまで真名を付与できるのは驚異的です」



 『焔天』へと進化する過程で、自身の真名持ち魔物の多くを犠牲にしてしまったアイシャだが、決して『真名』というものを軽んじているわけでは無い。

 付与すれば自軍の中で特記戦力として数えられるであろうほどに強化することができる真名、アイシャが知る限りでは8体付与でも驚きの数だったが、『異教悪魔』との魔王戦争をアイシャが見る限り、ソウイチの真名付与がなされた魔物は10体は越えているだろうと見ているのだ。


 アイシャが会ったことある魔物でも5体以上真名持ちがおり、種族や本来の魔物名が不明な分、正確な数は不明だが、アイシャから見ても単体性能が常軌を逸している魔物がソウイチのところには多すぎるといったのがアイシャの感想だ。



「『異教悪魔』と『魔王八獄傑パンデモニウム』だった『風蝗悪魔の魔王パズズ』をも軽く捻じ伏せていましたね。今の私では手も足もでないでしょう」



 アイシャは冷静にソウイチの戦力を分析する。


 どう考えてもソウイチの魔物たちに勝てるビジョンが浮かばず、今回活躍していた10数体の中から1体でも勝つことすら困難であるだろうと素直に感じていた。


 『水の魔王』と魔王戦争をしたときにソウイチが連れてきていた魔物たちも、恐ろしいほど強いとは感じていたが、『異教悪魔』との魔王戦争では見ただけで笑ってしまいそうになる魔物がアイシャの中では3体程確認していた。



「まずは『海賊』との魔王戦争でも活躍していた蜘蛛に乗った人型の魔物ですね。姿をほとんど見せませんでしたが、あれは神出鬼没な転移技の持ち主ということでしょう」



 ソウイチの配下である『枢要悪の祭典クライム・アルマ』たちの中でも、4体しかいないLv1000の内の1体であるデザイア。

 

 どのような能力を持っているのか、アイシャには想像もつかないが、時空間系統の能力持ちが乏しいアイシャからすれば、喉から手が出るほど羨ましい力の持ち主。

 一撃で『海賊』が誇る艦隊を崩壊させるほどの攻撃力を持っていることも確認済みであり、神出鬼没の転移能力は現状、魔王界を賑わせている話題の1つでもある。



「『風蝗悪魔』を玩具のように捻じ伏せた蠅型の魔物……あの魔物の能力も気になるところですね。ソウイチの配下は派手さと複雑そうな能力持ちばかりで難しいです」



 バズズを玩具のように弄んで葬った『蝕啜王・蠅之神ベルゼブブ』。

 Aランクレベルの魔物であれば、魔力圧だけで圧し潰されてしまうのではないかと思えるような威圧感と、何をしたか映像だけでは理解するのが難しいスキル。


 3度観戦したアイシャでも全貌が見えず、とにかく危険だと認識させるほどの存在。

 同盟相手ではあるが、何があるか分からない魔王界で生きる以上、より多くの魔王の情報をしっかりと把握しておきたいアイシャではあるが、ソウイチの配下に関しては観れば観るほど謎が深まっていくばかりの状況である。



「『異教悪魔』にトドメを刺した兎人型魔物……あの魔物が1番恐ろしいのと同時に、1番謎です」



 ソウイチ陣営以外、誰にも理解できないであろうハクという存在。


 どんなアビリティが発動していて、どんなスキルを使って『異教悪魔』を一撃で沈めたのか? まず『異教悪魔』のダンジョンを消滅させた技は何なのか? この議論は魔王界を1番盛り上げていると言っても過言ではない話題だ。


 1番の謎であり、1番の危険な存在であるとハクについての印象を定めるアイシャ。


 こうして振り返ると、『焔天』に進化した自分の存在が、とても小さく感じてきてしまったのだろうか、アイシャは大きくため息をこぼす。



「……気付けば同期内どころか……魔王界でもトップレベルと言えるような場所まで行ってしまったようですね。……どうにか追いつきたいものです」



 アイシャは、もう1度コアを弄り、他に参考になりそうな魔王戦争の過去映像を探し、自身のためになる戦術の研究に励むのであった。

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