第1話 会いたい『人』がいる


 『異教悪魔』との魔王戦争から2カ月が経過した。

 『大罪』の魔名があれば簡単にEXランクの魔物が配合できるという噂を信じて色々仕掛けてきた魔王、『罪の牢獄』が有名になってきたり、どこかしらの偵察でやってきた冒険者たちを返り討ちにする日々も少し落ち着いてきた。


 カノンたちの傷も癒え、アークの方は帝国内でも名の知れた迷宮都市として良い流れを築いてくれている。

 冒険者であれば誰でも『七人の探究者セプテュブルシーカー』の名をしっているだけあって、さすがに悪さはしにくいようで良い抑止力になってくれている。


 仕掛けてくる魔王たちは返り討ちにしている。

 現状で8体ほどの魔王には消えてもらった。『異教悪魔』との魔王戦争を観て、仕掛けてくるもんだから、どんなもんかと思いきや、ただ『大罪』の噂に溺れた先が見えていない魔王ばかりだったので、相手をするのはそう難しいことじゃなかった。



「人間たちの戦争は……思ってたよりも動きが小さいな」


「牽制のし合い……つまらない」


「自分たちの被害を最小限にして、相手にどれだけ大きなダメージを与えられるかを考えているからね」



 膝の上にいるメルはスライム形態でプルプル震えながら俺の発言に反応してくれている。

 後ろでモニターを見ながら報告してくれているのは、久々に会うミネルヴァだ。最近は各地に偵察に行ってきてもらったり、ユニークモンスターについて調べて貰ったりしていた。



「王国と公国が表向きにはやりあっているけど、四大国がそれぞれ小さな小競り合いを続けている……もうすぐ勇者による魔王討伐発表にも関わらず」


「どこも止まらないって感じか……平和に暮らしたい国の人たちからすれば大迷惑なもんだ」


「そんな世の中で自分の悪名を広める真似をしても良かったの? しかも聖国も含めて……」


「あぁ……上手くいくかは分からないけど、しっかり考えがあってのことだ」



 世間様に広めてもらった悪名が上手く勇者や女神様とやらに広まってくれているのなら、もうすぐ発表される魔王討伐の対象に選ばれても良いはずだ。

 女神の神託とやらで勇者たちが討伐する魔王を決めているのは知っている。今回の件で女神がどんな基準で討伐する魔王を選んでいるのか知りたい。


 それに『坂神雫』に会っておきたい。新人勇者は今までの傾向的には今回の討伐ではなく、次回の討伐からの参加になると思う。

 もし戦うことになれば全力を尽くさせてもらう。



「ミネルヴァには追々伝えるよ……残った仕事も頼んだぞ」


「はぁ……わかった。何かあったら連絡してちょうだい」



 ミネルヴァはため息を一つ吐いてコアルームからでていった。

 勇者に会いたい、坂神雫に会ってみたいというのは『罪の牢獄』にいる魔物たち、ルジストルやカノンたち、主要なメンバーには話をしてある。

 その狙いも俺なりの言葉で伝えてあり、しっかりと賛同をもらっている。アークの主要な人たちにはカノンたちからそれとなく勇者がくるかもしれないと伝えてもらってある。



「まぁここに来ない確率のほうが高そうだけど……」


「ますたーは小心者なのか大胆なのか時々よくわかんなくなる」


「どっちも持ち合わせてるってことさ……なるべく早く成し遂げたいことがあるんだよ」


「それが勇者に会うこと?」


「あぁ……会うことが第一歩だ。坂神雫って勇者にな」



 もちろんそれだけに拘っているばかりじゃいられない。

 アイシャが『鉄雲の魔王』から魔王戦争を仕掛けられて応じたそうなので、できることは手伝ってあげたい。

 戦争本番は1人で大丈夫だそうだが、情報収集のほうを手伝って欲しいとのことだ。真名持ちの魔物が『水』との戦いで壊滅してしまったから、なかなか下準備に苦労してるんだろう。


 ウロボロスとイデアに任せておけば『鉄雲』の情報収集は満足いくレベルで集められるだろうから、そっちは任せてある。


 

