第2話 『友』の強さ


――『焔輪城ホムラ』 居住区 会議室



 久々にアイシャのダンジョンにお呼ばれしている。

 会議室で話をしている内容は、アイシャが魔王戦争を挑まれた『鉄雲』の情報についてだ。

 王国で20年ほど魔王として生きている面倒な能力の持ち主で、その名の通り鉄のような雲を産み出すことができるというもの。

 雲なんてのは水滴の集合体みたいな印象で、硬さもなければ物体として認識していない程度なのに、鉄のような硬さを付与できるってことは壁も作れるし、なんだってやれるような力だ。


 Bランクの『鉄雲』は同じランク帯の魔王が『鉄雲』含めて6体程、同盟にいるようで今回は纏めてアイシャに挑んで来るという情報まで手に入れることができている。



「結論から言えば……まぁ、アイシャ1人で全然問題ないと思う」


「そうですか……本当にソウイチの魔物は情報収集が速いですね。感謝しています」


 

 ウロボロス・ガラクシア・メル・イデア・デザイアあたりが情報収集に務めてくれれば、余程の相手で無い限り、手早く情報収集をすることができる。

 Bランク魔王が6体集まったところで『焔天』にまで至ったアイシャに勝つことは不可能とみて良いだろう。


 アイシャは空席となった『魔王八獄傑パンデモニウム』の次期候補最有力とも呼ばれており、本人はなるようになると気にしていないようだが、確実に俺より強いので選ばれるだろう。1対1でアイシャと戦えば灰にされる未来しか見えない。



「気になるのは……さすがに相手も勝てないと思っているはずの戦争を何故仕掛けてきたか……」


「いくつか考えられますね」



 確かにBランクの魔王だろうと6体も集まれば、かなりの戦力であるが、さすがに相手側もアイシャ相手に挑むのは大きなリスクがあるのは承知のはずだ。

 どうしても魔名を手に入れたくて欲に溺れたか? アイシャ相手に必勝とも呼べるような策があるのか? アイシャに魔王戦争をさせたい黒幕でもいるのか?


 考えれば考えるだけ候補が出てくる。メルが直接『鉄雲』の魔王に出会うことができれば手っ取り早いのだが、それは色々リスクがあるから行動に移していない。



「ソウイチが『異教悪魔』と戦争したときのように物量作戦で押し勝てると思われているのでしょうか?」


「『水』との戦いを見たら、誰もそんなこと思えないと思うけどな……」



 確かにアイシャは多くの真名を授けていた魔物を自分の糧として失った。

 だけど、その分アイシャ本人がとんでもなく強くなった。それこそ『風蝗悪魔』と経験さえ積めば相性的にも圧倒できるんじゃないかと思わせるような力を手にしている。


 そんなアイシャ相手に単純な物量作戦でくるなんて到底思えない。もちろん深読みしすぎかもしれないが、負ければ死ぬんだから考えすぎなんてことはないだろう。



「何が待ち構えていても打ち破ってみせます。このようなところで立ち止まるわけにはいきませんからね」


「何かあればすぐに報告するよ。上級魔王でも無い限り、今のアイシャを上回るのは難しいと思うけどな」


「目の前にいますけどね。上級魔王と正式に呼ばれていないのに……私より何歩も先に行っている魔王が…」


「……」



 アイシャの鋭い視線が突き刺さる。

 一応メッセージでやり取りはしたから、ある程度の秘密は話をしたつもりだったが、まだお気に召していないようだ。

 

 メッセージでやり取りしていたときもEXランクの魔物については驚いていた。クラウスさんに言われたことを言い訳に、メッセージでは何とか逃れたが、今回はしっかり納得するまで色々聞かれそうな雰囲気だ。



「私とソウイチで魔王としての力の差があるのは今更何も思うこともありません。正直最初にメルちゃんを見たときに理解しましたから……気になるのは突然公表したことです。最近自分の名を不自然なほどに広めているのも気になります」


