第9章 勝者という『正義』

プロローグ 崩れ行く『均衡』


――『皇龍の魔王クラウス』のダンジョン コアルーム



「よもや1年も経たず、こうまで世界が荒れるとは驚きじゃな」



 魔王の頂点『大魔王の頂きゴエティア』という称号を持ち、誰もが認める最強魔王である『皇龍の魔王クラウス』、彼はコアに記録してある最近の出来事を確認しながら、とある魔王の情報をまとめている。


 クラウスがまとめている魔王は2体。

 『大罪の魔王ソウイチ』と『焔天の魔王アイシャ』の名がそこには記されている。

 魔王戦争の記録で確認出来た魔物の詳しい情報、ダンジョン難易度やエリア構造。迷宮都市の発展具合など様々な情報がまとめられている。

 ソウイチの魔物戦力の欄には11体目のEX持ちという文字が強調されて記されていた。



「儂の言うことをしっかり守ってEXランク持ちということを口外しておらんところは素晴らしい。じゃが……彼だけ可笑しいほどの戦力を有しておるし、儂の意図も察しているようじゃな」



 クラウスとソウイチは『焔』VS『泥』の魔王戦争後に出会っている。

 ソウイチがEXランクの魔物持ちということが判明したクラウスは、いつもと同じような方法でソウイチを自分のダンジョンに転移するように細工し、嘘がまかり通りやすいように『大魔王の頂きゴエティア』たちを集めて話をした。


 クラウスはソウイチに真っ赤な嘘をついている。

 SSランク持ちが珍しい、そしてEXランクの魔物を持つ存在が死んでしまった『巨人王』を除いて、ソウイチで6人目というのは完全な嘘なのである。



「嘘のおかげか知らんが、ルーキーとは思えん快進撃で魔王界を盛り上げてくれておるな」


 

 『大魔王の頂きゴエティア』の称号を持つ5人以外の魔王ではEXランクという存在、そしてEXランクの魔物を所有している情報すら知りえていない。

 ソウイチにはクラウス本人の口から、EXの存在をクラウスの都合の良いように伝え、自身の実力を過信させたところで、ソウイチと同じような方法で嘘の情報を伝えているEX持ちの魔王に襲撃させて楽しもうと思っていたのだが、クラウスの想定を遥かに上回るレベルで、ソウイチは慎重かつ危機感のある魔王だった。


 EXランク持ちの魔王についての情報や、EXランクと言う存在については、太古の昔より『大魔王の頂きゴエティア』の5人が協力して情報が漏れないようにしている。

 それがクラウスが頂点をとったとき、手当たり次第に他魔王を襲撃して世界を滅ぼさない代わりに立てた約束なのだ。

 他の『大魔王の頂きゴエティア』たちはよく約束を守ってくれていると、改めてクラウスは感じていた。



「じゃが……アクィナスとリンは『大罪』を気に入っておるようじゃな」



 クラウスの目的は、自分を楽しませてくれるような魔王を作り出して、自分と魔王戦争をさせることだ。

 EXランク持ちは自分たちだけというクラウスがついた嘘を信じさせ、大いに自信をつけさせた相手と戦う。

 長い間待たずして魔王戦争をクラウスが楽しむには、圧倒的自信を持ったEXランク持ちと戦わなければいけないとクラウスは思っている。



「じゃが……最近の若者は慎重じゃな……せっかく儂が暇をしておるのに、誰も挑んでこんが……ようやく世界が面白くなってきたかもしれんの」



 クラウスが見ているモニターには、王国と公国が1カ月前ほどから本格的に始めた領土戦争についての記録が記されていた。

 しかし、人間には特に興味がなく、最近弱くなり、同じ人間からですら忘れ去られてしまいそうな勇者にはクラウスは関心がない。

 クラウスが気にしているのは、人間同士の戦争に関与している魔王、そして人間の戦争から派生する魔王同士の争い。今回動きそうな魔王の中には、ソウイチと同じようにEXの存在を自然に隠すようにして活動している魔王がいるのだ。


