第10章 『終曲』への一歩
プロローグ 『誓約の魔王』
――とあるダンジョン コアルーム
帝国領土南。
少し前まで『サソリ大砂漠』というダンジョンがあった近くに地下へと広がるタイプのダンジョンがある。
そこにいる魔王は『誓約の魔王』といい、2週間前に誕生したルーキー魔王だ。
その名は『ラプラス』。水色の長髪をサイドテールに纏めた女性人間型の魔王であり、青を基調としたコートを羽織る150㎝ほどの身長の魔王である。
誕生してからダンジョンコアに導かれるがままにダンジョンを整備し、魔物を生み出してやりくりしている。
ダンジョン名は『誓いの広場』という地下に階層が広がるタイプで、初日から冒険者が襲撃してきて苦戦していたが、とある魔王が色々教えると言い訪ねてきたのをきっかけにラプラスの魔王生活は安定ラインに乗り始めていた。
突然師匠になると訪ねてきた魔王の名は……『大罪の魔王ソウイチ』。
◇
――『誓いの広場』
ルジストルの話を聞いていてから気になって見にきたルーキーダンジョン。
Aランク冒険者に狙われて絶体絶命だったのを救助し、このままでは冒険者間の噂となってしまい潰されてしまいそうなのもあり、ミルドレッドのように『原初』の爺さんから頼まれたわけでもないが、見過ごすのも嫌だったので自ら助っ人の申し出をさせてもらった。
俺も1年しか生きていない新米魔王の1人ではあるが、さすがに生まれたてのルーキーよりかは知識も経験もあるので色々教えることができた。
「兄様……配合ができるようになりました。本当に良いのですか? SSランクの『大罪』を使用させていただいても?」
「あぁ……だが言った通り、俺の魔名はデメリットが多い。ラプラスの『誓約』も制限が多い魔名だ。ガチャで手に入れた魔名と聖魔物もあるから良いと思った組み合わせでやってみるといい」
「リスク無しで強さなど……そう簡単に手に入ると思ってはいません。生まれたばかりの私が力を手にするには……師匠からのチャンスを掴むだけです」
ラプラスの『誓約』は、自身に課した誓約を守り続ける限り強大な力を発揮し続けられるというものだ。
俺の『大罪』と似たリスクがあるが、その分大きな力を発揮させつことができる魔名ということだ。
それにしても生まれたばかりなのに、俺よりも魔王っぽい考え方をしている。冒険者や人間に対しての捉え方が出来上がってしまっている。
俺よりも王らしいし、魔王という存在に対しての吸収力が恐ろしく、とんでもない速さで成長している。
ちなみに兄様と呼ばれるのは最初とまどったが、何やら聞くと不味いような雰囲気を出されたため深堀はしていない。
(しかも俺と違って……ラプラス自身もけっこう強いのは……少し羨ましくも感じる)
今更ルーキーに嫉妬を公にしないが、すでにラプラス自身はAランクの魔物と対等に戦い合えるほどの強さがある。
こうやってラプラスと関わっていると、多くのことに気付くことができる。
これはアイシャやピケルさんと関わっている中でも疑問に思っていたが、俺にとってのリーナというような存在がラプラスにも不在なことだ。コアから直接文字説明で最初の説明を受けたそうだが……これは何の差なんだろうか?
