第15話 『腐乱』の行方


 帝国領土北に存在する、Aランクダンジョン『腐った池』。

 帝国に存在しているAランクダンジョンの中では生息している魔物の平均ランクが1番低いダンジョンだが、冒険者が全然近寄ろうともしない場所だ。


 その理由は生息する魔物の臭いと耐久面にある。

 『腐乱』の名の通り、腐り崩れた死体のような魔物たちが多く、単純な数と放つ臭いがダンジョン深部まで行く冒険者たちの心を折るような構成になっており、単純にダンジョン内各フロアにある池からも鼻の曲がるような臭いがするのも、『腐った池』が不人気なダンジョンだ。


 『罪の牢獄』と同じ地下に進んでいく形式のダンジョンで6階層までなので、攻略しやすいと勘違いする冒険者たちが腐乱臭に包まれて死んでいくので、その死体でダンジョンも少しずつ強化されていくという元冒険者ゾンビも多い厄介な場所。


 

――ドドドドドドドドドドドドッ!



 そんな『腐った池』の入り口から走り込んで来るのは大量のスケルトン。


 アクロバティックに跳びまわりながら、池を泳ぎ、生息しているゾンビやスライムを轢き潰していく。

 スケルトンに少し遅れて空中を飛んで進んでいくのは大量の蠅が集合して形成された『群がり啜るモスカ・蠅騎士団リッターオルデン』の群れ。


 ダンジョンエリアを埋め尽くす2種の軍勢が『腐乱』の魔物たちを飲み込んでいき、先頭のスケルトンたちが崩されても、すぐに赤黒い魔力に包まれて復活していく様は、まるで永久機関のようだ。



――ドスッ…ドスッ…



 スケルトンと『群がり啜るモスカ・蠅騎士団リッターオルデン』の大群の後方を優雅に歩くのは『黙示録の獣』という七つの竜首をもった獣。

 そんな『黙示録の獣』に乗りながら、左手にもった黄金の杯に注がれている赤い液体を飲んでいるのは自称スケルトン界の頂点、『大罪の魔王ソウイチ』の配下が一体メフィストフェレスことバビロンである。



「きゅっきゅ~~♪」



 そしてもう一体、バビロンと『黙示録の獣』の身体を玩具のようにして駆け回っているのは『罪の牢獄』のアイドル、カーバンクルことリトスだ。


 バビロンはスケルトン軍団で地上を、リトスは『群がり啜るモスカ・蠅騎士団リッターオルデン』で空中を制しながら、ただただ深層まで進んでいくという数の暴力戦法ではあるが、『腐乱』の魔物たちはまったくもって歯が立たず、削っても削っても、まるで増えているんじゃないかと思わされる大群に圧倒されている。



「ふむ……なかなか良いダンジョンではないか……我らが任された理由が解るな」


「きゅっきゅ~♪」


「ふむ…我は臭いというものは解らぬが、お主のご馳走の魔力が溢れておることは見えるぞ、元人間と魔物から吸い放題ではないか!」


「きゅっ!」



 自分と『黙示録の獣』の身体を駆け回ってはしゃいでいるリトスを見て、このダンジョンの至るところ、大量の魔物、そしてちゃっかりと自分のスケルトンからも魔力を喰らっているリトスを微笑ましく見守るバビロン。


 崩れたスケルトンをリトスから譲り受けた、ダンジョンから吸い取った魔力で、さらに強化して蘇生させるため、ダンジョン内の全ての魔力が尽きるまでの永久機関のようなものが完成しているのだ。



――ゴゴゴゴゴゴゴッ!



