第16話 襲来する『日輪』


「ますたー……予想通り来たよ。アヴァロンと戦ってた騎士」


「この速さは凄いな。帝都周辺にマーキングしてから1日経過してないんだが……」


「副団長も一緒。もう一人そこそこのもいる」


「普通の団員が数いても無駄だという判断良し、1度面識ある者が話をしに来たのは判るが、この段階までやっておいて話し合いに応じるなんて思わないで欲しいんだが……」


「本人たちは話し合いのつもり。でもマーキングしに来てるね。初見の奴も同じ感じ」


「メルの感情感知強すぎて笑えんな」


「えっへん」


「話し合いがフェイクってんなら、こっちも逃がさず仕留めて……開戦の狼煙をあげておくか。きっと裏では俺より頭良さげな奴らでもいるだろうからストレートにいこう」


「3人死んだってバレてからがスタート?」


「さすがに殺した瞬間に分かるように細工されてんじゃないか? 開戦前に少し時間ありそうだからリフレッシュしてからやれそうかな」


「準備する?」


「1度逃がされて、俺にどんなイメージ持ってるか知らないけど、『太陽ザ・ソル』と『ザ・タワー』には帝国との開戦の鐘になってもらおう」


「みんなに伝えて準備してくるね」


「コア弄りながらだから、もしかしたら考えてること変わるかもしれないけど、よろしく頼むな」


「はーい」



 スライム形態のメルが俺の膝上から跳びはねて移動していく。

 俺の感情を検知できるから、わざわざ言葉にしなくても、なんとなく俺の考えていることを分裂体を駆使して伝えに行ってくれる。

 誰がどう動くかは、ポラール・イデア・デザイア・シャンカラ辺りが適切な形に整えてくれるだろうから、俺はルジストルが呼びに来るまで開戦までのルートを考えつつ、どう立ち回っていくかを考えて行くこと。


 帝国騎士団のお偉いさん2人についてきたのは誰なんだろうか?



「警戒はするけど考えすぎも意味ないな。俺に会いたいと思ってきてる奴なんだろうから、碌な奴じゃないことだけ頭に入れておこうか」



 帝国としても俺たちに『隠者ハーミット』を殺されているから偵察部隊ではなく、正面から真面目タイプの騎士を送り込んで来るってのはどんな策を描いてるんだろうか?


 四方のダンジョンを潰されることを把握するのも、そこから俺へ辿り着くのも、アークンに第7師団を送り込んで来るのも……さすがに全部速すぎるから誰かしらが悪さしてるのは確定だとして、それを誰だと特定するのも大事だな。



「マーキングしてあるダンジョン跡地には誰かが見張ってるような跡は無かったけどな」



 この動きの速さ……誰がやってるか分からんけど、俺たちの動きをある程度把握できている奴は注意しておかないとな。










――迷宮都市アーク ルジストルの館



「……一度閣下と顔を合わせたことのある者とは言え、急に訪れて合わせろとは都合が良すぎるのでは?」


「帝国騎士団からの至急の件です。『大罪の魔王』に合わせていただきたい」


「閣下に手痛い目に合わされたのをお忘れですか? いくら帝国騎士とは言え好き勝手が過ぎますよ」


「……迷宮都市アークは公に帝国に刃を向けるということですか?」


「焦りすぎて話が飛躍しすぎておりますよ。第7師団副団長『ザ・タワー』のバベル様」



 ルジストルの館にある一室で話し合いを行っているのは面識のあるルジストルと帝国騎士団第7師団副団長のバベル。

 

 そんな2人を一歩引いたところで見守るのは帝国騎士団第7師団団長のソレイユと赤と桃色のツートーン色の長い髪を左右に縛り、帝国騎士御用達の鎧を纏っていても際立つスタイルの良さ、人間の男なら大半の男が振り向いてしまうほどの整った顔をした騎士。