『誓約』は『大罪』と似ているが、ガチャにまで影響は無いようで普通にピックアップを回している。
ちなみに最初は最高でCランクの魔物が当たる魔物と魔名限定のピックアップだそうだ。
「ラプラスは月に4回配合ができる……真名付与は6体、これは魔名ランクが上がれば変わるかもしれないが、期待しすぎるのは良くないかもしれない」
「ありがとうございます……尚更出し惜しみはしていられません」
ラプラスが配下の魔物を呼び出す。
チケットで手に入れた天使系統のBランク魔物『ヴァルキリー』。
武装した天使で、ラプラスから『レクエルド』という真名を授かっている魔物だ。少しだけポラールに外見が似てなくもない。
最初の配合はレクエルドにするようだ。
ラプラスの配下の中では1番強いから納得できる。とにかく最初は高ランクの魔物がいることが何よりも心強いからな。
たまたまBランクの冒険者に侵入されていたが、普通はもっと低ランク帯の冒険者が攻略しにくるような流れだから、一体高ランクがいれば安心感が違う。
……まぁ、プレイヤーのせいで、その常識が崩れつつあるけど…。
「兄様の『大罪』……ありがたく使わせていただきます」
「あぁ……どんな魔物になっても俺に報告しなくていいからな」
「もちろんです……多大な感謝はしていますが、いくら兄様でも全てを晒すことはできません」
「その心意気だ」
見慣れた光景が広がる。
なんとか手に入れたと言っていた聖魔物を含めた4つのアイテムがレクエルドに吸い込まれていき、魔法陣が展開する。
魔法陣から現れたのは、1つ1つの武装がより進化し、魔力か何かでできた羽がより強く輝いている。
「私の道を……果てしない道のりを……これからも支えてレクエルド」
「はっ! 主の覇道成就のため……この身果てるまで尽くさせていただきます!」
とんでもなく真面目で忠誠心の強すぎる魔物だ。
『誓約』と『大罪』が合わさったことでどんな魔物になったのか気になるところだが、それを聞くのは野暮な話だ。
もしかしたら今後相まみえる可能性だってあるんだから…。
俺と違ってDEを使えば一度配下にした魔物は何度でも再召喚ができるから、ヴァルキリーから派生させる魔物を何体でも配合で作り出すことができる。
この点は素直に羨ましく思ってしまうが、今更考えても仕方ないもんな。
「1年以内に魔王戦争をしなくちゃいけない。仕掛けるか受けるのかはラプラス次第だ。帝都の近くにも新しいダンジョンがあると聞いた。聞きたいことがあればいつでも連絡をしてくれ」
「ありがとうございます。この恩は……必ず返します」
「そうだな……楽しみにしておくよ」
「はい……兄様には必ず報いて見せます」
「その覚悟は良しだが、まずは自分のことだぞ?」
「兄様を超えるような魔王を目指します」
ラプラスの覚悟のこもった発言に後ろのポラールがピクッと動くのを感じる。俺を超えるって発言をダメなほうに捉えたんだろう。
本当に俺と違って最初から魔王として完成されているなと思う。アイシャなんかと似たような雰囲気と決意じみたものを感じるからだ。
「ある程度の便利な情報はコアにメッセージとして送ってある。時間があるときに読んでおいてくれ」
ラプラスにこれだけ力を注ぐのにも、もちろん理由がある。
俺は帝国南にいた魔王を3人も討伐してしまい、3つのダンジョンを消滅させてしまった。
その影響か、冒険者が全体的に減る流れになってしまっている。ダンジョンが無ければ稼ぎもないということだ。
だから新米2人の内、せめてどちらかには帝国南で長く魔王として活動して、盛り上げて欲しいと考えている。
それだけの投資をする価値があると、ラプラスには感じさせられたから『大罪』の魔名カードを渡した。
正直諸刃の剣だし、秘密が色々バレそうだったが、今生まれ変わったレクエルドはEXランクではないようなので少し安心だ。
「何から何までありがとうございます兄様。兄様へ恩を返すまで絶対に死に切れませんね」
「……俺を『誓約』に使うのかよ」
「さすがに頭がキレますね。これは私の覚悟でもあります」
「まぁ……なんとでもやってくれ」
俺を使って『誓約』を立てたようだ。
無償で手伝う俺に対して、しっかり借りを作らないという考え、それをも自分の力へと変えてしまう効率的な動きだ。
『誓約』の魔物がどんな風にこれからなっていくか楽しみだ。魔王であるラプラスがこれだけ立派ならば、配下の魔物も凄いことになりそうだからな。
帝国南を盛り上げて、アークに良い影響を与えてくれることを期待しておこう。
魔物についての話を少しして、俺は『罪の牢獄』へと帰還した。
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