第3話 『竜虎』の槍と『白薔薇』
――『罪の牢獄』 ダンジョンエリア 嵐の海賊船上
「兄者ッ! 魔物よりも船外に投げ出されることを心配されよ!」
「了解した! 魔物は少し変わったスケルトンばかりだッ!」
――ズバッ! ザシュッ!
薙刀と呼ばれる槍の1種が『海賊』の魔名の力で強化されたスケルトンたちを用意に薙ぎ払っていく。
大雨に激しく揺れる海賊船という特殊なエリアでありながら、『竜虎兄弟』と呼ばれる兄弟冒険者ペアは難なく魔物を退けていく。
彼らは冒険者になって20年、ともにSSランクの実力を持つ本物の兄弟コンビ。
竜の模様が彫られた赤と金の鎧をしたスキンヘッドの男が『テレンズ』、虎の模様が彫られ青と銀の鎧をしたモヒカン気味の男が『ラインズ』である。
2人は最近各地で噂を聞いていた『罪の牢獄』に挑戦しており、今のところ自慢の薙刀捌きで、まったく問題なく攻略できており、「嵐の海賊船上」も難なく突破した。
「兄者……次の階層へ参りましょう」
「次は炎の悪魔が1体だったはず……気を抜くな」
2人の2mを超えた身長から繰り出されるパワーとリーチのある薙刀捌きと抜群のコンビネーション、しかも2人とも回復魔法と付与魔法の心得もあり、隙あらば互いを支援し合うという2人で役割が完結しているパーティーなのである。
事前準備も徹底しており、顔見知りであった元『
「SSランクダンジョンという話だが……本当に序盤は強化されたGランクしかおらんかったな」
「ここからは少数精鋭の魔物たちがエリア門番となっている形式のようですぞ」
自分たちよりも格下と思えるような魔物でも油断せず、新エリアに入る前のバフも抜かりない2人は偽イブリース、そしてその次階層のイデアが創った魔狼とドラゴンをも超えて地下6Fの暗黒遺跡に辿り着く。
――ガキィンッ! ドシャァッ!
2人がエリアに到着すると薄暗い遺跡内部には激しい戦闘音が鳴り響いていた。
漁夫の利を狙う冒険者が世の中に多い中、2人は顔を見合わせると、すぐに戦闘音の方へ走り出し、助太刀するために自身にバフをかける。
2人が戦闘音がする地点に到着すると、魔力を纏って浮遊している巨大な頭蓋骨が触手を大量に内部から伸ばしており、金髪とスタイルの良い体型、白いロングコートを着用し、細剣一本で戦っている男と激しい戦いを繰り広げていた。
竜虎兄弟には1人で戦っている細剣使いの男に見覚えがあった。
「助太刀致すッ! 猛虎破斬撃ッ!」
「『孤高の白薔薇ロートス』よ! 不要かもしれぬが手をださせていただく!」
「くっ! やはり追いつかれてしまったか……」
――ドシャァァァンッ!
