第18話 『恋人』は惑う
――『罪の牢獄』 ダンジョンエリア 永遠の星空
「ど、どうなってんの?」
ポラールによってルジストルの館から『罪の牢獄』ダンジョンエリア地下12F『永遠の星空』に抵抗する間もなく跳ばされてしまったクピドは周囲をキョロキョロと見渡す。
満点の星空の下に広がっているのは、ありきたりな田舎の村であった。
人どころか、ネズミ一匹の気配すら感じ取れないクピドは、自身の腰に携えていた蛇腹剣『イチジクの棘』を構えて周囲を警戒する。
「すっご~い! メルちゃんの『
「っ!?」
――バァン!!
真後ろから突如として投げかけられた言葉に対し、弾けるように跳んで距離を取りながら、自分のいた場所を確認するクピド、そこにはニコニコしながら手を振っている1体の魔物の姿があった。
桃色の髪を靡かせながら、煌びやかな黒のドレスと翼は目立たせているのは『
時空間魔法も使用できるガラクシアは隙だらけだったクピドの真後ろに転移してきて、弄ぶようにして声をかけたのだ。
「ちゃんとしないと危ないよ~♪ 本当だったら声かけずに殺しちゃうんだから!」
「……堕天使」
魔物の中でも珍しい天使という種族、その中でも異質な存在として認知されているのが堕天使なのだ。
目撃例があまりにも少ないせいで情報がほとんど揃っていないので、クピドもこうして対面してみて、一体どのようにして動けばいいのか導き出せずにいた。
ガラクシアは、そんなクピドを楽しそうに見つめている。
ガラクシアがソウイチから言われたことは「ほんの少しだけ似てる能力持ってるらしいから参考までに勉強するといいかもしれない」ということ、ガラクシア的には能力はメルに喰わせて把握すればいいから、考え方や能力の使いどころだけ見てやろうと、殺さずに待ちの姿勢に回っているという状況である。
(せめて……異性の魔物でも居てくれれば動きやすいんだけど……)
『
異性に対して効果的な能力であり、言ってしまえば洗脳とも呼べるような強力な力を自在に振りまけるという恐ろしい力なのだ。
ある程度耐性がある者でも、『集中力欠如』や『空回り』といったような普段通りの立ち回りを封じることができ、魔物相手でも効力がしっかりと通じるため、魔物との戦いも経験の多いクピドである。
すでにガラクシアに対してもアプローチをかけているのだが、まったくと言っていいほど効果がないため、立ち回り方法が1つも浮かんでこないクピドに対して、ガラクシアがニコニコしながら声をかける。
「ん~……確かに『
「……鋭いじゃない」
目を合わせているだけでも『魅了』の力を発動させることができるので、初見の相手にはバレないと踏んでいたクピドだが、呆気なく見破られており、わざわざ教えてくれたがラクシアに対して、素直に称賛の言葉を送る。
蛇腹剣に魔力を纏わせ、どうにか攻勢に出たいクピドではあるが、隙があるようでまったく隙の見えないガラクシアに、どう動き出して良いものか迷ってしまう。
そんなクピドの心情を察してか、ガラクシアは優しい口調で語り掛ける。
「ん~……戦おうとしなくていいんじゃないかな~♪」
「負けてくれるの?」
「そんなわけ無いじゃん♪ だってどう頑張ったってアタシたちの勝ちなんだから、戦うより死なないように立ち回るほうが大事じゃないの? 騎士様の誇りとかいう奴で戦わなきゃいけないやつ~?」
「……何かすれば助けてくれるわけ?」
「もう遅いよ♪ せっかく似た能力って教えてあげたのに~! 目を合わせすぎだよ♪」
ガラクシアが言い終わる頃にはクピドの目は虚ろに染まっており、完全に『
魅了し揺さぶる能力と、あらゆる手段で強制的に支配する能力の差があまりにも大きすぎた結果になってしまった。
「わざわざ3人で来るなんてね……怪しさ満点! ちなみにどんな理由が隠されているのかな~?」
