外伝 『主人公感』出したもん勝ち
――帝国北部 とある研究所 周辺
「ここが怪しげで……ちょっと面白そうな研究してるってとこだな」
「はい……元勇者と一緒にいた者とは違うようですが、ホムンクルスのような人型戦力を研究している場所だそうです」
「人間界では禁忌ってやつらしいが……個人的には気になるところだ」
「内部にはメルとシンラが侵入しています……そのうち帰ってくるでしょう」
「外壁もしっかりしてて、地下に広そうな研究所だな。それなりの資金源がいないと成り立たなそうだが……まぁダメとか言いながら帝国が噛んでるんだろうな」
「戦争に使える戦力になりうる可能性が高いそうですからね。どの国も裏ではやっているのではないでしょうか?」
帝国北部の山奥、ポラールと一緒に立派な研究所を岩陰から観察する。
元勇者と一緒にいたエルって子が少しだけ気になって、研究所っぽい施設をウロボロス&デザイア&シンラに協力してもらって探していたら発見した施設。
人間のちびっ子を他国から攫って、どんなことをしているかは知らないけど、戦闘力高めのホムンクルス的な生命体へと変化させているようだ。
まだ世には出ておらず、帝都でお偉い顔をしている一部の人間くらいにしか知られていないと、ガラクシアが洗脳している帝都の参謀さんの1人から情報は得ている。
「他国からちびっ子攫って自国の戦力に改造か……他国の守りの薄さを攻めるべきか、禁忌とされるやり方を攻めるべきか難しいな」
「どの国も他国を上回るために必死なようですね」
「そんな研究所を1つ潰そうとしているなんて……まるで勇者みたいだな」
「好奇心で潰される側は……良い迷惑でしょうね」
「やってることは世間様からしたら良いことっぽいし……主人公感でてきたな」
「主人公感?」
「口にするのは難しいけど……絶対成功する流れがきてるってことかな?」
「メルとシンラがやって失敗するとは思えませんが……」
「ん~……まぁ、そういうことにしとこう」
『明けの水星』と『宵の水星』のどちらかが発動しており、自由自在に形を変えられるスライムであるメルの隠蔽力と表には姿を現さず、別空間を飛んでいるシンラは普通じゃ発見することのできないペアだ。ここにいる人間たちでは気付くことは不可能だろう。
メルには研究員何人か喰ってきてもらって情報を得ると同時に、この研究所をどうするべきかの判断をしてもらう。
シンラは改造される前のちびっ子と改造後の子たちをできそうだったら攫ってきて欲しいと伝えてある。シンラがダメと判断したら放置でも良いよと言ってあるので、上手く判断してくれるだろう。
改造後の子たちを上手くイデアが手を加えて、ウチのホムンクルスたちみたいな存在にできるのならば、これは上手な戦力増加になると踏んでいる。
戦争で使い捨てにされるよりはアークに来た方が良いんじゃないかという俺の勝手な考えの押し付けだが、目を付けられたことを残念だと思って諦めて欲しい。
「まぁ……人間界にイデアみたいな万能な存在はいないだろうから、そんなに上手いことはいかんだろうけどな」
「創造の神と人間を比べるのは可哀想ですね」
「イデアはイデアで創るモノに拘りがあるから……何でもかんでもやってくれるわけじゃないけどな」
「イデアにも立派な美学がありますからね……ご主人様の拘りよりは増しだと思いますが」
「ポラールが冷たくて泣きそうだよ」
「私たちに任せて頂ければ良いのに……自分の目で絶対見たいという拘りは、冷たくされて仕方ないと思います」
「……いつもお世話になっております」
ポラールに痛いところを突かれながら楽しい会話を広げていく。
転移できる面子が多いことに甘えて、何かしらあると弱いくせに先陣を切ってダンジョン外にできることを、さすがに良いとは思ってくれないだろう。
好奇心のままに動いて失敗してることが何度かあるから、そろそろ学べよと完全に思われてしまっている。