 

「『大罪』も動きそうじゃな……人間をも身内に引き込むとは面白いが…弱点を晒しているようなもんじゃな」



 アクィナスとリンとは方向性が違うが、クラウスはソウイチを要注目している。

 ルーキーにしてEXランク魔物を所有するクラウス自身も無しえなかった偉業、そしてソウイチが参加した魔王戦争を観る限りだとクラウスの感覚では6体はEXランクを所持している認識なのだ。


 Gランクの魔物しかコアから呼び出せないと言うクラウスですら聞いたことの無いデメリットを抱えるソウイチ、だがそんなものを打ち消すほどのEXランクの所持数をしていると考えているクラウス。



「他のEXランク魔物とも違うものが宿っておるな……」



 『大罪』と『海賊』の魔王対戦はクラウス含め、多くの魔王を激震させた。

 『海賊』が誇る大艦隊を一瞬にして一掃してしまったソウイチの魔物3体、クラウスから見ても驚くべき力を持った魔物たち、あの戦争は『大魔王の頂きゴエティア』以外のEX持ちにも衝撃を与えた。

 クラウス自らがフォローに回ったのもあって暴走するのを抑え、EXランクと言うのが魔王界に知れ渡り、『大魔王の頂きゴエティア』が嘘を吐き続けていたという事実が白日の下に晒されることは無かったが、それほどまでにソウイチの配下の魔物は魔王界に衝撃をもたらした。



「じゃが…おかげさまで『強さ』こそが魔王の活きる道……これが改めて強調された。『原初』の爺様が何を企んでいるかは知らんが…儂は儂で楽しませてもらわんといかんの」



 EXランクの数だけが勝利に結びつかないことはクラウスは百も承知。

 だからこそソウイチ含めた、クラウスが楽しむための候補たちには各地で着実に力を得てほしいのだ。

 特にその中でも常軌を逸している速さで強くなっているソウイチに期待しつつ、魔王界の厳しさをルーキーに教えてやってほしいとも願うクラウスであった。


 

「『異教悪魔』か……公国におる上級魔王が活発的じゃな」



 公国と王国の戦争により、1番目に見えて動いている魔王、それが『異教悪魔の魔王バフォメット』であった。

 自身を崇めている人間を使い、各地で問題を起こしていることは上級魔王クラスであれば知れた話ではあるが、戦争が始まってからは様々な魔王へと密談のようなものをしているようで、今さらになって何故か自身の守もりを固めているのかが、クラウスにはイマイチ分からなかった。



「誰と戦うのか楽しみじゃな……若者同士の戦いも面白いが、上級魔王同士の争いも見たいもんじゃな」



 クラウスが感じる限りではあるが、最近の魔王界は若者同士が潰し合っているのが現状である。

 上級魔王と呼ばれる魔王たちが争っているのは『魔王八獄傑パンデモニウム』の連中が称号をかけて争うときぐらいになってきている。

 しかも上級魔王たちは魔王戦争ではなく、ダンジョンに攻め込んだりと裏から戦うのが好きなように表立って争うことが少ない。

 クラウスはそんな状況がつまらぬので、『原初の魔王』に魔王戦争の報酬の底上げを頼んだが、変化することが無かった。


 

「勇者のほうにも面白い話が出てきておるな」



 クラウスは何人もの勇者を見てきたが、勇者の質は年々下がってきている。

 人間側もそれに気付いている者が多いだろう、昔は神のように崇め奉られていた勇者が今では、魔王討伐してくれればラッキー程度に思うような人間が増えてきているとクラウスは分析している。


 しかし、最近聖都に誕生した勇者の1人はここ最近でも圧倒的に強いスキルを持つと言う噂が出てきている。

 3人誕生して3人とも強いと言う話なので、どんどん世界を掻きまわしてほしいと願っているクラウスはモニターを見ながら、自分が望むような流れになってもらうことを願っていた。


 

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