「……街の人間を…私の能力で味方につけて……暴動を起こす予定でした」
「街の住民には手を出せないって踏んだんだ~♪ 正面から挑んで来るより良いかもね!」
「第7師団と魔王の交渉が終わり次第……能力を発動させるつもりでした」
『
ガラクシアからすれば作戦内容は、あまりにもお粗末に感じるものだったが、住民を盾に使うという点はソウイチに効きそうだと素直に思うところもあった。
もちろん、ガラクシアとレーラズ、そしてメルもいる中で住民を洗脳しようなどという無謀なことは許される訳がないのだが、帝国側がそこまで『罪の牢獄』の戦力を把握できているわけがないので、ソウイチたちからすれば帝国のしていることは、今のところ戦力を捨てるだけのお粗末な作戦にしかなっていないのだ。
「隠し玉はどんな作戦なの~? さすがにこれだけで終わるほどおバカさんじゃないもんね?」
「私が戦闘不能になった瞬間に……私に仕掛けられた爆弾が爆発します」
「わ~! それは大変だ! 竜種も殺せる毒入り爆弾が爆発しちゃう! 困っちゃうね♪」
「……間もなく爆発します」
「デザイアちゃ~~ん! ウロちゃ~~ん!」
――ヒュンッ!
勢いの良いガラクシアの掛け声と同時に、クピドの姿はどこかへと転移されていった。
クピドに爆弾が仕込まれていることは、アークに入ってきた瞬間からメルが感知していたことだ。
もし爆弾が仕込まれていることをクピド本人が知らなかった場合は、発見させることが少し遅くなっていた可能性はあったのだが、残念なことにソウイチに利用される形になってしまった。
「妾たちが見ておるから、わざわざ叫ばんでも大丈夫なもんじゃが」
「デザイアちゃんがお昼寝してたら危ないじゃ~~ん♪ ニャルちゃんいるから大丈夫だけどね」
「主から帝国へのプレゼント作戦は成功じゃな。帝都の城上空で爆発しとることじゃろ」
「これで帝国さんもアークに来た3人がやられたって知るだろうね♪ でも街中に落とさないとこは、本当マスターっぽいよね♪」
「トップの首だけ獲れば主の目的は達成できるようじゃからな。そのトップはウロボロスとガラクシアの索敵を抜けるような上手い者らしいから困ったもんじゃ」
「思ったより捕まらなくて、マスター苦笑いしてたもんね♪」
「暗殺作戦は見事に逃げられまくったようじゃからなぁ~……良い勉強になってると強がっておったの」
「可愛いよね~♪」
クピドを帝都の城上空で爆発させたのは、言うなれば開戦の合図のようなもの。
裏で『
帝都で暮らす住民に多くの犠牲をだすのは良い想いをしないので、この合図で避難でもしてくれればありがたいという考えからのクピド転移爆破作戦なのである。
「城の中転移させて爆破させないとこもマスターっぽい!」
「帝国騎士の幹部クラスの能力は、できるだけ見ておきたいと言っておった気がするのぉ」
「デザイアちゃん楽しそうだね♪ よくしゃべるじゃ~ん♪」
「お主が煩いから付き合ってやっておるんじゃ……主の悪巧みが通じない相手は盛り上がるもんじゃろ」
「帝国よりも『七元徳』の対策に頭悩ませてるのが大変そうだけど、やっぱ可愛いんだよね~♪」
他愛のない話をしながら楽しむガラクシアとデザイア。
1人の騎士団副団長を呆気なく利用しておきながら、そのことは忘れたかのように自分たちの主の話に花を咲かせる2人。
相手の強さを表に出させる前に狩り取ることをモットーにしているソウイチが、わざわざ大舞台で正面から叩き合うことを選択させるような相手に、少しだけワクワク感を抱きながら。2人はコアルームへと仲良く戻っていくのだった。
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