でもこのスタイルでやってきて、本当に学べていることが多いため、できれば安全面もしっかり考慮して、このスタイルでやっていきたいんだけどなぁ~。
そんな話をしていると、俺たちの少し後ろで空間の裂ける音がする。
振り向いてみるとメルとシンラが帰ってきていた。
「ご苦労様……ケガは無いな?」
「ただいま。無傷だよ、ますたー」
「さすがメルとシンラだ……どうだった?」
「1戦限りの戦闘兵器製造工場、とっても無駄な場所、攫われた人間たちも手遅れ状態」
「シンラが誰も攫ってきてないってことはそういうことだな」
「なんでこんなことするか理解不能……頭悪い」
「ちびっ子たち命を燃やして1戦に限り最大限の戦果をだす……確かにしょーもないかもな」
戦力増加にならないってのは残念な話だが、今回は仕方ない。
メルとシンラの判断でアークに来てもらってもどうしようも無さそうなら、いっそのことここで全部終わらせてやるのが良いのかもしれないな。
少しでも無改造な子がいればシンラが攫ってきていただろうし、研究所の職員も救いようのない感じだったからの判断だろう。
「んじゃ……頭の悪い施設には終わりを迎えてもらうか」
「先ほどご主人様が言っていた主人公感ですか?」
「……各国からちびっ子を攫い、戦闘兵器に改造して使い捨てる。なんという非道な行為……この『大罪の魔王ソウイチ』が裁きを下してやろう! ……こんな感じ?」
「……カッコいいよ、ますたー」
「……今の無しで」
「少し離れていてください……周辺一帯ごと燃やし尽くします。『
――ゴウッ!!
ポラールの身体から凄まじい量の魔力が放たれる。
せっかく主人公ムーブをかましていたのに、ポラールが周辺一帯ごと燃やし尽くすって言ったせいで、完全にヤバい奴ムーブへと変わってしまった。
まぁこの感じが魔王っぽくて良いのかもしれないけどな…。
俺とメルはシンラに乗せてもらってポラールから距離をとるように飛んでもらう。
こんなところでド派手なことやらかしたら、帝国としては当分の間、穏やかじゃない日々が続きそうだが、自業自得だと思って諦めてもらおう。
「『
――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!
大地が大きく揺れる。
研究所を中心に地面に大きく亀裂が走り、炎が溢れて出てくる。
空中を飛んでいるので分からないが、この揺れの大きさと音は立つことなんて不可能なレベルで大きなものなんだろう。
下から湧き出てくる極炎とも呼べるような禍々しい炎が俺たちが飛んでいる高さまで来るんじゃないかってくらい噴き出てくる。
地面はマグマ地帯へと様変わりし、研究所はどんどん原型を無くしながら沈んでいく。
「ポラールのことだ……この地獄の中では転移も封じられてるんだろうな」
「封じられる前に……今のあそこの熱さの中で生きられる存在はいなかったから……発動した瞬間に全部焼き尽くしたと思う」
発動した瞬間、きっと地下はとんでもない灼熱地獄になっていたんだろう。
『
地下にまで広がる研究所が対象になったことで山ごと崩壊させてしまうであろうほどに、恐ろしい範囲で技が発動してしまっている。
……さすがにやりすぎかもなんて思うけど、ポラールが頑張ってくれたから余計な事は考えない方がいいな。
研究所を通り越して山ごと消し飛ばしつつある極炎の地獄を見ながら、自分たちのしていることについて考える。
「きっと俺たちは一生主人公感がでないんだろうな……やっぱり悪党魔王感が、お似合いってことだ」
「ますたー、帰ろ」
「そうだな」
ポラールの良いストレス発散になった感じだし、帝国からのヘイトを、また1つ買ったということで、今回のお出かけはこんくらいで大丈夫だろう。
山1つ燃やしてしまったのは申し訳ないので、こっそりレーラズに頼んでどうにかしてもらうのもいいのかもしれないなって思いながら、『罪の牢獄』に帰ることにした。
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