「ルーキー2人も順調にダンジョン運営をしているみたいで安心だ。この調子で行けばダンジョン数が少なくても帝都からこっち側に人が流れてくる可能性がグンと上がる」


「ますたーは、なんで『誓約』だけ気に入っているの?」


「ん~、一目みたときの直感と……ピケルさんとこから近かったのもあるかな?」


「ますたーは考えてるのか考えてないのか分かんなくなるときがある」


「考えているようで考えてないことが多いかもしれないな」



 帝国領土南地域に新たに誕生した2体の魔王。

 『誓約の魔王ラプラス』、もう1つは様子を見に行った時は普通に順調そうだったので声をかけていないが、ダンジョン名は『七色天下』というお洒落な名前をしたダンジョンで、遺跡内部に入り口があり、様々な天気のエリアに転移して進んでいく『天候』が特徴のダンジョンだそうだ。


 ラプラスも『天候』もどちらも強そうな感じの魔名だと思うし、上手くダンジョン運営できているところを見ると、魔王戦争も勝ち残ってくれるんじゃないかと期待ができる。

 ラプラスの方は余計なお世話かもしれないが、俺なりの助言はさせてもらっているので、ぜひとも良い魔王になってもらいたいもんだ。



「弟子をとるほど偉い立場でもないんだがな……」


「2年目にして上級魔王の仲間入りって噂を聞いてた時は嬉しそうだったよ?」


「まぁ……そりゃ~嫌な気はしないからな」


「ますたーは素直じゃない」


「魔王らしくなく、人間らしいってよく言われるよ」



 メルと他愛のない話を続けていく。

 そういえば昨日グレモリーのLvが最大にまで到達したと修行を担当していたガラクシアとイデアが笑っていたのを思い出す。

 Lv差補正での経験値は凄まじいらしく1日数時間の特訓でとんでもなくLvが上がっていくそうだ。


 ちなみに現状のダンジョンを振り返るとこんな感じになっている。



ダンジョン名 『罪の牢獄』ダンジョンLv94 知名度S 総合SS(難易度EX)

 迷宮都市 街 ルジストル・ホムンクルス多数+リーナ 難易度 無

 1F    薄暗い洞窟 ゴブリン集落+スライム+一角ウサギ 罠多数  F

 地下1F  朽ちた街 スケルトン『銅』の軍勢化  D

 地下2F  湿地帯  スケルトン(泥纏い)+血吸い蠅+スライム  C

 地下3F  嵐の海賊船上 海賊スケルトン+銅スケルトン C

 地下4F  灼熱火山 偽炎腕魔王イブリース(イデア作)  B

 地下5F  破裂の黒森  偽魔狼+偽竜(イデア作)  S

 地下6F  暗黒遺跡   デザイアが創り出した魔物3体 SS

 地下7F  崩壊した楽園  マスティマ+グレモリー SS

 地下8F  荒れ果てた荒野 フェンリル+アセナ EX

 地下9F  暗き庭園   天津甕星+ゼブルボックス EX

 地下10F  闘技場   スケルトン+全滅したら出てくるアヴァロン  EX

 地下11F  骨塗れの山  スケルトン+バビロン EX

 地下12F  永遠の星空  ガラクシア  EX

 地下13F  暗黒湿地帯  五右衛門 EX

 地下14F  星海     メルクリウス+スライム多数  EX

 地下15F  永久天地   ウロボロス EX

 地下16F  鬼の花道   阿修羅  EX

 地下17F  白の塔    イデア EX

 地下18F  大いなる大自然  シャンカラ EX

 地下19F  地獄の門   ポラール  EX

 異空間  星屑の祭壇  デザイア  EX


 居住区 果樹園  レーラズ+リトス EX

     コアルーム ソウイチ+ハク EX

           シンラ(各階層にランダム出現) EX



 ちなみにダンジョンLvの上限は200のようだ。

 ソラが特訓しにくるたびに経験値が大量に入るので、月に1度の制限を解除してアークに滞在中は週に1度で良いことにした。

 まだフェンリルには全然届いていないので先は長いだろう。それでも成長には目を見張るものがあるが…。


 アークには冒険者が本当に多くなってきて、前までイブリースは門番的な扱いだったのに、今では基本的に突破されてしまうため、メルが分裂面倒になったのでイデアにお願いして、大量のイブリースが創られて保管してある状態だ。


 地下6Fの暗黒遺跡まで到達した冒険者もいるので、マスティマたちのところに辿り着く冒険者いつか出てきそうだが、デザイアが創造した魔物に歯が立っていないので、もしかしたら数年先かもしれない。


 勇者様はどんな風に戦ってくれるのか気になる今日この頃であった。


 


 

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