外伝 『真剣』だからこそ
――『罪の牢獄』 ダンジョンエリア 闘技場
「本当にいるもんだな……」
人間たちが寝静まったであろう夜遅い時間。
何故か人間と同じような生活リズムで生きている俺は、気持ちよく寝ていたところをメルに起こされ、闘技場で悩んでいる蛙に声をかけてきてあげてほしいと言われたので来てみたところだ。
闘技場の観客席で物思いにふけっている五右衛門を発見したので、とりあえず真横の席まで行ってみることにした。
「……こんな時間にどうしたもんじゃか? 本物の主かのぉ?」
「何やら五右衛門が悩みがあるという噂を聞いたもんでな。とりあえず声をかけてみようかなって思って来てみたんだよ」
「ふむ……今に始まった悩みというものでも無いんじゃが、儂がここに来てから、色んな者に挑んでおるものの、『
とてもまったりとした口調で語り始める五右衛門。
俺が寝ている時間帯、毎日のように闘技場で誰かしらが模擬戦をやっているって話は聞いていたが、何やら五右衛門は勝率が悪くて悩んでいるようだ。
……闘技場で正面から戦うことが五右衛門の勝率の悪さの原因な気がするけど、ツッコミを入れたほうが良いのだろうか?
「…まぁ儂は正面から斬り合うようなタイプでは無いのは百も承知じゃ。じゃが奇襲戦となると、儂よりもデザイア・ウロボロスあたりの方が優秀。奇策に走るにも、レーラズ・イデアがおるもんでなぁ」
「……自分の役割ってやつの問題ってことか?」
「もちろん儂にしか出来んことは把握しておるつもりじゃ、しかし……『罪の牢獄』に来てから、ここにおる皆は日に日に力を付けていき、可能性をどんどん広げておるのを見ると……儂も頑張らねばなという問題じゃな」
「……『
「皆凄まじい熱量で正直驚いておる。誰もが強くなることに『真剣』じゃ、模擬戦の勝ち負けに一喜一憂するような世界になってきとる。儂も全力じゃからこそ結果が出ぬことに悩むというもんじゃ」
「……五右衛門はそういったことで深く考えないようなタイプだと思ってたんだけどな」
「最初はそこまで気にしとらんかったんじゃがのぉ……他の者の熱が移ったやもしれん」
「真剣の熱か……」
経験がそこまであるわけじゃないけど、なんとなく五右衛門が感じている感情が解るような気がする。
真剣になるってのは良いことだと思うけど、真剣になればなるほど、壁にぶち当たった時や、失敗してしまったときの自分へのダメージは大きくなってしまうような気がしてしまう。
他にも真剣がゆえに悩んでいるってのは、俺の予想ではあるけどガラクシアや阿修羅なんじゃないかなって思う。
ポラールはLvの限界突破のおかげで生まれ変わったから、自分を知るって意味では、また1から悩ましい生活を送ってそうだ。
「俺は皆の強さに甘えて、そこまで熱のある毎日を送っていないからな……とにかく生き残るために考えてはいるけど」
「儂らから見れば、主の生き方は真剣さの塊じゃ。徹底的に完勝することに拘れるのは凄いことじゃと思うぞ」
敗北が成長に繋がることもあるかもしれないが、魔王戦争は負けたらそこで魔王としての生涯を終えなくてはならないので、負ける要素を限りなく0にしていかなきゃいけない。
『
「真剣にやればやるほど……負けるときが怖くなるもんだな」
「負ける時を考えてしまうと怖いかもしれんのぉ。儂は他の者の熱量に付いていけてないときは少し億劫になるもんじゃが」
「そんなに夜中の模擬戦って盛り上がってるんだな」
「主が思っとる以上に、皆戦闘経験を積むことができておる。しかも『
自身に影響というよりは、相手に影響を与える能力が多い『
能力値だったり、Lvを参照するデバフ能力が多いから、なかなかLvが上の相手に勝つのは難しいとは思うが、そのLv差をどう考えていくかに熱をこめているんだろう。
特に阿修羅なんかはLv1000勢に対して頭を悩ませていそうだ。戦闘狂だし。
ガラクシアは『
「ポラール・イデア・デザイアあたりが何でもこなせるから、儂らも自分らしさに磨きをかけることに精一杯じゃ。アヴァロン・レーラズ・メルあたりは割り切り方が上手だからええもんじゃが」
「その3人は模擬戦への取り組み方が違いそうだよな……いかに時間をかけさせて守ったり、相手を退かせることを前提に戦ってそうだもんな」
「1戦1戦……各々高いレベルで目的があって戦っておるもんじゃから、老人は着いて行くのに精一杯なもんじゃ」
「意識高すぎて、逆に怖いんだが……」
「我らがリーダーが凄いもんじゃからなぁ……他者に同じ熱量を求めるタイプではないが、リーダーがあの必死さなのに儂らが甘いことはできんもんでな」
「ポラールらしいな。俺はあそこまで真剣な真面目さ無いからな~……俺はのんべんだらりと肩の力抜いて生きていきたいよ」
「少しでもサボっとると怒られるから恐ろしいもんじゃ。なんだかんだデザイアも働くもんじゃから肩身が狭いぞい」
「デザイアのお昼寝は、俺たちが寝るのと別物らしいから、あれはあれで頑張ってくれてるよ」
改めて話をしていると、いかに『罪の牢獄』にたくさん働いてくれる素晴らしい面子が揃っているのは、魔王として感動の嵐だ。
五右衛門も、こんなことを言っているが、かなり働いてくれているし、外の世界で生きていた経験を色々教えてくれる。
五右衛門には五右衛門の真剣さってのがあるだろうし、五右衛門なりの熱量をしっかり持ってやってくれてるから心配は無さそうだ。
「……思ったよりピンピンしてて安心したぞ」
「こうやって主と話す時間は、儂らにとっては有意義な時間になるもんじゃからありがたいもんじゃ」
「そう言ってもらえると魔王としても嬉しいよ」
「こうやって主と話をすることで、また儂の熱が増すやもしれん。そろそろ阿修羅あたりを転ばせてやらんとな」
「物騒なもんだが、阿修羅も真剣勝負で成長していくだろうから、良い流れになりそうだな」
「若いもんには負けられんのぉ」
思ったより元気そうだった五右衛門との心温まる話を終え、とりあえず部屋に戻って寝ることにしたが、話をしていて謎だったのはメルが何を思って、俺を五右衛門のところに行かせたかってことだ。
聞いてやろうかと思ったが、俺のベッドのど真ん中でスヤスヤ眠るメルを見て、俺もとりあえず寝ることにした。
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