エピローグ 真なる『敵』は…。


 新たな仲間グレモリーを加え、食堂にて祝勝会を行っている。

 さすが大悪魔、闇系統の魔物が多い『罪の牢獄』には相性の良い魔物が多いようでよかった。マスティマは天使だけど悪魔みたいなもんだから大丈夫だろう。


 約1年が経過して充実した戦力になったんじゃないかと、自分でも思う。

 今日は『八虐のユートピア』たちとの戦いの傷を癒すために療養中だが、カノン・アルバス・ソラを筆頭とした冒険者グループは、数は少ないが個々の強さで見ればどの迷宮都市にも劣らないはずだ。


 ビエルサやミネルヴァのように影で仕事ができる強力な人材もいる。

 ビエルサには本当に何から何でもやってもらっているようで、ルジストルが酷使しているようなので声をかけておかないとな。

 ミネルヴァは、舐められたりもしたが少し強引にでも仲間にしておいてよかった。実力はもちろんだが、一般人では知り得ないことをたくさん知っている。ルジストルと悪だくみを毎日のようにしているらしいので、やりすぎないように声をかけておかないとな。



「ルジストルとリーナに任せてばかりで、最近全然把握できてないな……」



 日々人の出入りがあるアーク、新たな建物だったり、冒険者が滞在しているのを、報告はもらっているが全然頭に入っていない。

 さすがに何から何でも把握しておこうなんて思って無いが、ここ最近は魔王戦争に集中していたので、少しアークにも時間を作ってでむかないとな…。


 

「若……せっかくの祝勝会で、そんな眉間に皺を寄せていると盛り上がらんぞ」


「そうだな……せっかくの祝いの場だ。飲もうじゃないか」


「ご主人様……体調を崩さないようにしてくださいね」



 阿修羅から酒を注いでもらう。

 俺以外は勝って当たり前みたいな感じで、そこまではしゃがないところが大人な感じがするなぁ…。

 戦力的に見れば当たり前だったのかもしれないが、相手が油断しまくってなければ、苦戦する可能性もあった戦いだったから、個人的には大喜びなんだがな…。



「あんまり歯応えがなかったか?」


「数だけだったな……メルにハクが斬った俺たちと同じランクの魔物について教えてもらったが、そこまでだったから……特に思うことも無い戦争という印象だ」


「物量作戦とパズズの奇襲だけが作戦っぽかったからな……せっかく何体も魔王がいたのにもったいない」


「ご主人様が戦った魔王は、それなりの実力に感じました。フェンリルやアマツでなくて良かったですね」



 阿修羅とポラールが冷静に戦争の振り返りをしている。

 真面目な話をしていると、俺たちが何を話しているのか気になったのか、みんな魔王戦争で盛り上がり始めた。

 

 メルがバフォメットを喰らって奪った記憶の中には、俺への印象は数で押し続ければ勝てる程度の相手としか認識されていなかったようで、パズズは早期に決着をつけると思っていたから、特に作戦を考えていなかったようだ。


 フラウロスとかいう時空間魔法が使える魔物とパズズが奇襲を仕掛けるだけで勝てると思われていたのは心外なもんだが、普通の相手ならば有効な手段だ。

 イデアとウロボロス、デザイアにシンラがいる中で、時空間系統での奇襲は完封できたから気にしたことも無いが、普通の魔王戦争では、かなり有効な手段だったんだろう。



「なんだかんだパズズ相手にリトスの最終奥義まではいかないけど、けっこうな札使わされたからなぁ~、あれで『魔王八獄傑パンデモニウム』最弱候補ってんだから恐ろしい」


「蝗と蠅の戦いって、ちょっと怖いよね~♪」


「儂はハクの邪魔にならぬようにコソコソしておっただけ……」


「次の戦争は五右衛門の活躍に期待されてるって……今回は残念なもんって割り切るしかないよ」



 しょんぼりする五右衛門をイデアが笑いながら慰めている。

 ハクが規格外ってのは、どの魔王にも通用しそうだ。本当に完封してくれるし、戦闘だけならば本当にヤバいもんだ。


 ちなみに規格外のハクと互角に殴り合える存在が爆誕してしまったようで、ハクは慌てていた。

 Lv1000になり、至高天の先を手にしてしまったポラールがハクと模擬戦で楽しくやりあっていたようで、ハクが追い越されたくないと言いながら昼寝の時間を削って隅で特訓していたのを見た。