 腰に携えた黄金に輝く蛇腹剣を撫でながらバベルとルジストルの話を頭に入れている彼女は帝国騎士団第9師団副団長『恋人ザ・ラバース』のクピドだ。


 第7師団の2人とともにアークに訪れており、ソレイユとバベルの策が上手くいかないと踏んでいる上層部によるサブプランとしての派遣である。



「やっぱり無駄なんじゃな~い? 貴方たち2人は会ったことあるらしいけど、私からすれば魔王に話し合いだなんて無駄よ」


「……実力行使が効くような相手では無いと事前に話をしたはずだ」


「もちろん聞いてますよ~……だから私がここに来たんですけど?」


「我々がここに来ていることも知られているだろう……他の魔王とは違う思考をしている存在だ。話をさせてくれる余裕が『大罪』にはあると踏んでいるのだが……」


「3,4回殺されてる騎士様はよく分かってるな」


「「「ッ!?」」」


「……閣下、こんなに速く来られては、せっかくの楽しい討論が終わってしまいます」


「日頃のストレスを騎士様で晴らそうとするな」



 ソレイユとクピドの少し後ろに突如として現れたのはソレイユたちが切望していた存在。

 迷宮都市アークとダンジョン『罪の牢獄』の主である『大罪の魔王ソウイチ』と配下であるポラール・メルクリウス・イデアが空間に裂け目を作り、突如として現れる。


 呆気も無く背後をとられた3人の騎士は驚きを隠せない。

 そんな3人の反応を特に気にすることも無く、ルジストルと心温まる話を始めるソウイチ。



「呼ばれたからやってきたぞ……そこの『恋人ザ・ラバース』は初めましてだな」


「……他の魔王と違うって言ってた理解できましたよ」


「アンタがウチの住民に能力を掛けてくもんだからお灸をすえてやろうと思ってな」


「『大罪の魔王』……貴方がやろうとしていることは……」


「そういうことだ……大人しく大将首だけ貰えれば変なことはしない。後俺の動きをこれだけ早く察知して反応できた人間も教えて欲しいな」



 バベルの問いかけに対してソウイチは淡々と答えていく。

 問いかけたバベル、そしてソレイユとクピドも想像以上にストレートな返答に驚きを見せてしまうが、負けじとソウイチに問いを投げかけていく。


 背後にいるポラール・メルクリウス・イデアは特に動くことなく、3人の帝国騎士たちの動きを観察している。



「……やはり他の魔王と変わらない存在だったのですね」


「勝手な印象を俺に押し付けるなよ。わざわざ3人でやってきたってことは本当に話し合いで解決するつもりってとこに本当に害の少ない魔王って思ってくれてたんだな」


「帝国と争うつもりなのか?」


「1度戦った中だろ団長さん。俺にもやらなきゃいけない理由があるんだ。アンタらに話したところで絶対に理解できないような魔王だけの都合だけだ」


「僅か数日で帝都を囲む力……すぐにでも攻め込んでくるつもりうことか」


「理解できないよ団長さん……なんでここに来たんだ? あそこまで準備しといて話し合いで解決する訳ないだろ。こっちも覚悟決めてやってんだから」


「帝都には多くの住民がいます! ただでさえ他国との争いや各地での魔物の活性化がある中で、魔王と本格的に帝都で戦争をしてしまっては帝国が崩れてしまいます」


「……魔王に同情を求めるな。わざわざ帝国騎士団様は泣き言を言いに来たのか? いくら他魔王と俺が違うからと言って、さすがにそれで揺らぐほど甘ちゃんじゃないぞ?」



 ソウイチの容赦の無い発言に3人の騎士は答えることができない。

 

 バベルとソレイユは話合いの余地が僅かながらあると信じつつ、上からの強い命令だったために逃れることもできない選択のアーク訪問、こうなることはある程度想定していたが、いざこうなると思考が一瞬戸惑ってしまう。


 そんな中クピドは、破断しかけている交渉を素早く察知し、自身の能力を発動しようとするが、何故かピクリとも使用できない状況に混乱している。

 もちろんクピドの能力が使用できないのはポラールの『善悪二天論ツヨサコソセイギ』が発動しているからである。



「まぁ……話し合いはこんなところだ。帝国のお偉いさんが『恋人ザ・ラバース』さんの能力でどうにかできると踏んでくれているのは嬉しい誤算だな。……さぁ前哨戦だ」



 ソウイチの発言が終えようとした瞬間、3人の騎士に視界が一瞬にして館の室内から移り変わる。


 3人の騎士がポラールの時空間魔導で転移させられたのを確認し、ソウイチは一息つきながら、自分たちも移動するためポラールに声をかけたのだった。

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