 最早、池もスケルトンで埋め尽くされ、侵入者を陥れる沼も骨で埋まり、最早スケルトンと蠅しか見えないレベルで酷い光景になっている『腐った池』。


 2体はソウイチの命で、帝都に割と近めで、何かしら厄介そうなダンジョンを夜中のうちに叩いて様子を見ようというものだ。

 そのまま潰せるなら魔王を仕留めてしまおうという強欲な作戦ではあるが、ダンジョンに襲撃に来ている『枢要悪の祭典クライム・アルマ』たちは魔王を完全に仕留めるつもりで来ているのだが…。


 『腐乱』というゾンビやスライムの数と悪臭に対して、スケルトンと蠅の数と勢いで攻め落とす選択をしたソウイチが完全に上回っている図が出来上がってしまっている。



「単純な力の差で押し込めているが、ダンジョン構造は王が好きそうなものではあるな!」


「きゅっきゅ~~♪」



 1体で1つのエリアを任されていることが多い『枢要悪の祭典クライム・アルマ』たち。

 エリア構造はソウイチから好きにしていいと言われているため、各々が守りやすいように改造をしているので、こうして他ダンジョンを襲撃しながらも、参考になるところは記憶しておく意識が『枢要悪の祭典クライム・アルマ』にはある。


 他の魔物と共存することが難しい『枢要悪の祭典クライム・アルマ』からすれば孤独なエリアな分、完全に自分だけが強くあれば良いエリアを創れるため、各々エリア改造を楽しんでいるのもある。



「我がエリアも悪臭に改造してしまっても面白いかもしれぬな!」


「きゅ~~?」



 自慢のスケルトン軍団がダンジョンを難なく侵攻していることに気分を良くしているバビロンは上機嫌にリトスに語りかける。


 自慢のスケルトン軍団が大活躍していけばいくほど、ソウイチからの信頼が厚くなっていき、重要な局面でも前線に置いてもらえると考えるとバビロンのモチベーションも高くなっていく、『スケルトン』という最弱に近い魔物を、これほどまでにスケルトンを多用する魔王なんて他には存在しないと思うからこそ、最高の主に最高の結果を残し続けるためにバビロンは考え続ける。



「王に掛け合ってみねばなるまい……」


「きゅっ♪」



――ゴゴゴゴゴゴゴッ!



 ダンジョンの広さに対して、余りあるほどのスケルトン&蠅の軍団が流れ込み続けた結果、スケルトンの大行進だけで地面は大きく揺れ続け、天井までは蠅で埋め尽くされ、最早どんなダンジョンだったか見て解らぬ光景へと変わってしまった。


 こうして圧倒的な物量に圧し潰され、『腐乱の魔王』は残酷に散っていったのであった。









――『罪の牢獄』 居住区 コアルーム



「これで帝都四方の厄介な魔王は抑えることができたな」



 みんなが頑張ってくれたおかげで、僅か2日で帝都の四方を抑えることができた。

 もし帝都で戦うことになってしまったとしても、変な漁夫の利を狙ってきそうな奴らはいなくなった。


 できれば帝都の中心で戦うようなことは避けたいが、もしもの場合があるので下準備は確実に済ませておかなきゃいけない。


 ダンジョンが消滅していったことにより、帝国騎士団のお偉いさんたちは緊急事態ということで帝都の城にでも召集されることだろうな。



「俺がやったって匂わせることは簡単……3面分考えれば事足りそうだな」



 帝都を攻める。

 厳密に言えば、帝国を治めている王を殺すことで『記憶の欠片』の条件を達成すること。

 俺の都合なんかで一国の王を殺すのは酷い話だが、時間が無い中で戸惑っていることは無駄なことだと思うので取らせてもらう。


 最初っからこの世界に居た者たちは、基本的に『女神』と『原初の魔王』による造り者だって分かったから、ある程度躊躇しなくて済むのはありがたい話だ。



「帝国騎士団団長・副団長の能力に合わせて……誰をぶつけるか考えておかないとな。どの騎士団員様がどう配置されるかも読んでおかなきゃいかんな」



 ある程度の敵配置は読めるだろうが、さすがにこれだけ暴れ回っている俺に転移系能力特化型のようなタイプがいることは相手も判っているはずだ。

 正直、こういった戦争は人間さんのほうが考えるの得意そうだから、そう簡単に上回れるなんて思って無いけれど、俺がやることは至ってシンプルな分、そこまで考えなくて良いってのが安心材料だな。



「暴力的な力と理不尽さを奇襲でぶつける……わざわざ相手の能力の様子見なんてしない。ただただ力を押し付け続けて勝つ」



 帝都周辺、そして帝都の地図をコアで表示しながら、ソウイチは魔王らしい不敵な笑みを浮かべていた。




 

 


 

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