ラインズがロートスに迫っていた触手に闘気をこめた一撃を振り下ろす。その一撃で触手の一本は弾け飛び、ロートスは体勢を整えるために背後に大きく跳ぶ。
ソロで活動するSSランク冒険者『孤高の白薔薇ロートス』。
細剣一本で大活躍している元王国騎士団に所属していた経歴もある男で、1人で様々なロールをこなせる万能性や王国騎士団で培った剣技、それに多くの属性魔法にも精通しているという天才である。
さすがにSSランクともなると、互いに名前は聞いたことあるし、何かしらの大型依頼で顔を軽く合わせたことがあるので、竜虎兄弟も躊躇せずに介入できたのである。
「兄者ッ! 触手の再生速度が異常ですッ! 本体はかなり堅い!」
「そいつと視線を合わせるなッ! デバフをかけられる!」
ロートスが自分のために時間を稼いでくれているラインズに声をかける。
それなりにプライドの高いロートスだが、さすがにこのような命を落としかねない場面でプライドがどうとか言っているほど頭の悪い冒険者では無いのだ。
テレンズもロートスにいくつかの付与魔法をかけ、体勢が整ったところで合わせて前線へと駆ける。
ロートスは自身がメイン火力を担い、竜虎兄弟に連携力を活かしたサポートを頼み攻勢を仕掛けていく。
「触手をいくら攻撃しても本体にはダメージは無さそうだ! 頭蓋骨内部を攻撃するように攻める!」
「兄者ッ! 我らが切り開きましょうぞ!」
「応ッ!」
竜虎兄弟が様々な武技を使用しながら頭蓋骨までの道を切り開いていく。
頭蓋骨を見るとロートスが言っていたように様々なデバフを付与されてしまうので、3人ともなるべく足下を見ながらの戦闘だが、さすがはSSランク冒険者というような攻勢をしかけていく。
竜虎兄弟の連携と武技を中心とした攻めは触手を軽々と切り開いていく。テレンズはテクニックと機動力の攻めを中心としており、ラインズはパワーで攻める攻撃の前に触手たちでは為す術がない。
そしてロートスが浮遊する頭蓋骨の近くまで辿り着く。
ありったけの魔力を細剣に籠めて、巨大な頭蓋骨にむけて勢いよく跳ぶ。
「
「オォォォォォォォォォォッ!」
――ズシャシャシャッ! ガシャァァァンッ!
巨大頭蓋骨の口部分に突き刺した細剣『
不気味な雄叫びをあげながら頭蓋骨の魔物は粉々に砕け散って行く。
完全に消滅したのを見て、3人は一息つくが、素材が何も手に入らないという事態に少しだけ焦りが生まれる。
「……地下6階層以降の魔物からでる素材が超高額で買い取りになっていたが……まさか消滅する魔物が存在しているとはね」
「兄者……どうしますか?」
「幸いアイテムは豊富に残っている。最悪未踏である次の階層も視野に入れるぞ」
「……助かったよ。さすがは竜虎兄弟だ。足下だけしか見ていないのに、あそこまで捌き切れるなんて、武技の達人は違うね」
「お主こそ……さすが宝剣『
「ソロで活動するだけありますな……それにしても…兄者」
「うむ……最後の雄叫びは援軍を呼ぶためだったようだ」
話ながらも回復に努める3人に近づく浮遊する巨大頭蓋骨の影が2つ。
そこまで広くない遺跡エリアのどこから沸いたかは3人とも疑問に思ったが、1体でも苦労していた魔物が2体同時ということで、瞬時に3人は武器を構える。
頭蓋骨が2体固まって現れたわけではないので、3人は語らずとも確実に1体ずつ仕留める陣形に配置し直し、爆発的な勢いで1体の頭蓋骨にむけて跳ぶように向かっていく。
「オオオオォォォォッ!!」
「「「ッ!?」」」
予想だにしない咆哮からの衝撃波。
先ほどと外見がまったく同じであり、先ほど通用した戦法に対しての完璧な返し技に、3人は驚いてしまう。
何故先程の個体が使用してこなかったのかは考えず、2体の射程圏内に入ってしまう前に1体をゴリ押しで倒そうと、少し無理をしてでもという意気込みで前へと跳ぶ。
「剛虎戦進ッ!」
「竜爪跋扈ッ」
「パラディンストアイクッ!」
「オオオオォォォォォォッ!!」
――ドシャァァァァンッ!
巨大頭蓋骨から放たれる咆哮に対して、3人がそれぞれ使える突進型の攻撃スキルをぶつけていく。
完全に肉を切らせて骨を断つ戦法で、3人とも衝撃波をまともにもらい、身体に傷が増えていくが、巨大頭蓋骨を正面から粉砕することに成功する。
残った1体を睨むように構え、3人は体勢を整える。
仲間がやられたことを特に気にしている様子も無く、巨大頭蓋骨はフワフワと宙を漂いながら3人を見つめていた。
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