「儂もLv上限解禁してくれー! 儂もドヤ顔したいんじゃぁー!」


「私は別にドヤ顔していません!」


「ますたー、ポラールが強くなって恐怖政治がはじまっちゃう」


「そんなことしませんし、今までもしなかったでしょう!」



 進化したポラールを弄って楽しむ面白い景色も見られて平和なもんだ。

 1年経てば魔王として地盤が固まると話には聞いていたが、こうして思えば凄いことになったもんだ。

 『銅の魔王』と魔王戦争していた頃が嘘みたいな騒がしさだ。今『銅』と戦ったらどうなるのかやってみたいもんだ。

 

 この1年を生き残った同期の魔王たちが、どんな1年を過ごしたのか何かの機会で知れないものだろうか?

 ダンジョン運営に1年集中した魔王もいるだろうし、俺みたいに迷宮都市に力をいれた魔王もいるだろう。魔名ランクを上げることを意識した魔王もいるだろうし、1年で見違えるような成長を各々しているはずだ。



「そういえば…次のルーキー魔王がどこかしらで生まれてるってことになるな」


「ちなみに『サソリ大砂漠』があった近くに新たなダンジョンらしきものが発見されています」


「その報告……初耳なんだが?」


「やることが多くなって忙しくなるとルジストルが心配していましたので」



 ポラールが申し訳なさそうにしていると、俺を心配していてくれていたらしいルジストルがニコニコしながら近づいてくる。

 俺の心配するよりも、自分の心配をしてほしいもんだが、悪だくみすると元気になるという話を聞いてから特に仕事を押し付けるのに躊躇しなくなってきた最近である。



「閣下が知ると、変に気にしてしまいそうですからね。今後は目を広げて進んでいただかないと……新しいダンジョンはこちらで調査して報告しますのでご安心を」


「絶対ポラールが言わなかったら、ずっと黙っているつもりだっただろ?」


「報告書はしっかり提出します。閣下が読むかは分かりませんが……」


「しっかり全部目を通しているつもりなんだがな……」


「閣下は優先順位決めが速いですからね。資料の中でも自然と優先順位を決めているのでしょう」


「それを理解して報告資料提出してるだろ?」


「それはもちろん……閣下の忠実な配下ですから」



 ルジストルのこういうところは、さすがに慣れた。

 なんとなくだけど、こういうタイプはある程度好き勝手やらしておくほうがノビノビと良い結果を出してくれる気がするから見守ることにしよう。

 俺よりも頭回るだろうから変なこともしないはずだし…。



「それよりも……魔王戦争で得られた黒幕とやらは……どのような方だったので?」


「あぁ……いやーびっくりしたよ。1度だけ会ったことある相手だし、まさか会ったその時から裏で俺の魔名を狙っていたなんてな」


「では……準備次第でまた戦を?」


「向こうは俺が気付いているかどうか知らないだろうからな……静かに機を待つさ……さすがに相手が相手だ」



 ちょくちょく名前はでていたが、まさか色んな魔王を使って、俺を試しつつ魔名を狙われているとは思わなかった。

 クラウスさんが言っていたEXの件が、今回の魔王戦争で完全に嘘だと分かったんだから、もう信用はできない。


 どんな相手でも油断しないようにしなくちゃいけない。


 そして今回は判明した、俺が討つべき相手は最大限の準備をして挑まなくちゃ勝てないと思う。



「さぁ……この出来損ないの筋書きを崩しに行こうじゃないか」

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