外伝 『力』の集い


――『罪の牢獄』 居住区 食堂



 『異教悪魔』との魔王戦争に無事勝利を収めた『大罪』陣営。

 魔王戦争前の平和な日々とまではいかないまでも、ある程度穏やかなダンジョン生活を送っていたある日のお昼ごろ。


 戦争報酬でLvが1上がり、さらに強化されたことで『罪の牢獄』最強の座を再び名乗り上げれるのでは無いかというところまで強くなったポラール。


 圧巻の単騎戦闘力で魔王界を絶句させた『大罪』陣営最強の僕ッ娘兎であるハク。


 最近表に出過ぎて若干疲れが溜まっており、睡眠時間が増えてきているデザイア。


 戦争が終わってからの一時の平和中ですら、言われたままに働きまくっており、ソウイチにすら働き過ぎて心配されているシャンカラ。


 食堂に集うは『罪の牢獄』最強戦力たち。

 Lv1000というコアの規定にも表記されていない頂きまで辿り着きし、究極の4体。


 そんな恐ろしい面子が食堂でお昼ご飯を食べているという珍しい1日。



「Lv上がって、なんかスッキリした感じだね。僕から見てもオーラ出てるよ」


「……また一歩強くなれたのは嬉しいですね。リーダーとして皆の示しになれるような働きをしていけそうです」


「ポラールがこれ以上働くと、妾が寝てばかりで注意されてしまうからやめて欲しいんじゃが……」



 各々違う味のラーメンを啜りながら、和気藹々というよりも。少し事務的な雰囲気が漂うほど、真面目な話をしながら食事をする4体の魔物。

 

 話題はポラールがLv1上昇したことによる劇的な強化について話が展開されていた。



「Lv1上がるだけで、あそこまで強くなるだなんてね。僕の『神化アヴァターラ』よりも万能なスキル構成なんじゃないかな?」


「貴方の『神化アヴァターラ』ほど幅広いことは出来ませんし、ハクやデザイアほど尖ってもいないので、器用貧乏止まりな気もしますけどね」


「スキル6種当てた相手を確殺して、ハクと似た能力封じを持っておいて、よく言うもんじゃ」


「僕が1番強いってのは自信あるけど……リーダーの最終兵器だけは僕と五分でやり合えるんじゃないかな?」



 ポラールが強化されたことで劇的に変わった能力と言えば3つ存在する。


 まずは自身のスキルを6種以上受けている相手を確実に即死させる拳打を放てる『絶望的デッド・エン六法則ド・シックス』。


 ポラールよりもLvが低い、つまりLv999以下の相手を能力封印状態にしてしまうという絶望的なまでに強力な『善悪二天論ツヨサコソセイギ』。


 そして『罪の牢獄』最強のハクですら認めざるをえない『至高天・堕天奈落輪廻パラダイス・ロスト』使用終了後からという時間のかかる制限はあるものの、この世界で最強の言葉『絶対』というルールすら捻じ曲げることが可能な最強結界『真覇渇望・原罪アヴェスター・を抱け怒りの理までディエスイーラ』。


 尖ってはいないとポラール自身は言うが、どこからどう見ても敵を確実に殺すことしか考えていない殺意増し増しの能力構造になっているのだ。


 いくつかのアビリティを失い、リーダーらしいバフ力は失われたかもしれないが、確実に対象を破壊することに少し尖ったことで、元々戦闘好きであったポラールからすれば嬉しい変化であっただろう。



「ご主人様の想定通り、私たちと同じEXランクの魔物はたくさん存在しているようですね。『皇龍』が口封じをしていただけで近くに潜んでいるかもしれません」


「僕が斬った奴は雑魚だったけどね。弱すぎて逆に驚いちゃったもん」


「お主と良い戦いできるような魔物が多かったら困ってしまうのう……あまり働きたくはないんじゃが……」


「僕たち4人は、個々で戦うことが多くなりそうだから、もっと研鑽を積んでいかないとね」


「戦闘となれば阿修羅やイデアも居てくれていますし、ご主人様の目的が達成されるまで、全力を尽くしましょう」



 魔王界を激震させた『異教悪魔』と『大罪』の魔王戦争。

 EXの魔物という存在だけでも十分に衝撃を与えたが、『大罪』陣営の魔物があまりにも強すぎるということでも衝撃を与えた一戦は、過去の歴史を振り返っても、これ以上に無いほど、魔王界に影響を与えている。


