第17話 『塔』の崩壊
――『罪の牢獄』 ダンジョンエリア 暗き庭園
「やはり……こうなってしまうのですね」
ルジストルの館でソウイチと話していたバベル、気付けば視界に映っているのは薄暗い空間に佇む巨大な和風の館。
砂利と数本の松が美しく並ぶ、庭園の中にバベルは立っていた。
話し合いが破断し、数的に圧倒的な不利であった自分たちが何かしらの形で戦うことは予測できたものだ。
そのことを想定して帝国上層部はクピドを帯同させたが、あっさりと能力を封じられて3人は分断されてしまった。
1度ソウイチの配下である阿修羅に遊ばれて完敗している立場としては、どうにかして戦いたくなかったが、この状況になってしまったからには仕方ないと割り切り、バベルは自身の剣を鞘から抜く。
「……上層部の意図はわかりませんが……戦うことにも帝都を救う道がある判断であるはず」
阿修羅の力を知っているのもあり、きっと自分よりも遥かに強い魔物が待ち受けているであろうと予測し、どこかに逃げ道がないか確認するも、薄暗い空間、庭園の外は森になっているようで先が見えない状況。
すぐにでも迎え撃てるようにバベルは自身の剣に魔力を纏わせる。
「『破綻ヲ招ク者ヨ……我ガ声ヲ聴ケ』」
「ッ!?」
――バッ!!
バベルにむけて突如響き渡る感情がまるでこめられていない言葉。
咄嗟に声の聞こえた正面から距離をとるように跳びながら、自身に言葉を投げかけてきた正体を見破るべく、目を凝らして対象の姿を捉える。
バベルの目に映ったのは顔色が非常に悪そうな女性の顔をし、全身に装甲と呼べるような黒い装具を身に纏い、6本の腕が特徴的な魔物だった。
「……破綻を招く者、私の能力は把握済みということですね」
「……」
『罪の牢獄』ダンジョンエリア地下9Fの守護者。
人型ゴーレムの天津甕星がバベルの前に立ちはだかる。バベルからの問いかけには応じることなく、じっと魔力を纏っているバベルの剣を見つめている。
バベルの『
災難・破滅・悲劇……対象にとって悪影響にしかならない何かを発生させる恐ろしい力。そんな自身の力を把握されていると察知したバベルは視界に映る天津甕星をどう攻略していくか頭を回転させる。
(鬼の時のように能力が使用不可という感じではない……単騎で堂々としているところを見ると、単純な戦闘力は私よりも上……様子見なんて言ってられない)
バベルは周囲に気を張り巡らせ、正面に居る天津甕星以外に魔物の気配を感じないことをしっかりと確認し、全身に闘気を纏わせる。
様子見での牽制は隙をつくり、一瞬の隙すら致命的になりかねないと本能的に感じ取ったバベルは素早く仕掛けるため、勢いよく剣を地面に突き刺す。
「『怒りの鉄塔』」
――ドドドドドドドドドッ!!
天津甕星を囲むように地面から突き出てくるのは触れれば『
一瞬にして天津甕星を囲むことに成功したことを目視したバベルは自身の放てる最大の技を天津甕星に叩き込むべく、地面に突き刺した剣を抜き取り、大量の魔力を剣に纏わせ、勢いよく天に掲げる。
バベルの魔力が剣の先端から勢いよく天へと昇る。黒と紫の2色でできた巨大な魔法陣が空に展開される。
「『
――ドシャァァァァンッ!!
上空に展開された巨大な魔法陣から、『怒りの鉄塔』の中央へ勢いよく放たれたのは一筋の雷。
着弾と同時に轟音を響かせ、天津甕星を囲んでいた『怒りの鉄塔』をも粉々に粉砕してしまうほどの威力。
『
天より放たれる雷は、特段凄まじい威力があるわけではないが、触れた者をまさしく『破綻』させる恐怖の一撃。触れた者にバベルですら予測できない不の出来事を長期に渡り強制し続けるという悪夢のような技だ。
『
砂煙が消え、視界が良好になってきたバベルの目に映ったのは、かすり傷1つ無い状態の天津甕星だった。
「………」
パッと見た感じ無傷だったことも驚きではあったが、『
本来なら雷を受けた瞬間に想像を絶するような不運が訪れているはずなのだ。正常に立っていることは普通なら考えられないのだ。
無傷どころか、先ほどよりも圧が強くなっているように感じるほどである。
「………」
「……教えてくれるような優しい魔物では無さそうですね」
バベル最大の大技を受けて何もダメージを受けていないどころか、バベルの『
今起こっているのは天津甕星が最初にバベルに投げかけた言葉から始まっている出来事なのだ。
『
バベルの『
バベルの絶望的なまでの不運を押し付ける力は、天津甕星の『
先ほどまで以上に強化された天津甕星を前に、自身の持てる最大の技が通じなかったことで心が折れかけているバベルだったが、帝国騎士としての誇りだけが、なんとか彼女に剣を握らせる。
(あの場で殺すのではなく……わざわざ転移させてこの場に移動させた。何かしら意図があるはずです……悪足掻きに阻みたいところですが、まったく予測ができません)
「………」
自身の能力が通じない不利な状況でありながら、バベルは少しでも何かしてやろうと頭を働かせる。
そんなバベルを不動の様子で観察する天津甕星。圧倒的な力の差が元々存在しているのにプラスして、『
そんな僅かな沈黙を打ち破るように、どこからか声が鳴り響く。
「アマツ……もういいぞ、ソラが十分覚えたから終わりだ」
「……魔王の声」
天津甕星に対して向けられるソウイチの言葉。
気配をまったく感じないのに鳴り響くソウイチの声に対して警戒したいところだが、正面の天津甕星に対して視線を逸らすことは死を意味すると感じ取ったバベルは、決して視線を逸らそうとしない。
ソウイチの指示を受けた天津甕星の口が開く。
ついに何かしら話しかけてくるのだろうかと身構えたバベルに対して天津甕星が放ったのは…。
――パァンッ!!
「……えっ?」
――ドシャッ!
大きな銃声が天津甕星の口元から響き渡り、バベルの脳天を綺麗に弾丸が貫いていった。
『
ピクリとも動かなくなったバベルに対して特に何も反応を示すこともなく、天津甕星は任を終えたということで、ソウイチの元へと静かに戻っていったのだった。
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