外伝 最強への『道』


「ねぇねぇ2人とも~」


「ど~したの?」


「……何だ?」



 もう人々の大半が眠りにつこうとしている時間。

 迷宮都市アークを拠点として活動している元最強の冒険者集団『七人の探究者セプテュブルシーカー』の3人、カノン・アルバス・ソラは宿に1室に集まって雑談をしている。


 今日はソラがソウイチの配下であるフェンリルに相手をしてもらった日。あまりの実力差と、せっかくのチャンスを少しも活かせずに負けてしまったソラを心配した2人だったが、まったく影響は無さそうだと感じてアルバスとカノンは少し安堵する。



「あのフェンリルってのがEXランクの中で1番弱いって、どー思う~? ってかEXランクどんだけいんのよ……」


「あの魔王はつまらんことで嘘をつくような奴ではないだろうから……本当なのだろう」


「本当凄いよねぇ~♪ その気になれば帝都を1日で落とせちゃうような戦力なんだもん」


「あ~……せっかくの時間だったのに、まったくメモれなかった!」


「遊ばれていたな」


「次は見せつけてやるんだから!」



 フェンリルとの模擬戦は時間にして見れば一瞬にして終わってしまったが、ソラも何も考えずに挑んだわけではない。

 『勉強したら、進化模倣エストゥディオミラー』で会得としてきた様々なスキルを開始と同時に仕掛けてみたが、まったく通用しなかった。


 ルークの転移能力コピーで背後をとり、拘束スキルを2種類ほど試してみたが、まるで対象を認識できなかったかのように空振りに終わってしまい、気付けば背後をとられて足下氷漬けにされてゲームセットしていた。



「デカいけど短距離なら転移するより速いんじゃないかってくらいの機動力、氷系統のスキルを自在に使えて、拘束スキルは無効化してくる……面倒すぎよ!」


「本来なら近距離での格闘戦が得意なんだろうな」


「ソラちゃんのスキルは凄いんだけど、メモるの大変だからねぇ~♪」


「今度は防御スキル増し増しでメモるわ! まずはあの氷スキルから!」


「拘束スキルが全部聞かないんだったら、私も勝てないだろうなぁ~……演奏してる時間くれなさそうだし」



 ソラの『勉強したら、進化模倣エストゥディオミラー』はソウイチからしても最強クラスのスキルだと言わせるほど恐ろしい能力ではあるが、1つのスキルを模倣するのに両手を使って何度かメモらなければいけないという戦闘中では致命的な隙を生み出してしまう諸刃のスキルでもある。

 その弱点をカバーするために転移系統だったり足止めの技をいくつか覚えているソラだが、まさかフェンリルが、転移する自分と同程度で駆け回れるとは想定できていなかったのである。



「しかも戦った感じ……気配遮断に自然治癒、デバフやバフも豊富にあると思うんだよなー……前戦った巨人も強かったけど、ここの魔物は化け物揃いね」


「あれで幹部クラスの中で1番新参者らしいからな……そんな魔王がこんな辺境の地にいるなんて、普通は思わないだろう」


「平和的思考の魔王さんだったから良かったけど、過激的な思考の魔王さんだったら、世界が危なかったかもね♪」


「早くアタシも強くなりたいなー! あのデッカイ鎧と戦ってみたいかも!」


「手も足もでずに終わるぞ」



 ソラは闘技場にいたアヴァロンの姿を思い出す。

 アンデッドの気配もあり、どこか神聖な雰囲気もした異色の鎧型の魔物。力はあるけど鈍足な魔物を相手にするのが得意なソラ的にはフェンリルよりもアヴァロンのほうがやりやすそうだと考えるが、きっとそんなことはないんだろうなと、すぐに切り替えてフェンリルとの戦いを再度反省する。



「魔王が言っていたが……『罪の牢獄』の魔物は尖った能力持ちが多いらしい。ソラの好みで良かったな」


「尖りすぎてメモる暇も無いなら意味ないんだけど……」


「あのフェンリルちゃんは珍しく尖らずにオールラウンダーになってくれたって喜んでた気がするよ~」


「尖ってるか~……どう尖ってるかまで教えてくれないかな?」


「……模擬戦してもらえてるだけサービスだからな」


「そうだよねぇ~」


「私やルーク君くらい尖ってるんじゃないかな?」



 『音』に関連した能力を持つカノンと、『視界に入れる』ことを絶対条件としたルークは人間界で見ればトップクラスとも呼べるような能力の尖り方をしている。

 

 しかし、ソウイチはそのことを知った上で自分の魔物たちの力を尖っていると評しているはずなので、余程凄い力を持っているんだろうと3人は想像する。



「俺が戦わせてもらった魔物は……変身する能力持ちだったな。軽く捻られた記憶しかないが……」


「私がよくお話してたのは果樹園にいるレーラズさんかな♪ 能力は聞いてないけど、アーク周辺まで細かく感知できるような会話を魔王さんとしてたから、凄いんだろうね♪」


「あんな戦力いて平和に暮らしたいって本当に変わった魔王……アタシたち的には助かってるんだろうけど、なんか本性見せてない感じもする」


「あれは自分の配下以外……そこまで信用しないタイプだろう。ある程度のラインまではすぐに入れるが、そこからは越えさせないと決めているように感じる」


「あんだけ強い子がたくさんいるなら、変なことしなきゃ長いこと魔王としてやっていきそうだもんね」


「むぅ~……狼対策のスキル、どっかに転がってないかな? この街にはどんどんヤバそうなのが増えていきそうな気がするから、もっと強くなっとかないと!」



 帝国の最南端。

 少し前までは誰も寄り付かないような森地帯だったのに、今では帝国の中でもトップ10に入るほど有名になりつつある迷宮都市アーク。

 元『七人の探究者セプテュブルシーカー』の3人が拠点にしている効果もあるのだが、それにしても日に日に盛り上がっていく街に少し怖さを感じるソラ。


 ソラたちも『八虐のユートピア』という大変厄介な集団と敵対しているので、いつアークが襲われても不思議ではない。

 

 それにソウイチが3人と話をしたときに、けっこうな数の魔王を敵に回してるし、勇者とも因縁が少しあるとの発言をしていたので、この街にはとにかく敵が多いといういことなのだ。



「勇者の能力をメモる機会があるかもしれないって考えると、少しラッキーなのかも?」


「思考が立派な悪役だな」


「でも勇者のスキルを間近で見れるチャンスってなかなか無くない? 私たち魔王討伐の同行も断り続けてて嫌われてるし」


「勇者さんと敵対したら、人類の敵だー! って感じで追い回されるかもね」


「それはちょっと面倒だな~」



 今後の展望や自分たちの立ち位置を再認識しながら会話を深めていく3人。

 

 もしかしたらの裏切りもケアして、そんな3人の感情の波すらも感じ取れるスライムがいることを知るのは当分先のお話である。




 

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