 特にソウイチは、全ての魔王が警戒し、その『魔名』を狙われる立場となった。あの戦力を見せられても、どうにかして『大罪』を手に入れようと画策する魔王は日に日に増え、たくさんの同盟が新たに作られているのが現状だ。


 もちろん黙って見過ごすソウイチではなく、お得意の寝込み襲撃大作戦で数組の魔王同盟を壊滅させているので、アークに攻め込んでくるような無謀な輩は、今のところ存在していない。



「マスター本当にやりたいこと口にしないよね~。 何でか頭でも考えすぎないようにしてるみたいだし、変わってるよねー」


「伝える方法が変わっとるが、今のところ成功しとるからええじゃろう。妾たちが働きすぎんでも良いように計画的にやっとるようじゃしな」


「ご主人様本人もおっしゃっているように、頭は良くなくても、悪巧みと空気を読まない行動とやらは自信があるそうなので信じましょう。我らが王は現魔王界で1番流れがあるお方です」


「アレルギーなんじゃないかってくらい、ウチの王様は王道展開とか言うのを嫌ってるからね。人間っぽいとも言われてるけど、魔王らしさも本当に多いもんだね」


「堂々と『不意打ち初見殺し最高!』と言っておるのは、魔王界では不評らしいもんじゃが、ウチの主はそれを生きがいにしとるからのぉ~……妾的にはやりやすいからええんじゃが」


「デザイアとウロボロスは特に重宝されていますね。ご主人様が考える戦術の核となっているので、相性が良いと捉えれるのは素晴らしいことです」


「僕的にはシャンカラが『破壊ト再生ノ神シヴァ』になって初発打ち込むほうが楽しそうに感じるけどな~」


「ん~……この前の戦場くらいの広さだったら、下手したら自分たちの陣地も消し炭にしちゃう可能性があったから使用許可を出さなかったんじゃないかな? 全員均等に戦闘経験をさせたいっていう目的もあったようだしね」


「不意打ち初見殺しとやらをモット―にしとるのに、満遍なく戦闘経験を積ませて、基礎力を上げる……なんとも面白味は無いもんじゃが、勝つという観点ではええもんなのかもしれんのぉ」


「他の魔王と違って、私たちはコアから復活できませんからね。ウロボロスのスキルと同じような相手にやられてしまったら、その時点でお終いですから、より確実に勝つことに焦点を当てるのは仕方ないことでしょう」



 普段は別々の仕事を任せられることが多いので、そこまで顔を合わせる面子ではないのが影響しているのが、話がどんどん盛り上がっていく4体の魔物。


 気付けばソウイチのモットーについての話で盛り上がっており、どれだけ配下に愛された魔王なのか、よく伺えるような微笑ましい食事風景が続いている。


 そんな平和な食事タイムを崩壊させるハクの一言が響き渡る。



「やっぱり、この『豚骨ラーメン』ってのが1番だよね♪」


「……そこは『醤油ラーメン』では? しつこくなく食べやすく…1番だと思いますが」


「わかっとらんのぉ~、そこは『塩ラーメン』じゃろうて」


「僕は『味噌ラーメン』が1番だと思うよ。バターが合うし、野菜との相性も良いしね」


「「「「………」」」」



 ハクが投下したのは、どの味のラーメンが1番なのかという禁断の爆弾。


 それぞれが食べている味の主張を各々が投下し、その後訪れるのは僅かな静寂。



「やっぱり僕が1番強いってのを再認識させてあげるよ♪」


「リーダーの強さを身体に刻み込んであげましょうか?」


「お主らを『塩ラーメン』のことしか考えられんように渾沌に引き込んでやるのじゃ」


「『神』っていう重さを体感させてあげるとしようかな」



 それぞれが箸をどんぶりの上に置き、軽く体を伸ばすように動かし、睨み合いを始める。

 

 闘気や魔力、邪気が満ち溢れるはじめ、周囲の空間が僅かながらに歪み始めていく。


 そんな食堂の異変に素早く察知し、こそっと覗きに来た者が1人。



「……強いけどおバカ」



 食堂で始まりそうな大激戦を覗き見していたのは、スライム形態のメルクリウス。


 さすがに不味いと思ったメルクリウスは分裂を使用してソウイチに素早く現状の報告をする。


 この後、味の好みで戦争を始めそうだった面々は、ソウイチからのお叱りで解散する同時に、ソウイチの『ラーメンより蕎麦じゃないか?』という無駄な一言で、主を巻き込んだ新たな戦争を始めることになったのは、また今度のお話である。

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