「さすがアイシャ……一応俺なりに考えがあってやってるつもりだ。その中の1つが勇者に会うことだ。近々発表される勇者による魔王討伐対象に選ばれるのが直近の目標だな」


「……何故そんなことを?」


「理由はいくつかある……まずは『坂神雫』だ。そいつは一応ミルドレッドの仇の1人でもある。アイシャだって想うところがあるだろうが、誰が選ばれても坂神雫は俺が1度会って決着をつけたい。それと暁蓮とかいう勇者も……会ってみたいな」


「会ってどうするのです? 戦うのですか?」


「それはもちろん……ただ会って分かることがあるんじゃないかと思っているだけさ」


「……それを語るつもりは今は無いと?」


「あぁ……まだその考え自体がフワッとしてるんだ。ちゃんとした時に確実に報告するよ。ただミルドレッドの仇であるってのは確かな話だ」



 何やら諦めたような感じで、1つ溜息をつくアイシャ。

 本当に理解力のある同盟様で助かるものだ。変に深入りしてこないところをみると、本当に付き合い上手だなって思わされる。


 アイシャだってSSランク魔名を持つ魔王だ。女神様とやらの神託の対象になってもおかしくない存在だ。

 もしそうなっても2人くらいは俺に譲ってほしいという意味合いも伝えたつもりだったが、受け取ってくれただろう。アイシャは頭が良いからな。



「『異教悪魔』との戦争をみて、どんな勇者相手でも後れをとることは無いと思いますが、勇者に会いたいって……ソウイチは話せば話すほど魔王界の異端児のような存在ですね」


「よく…人間っぽいとも言われるしな……他の魔王との比較なんてのを考えて生きようなんて思ってないしな……俺は俺であるがままにって感じか?」


「実力と実績が伴っているから良いセリフですが、EXランクの魔物がすでに10体を超えていることといい……普通では考えられないような次元にいますよ」


「俺だって可笑しいと思ってるよ。それでもせっかく手にした力なんだ……無駄にしないように全力を尽くして進むだけさ」


「変わりませんね……少しくらい天狗になってくれたほうが見ていて面白いのですが…」


「遊んでるだろ。まぁ…なんとなくだけど自然と考え方が天狗になってきている気はするんだよなぁ……」



 アイシャは柔らかく微笑みながら色々指摘してくる。

 俺からすればアイシャの方が凄いもんだ。真名持ちの魔物をたくさん失ったということは、なかなか小回りが効きにくい状況にあると言うことだ。それだけ真名を付与するしないでの魔物の性能差は大きい。本当によくダンジョン運営できているなぁ~って思わされる。


 アイシャはそう遠くない内に『魔王八獄傑パンデモニウム』の称号を手にするはずだ。もしアイシャが『魔王八獄傑パンデモニウム』になったら、俺も会合に参加するように気を付けよう。



「そういえばソウイチはルーキー魔王を目にかけていると聞きましたが、もう先輩風を吹かしはじめたのですか?」


「いつの間にかピケルさんと仲良くなって同盟組んでるってのは聞いたが、そんなことまで話をしてるのか……」


「ふふっ……随分お偉い存在になってしまって私は悲しいです」


「演技が下手だぞ……俺がラプラスを気に掛ける理由も聞いてるんだろ?」


「面白みがありませんね。もちろん理由も聞いていますよ、本当にソウイチの考え方は勉強になると言いますか、他魔王ではなかなかやらないような取り組みをするので見ていて面白いです」


「恩を売っておいて損はそこまでないしな。ラプラスは何か特別な縁みたいな感じもしたし、まぁ……楽しみの1つかな」


「師匠たちのような楽しみ方ですね。やはり影響されたのですか?」


「まぁ~、それもあるかな……ミルドレッドやラムザさんほどスマートじゃないけど、俺は俺のやり方で楽しませてもらうさ」



 アイシャと他愛のない話をし、最後に約束していたプレゼント交換を済ませてお開きとなった。

 『鉄雲』のことは引き続き調べてみて、ギリギリまでどんな感じでアイシャに挑むのか見極めさせてもらうとしよう。


 大事な友に何かあったら悲しいじゃ済まないからな。

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