外伝 染まり狂う『魔王色』


「……なかなか酷いもんだな」


「そうですね。これが公開処刑というものでしょうか」



 俺たちは帝国西にある、とある山の麓に存在していた小さな迷宮都市に訪れていた。

 つい先日アークから冒険者とプレイヤーの数組が急に拠点替えをするとのことで、その集団の新たな拠点が気になったので見に来てみたらこの様だ。


 ルジストルと冒険者ギルドからの報告では、ここの迷宮都市『ヘステク』のダンジョンを攻略できる見込みがあり、攻略するための戦力、そして攻略後の地位や立場を約束したような流れで拠点替えを行うことになったそうだ。


 

「この街を見た感じ……『火百足の魔王』の策だったみたいだな……冒険者やプレイヤーを街の一ヵ所に集めて一網打尽にしてやろーっていうことか」


「ダンジョンに攻められては厳しいという判断だっらのでしょうね。たださえ小さな街なのに、この光景の影響で活気がまったくありませんね」


「同じルーキーだけど、関わったこと無いからな……まぁ死ぬよりはマシって判断だったんだろうな」



 ポラールと街を少しだけ歩いてみたが、まだまだ村のような感じの迷宮都市で、元々穏やかで平和な場所だったような雰囲気があったんだろうが、今はまるで世界の終わりかのような感じになっている。


 冒険者が寝泊まりしていた宿、プレイヤーたちが拠点としていたであろう建物が見る影もない惨状になっている。


 まぁ俺も同じ立場だったら同じ方法で冒険者とプレイヤーを打倒すかもしれんからやり方自体は否定しないけれど、これじゃ今後の街の運営は悪い方向にしか進まないだろうからどうするんだろうな?



「冒険者とプレイヤーの拠点が住民たちから離れてて助かったな。この惨状から『火百足』側の被害もそこそこな感じっぽいな」


「ダンジョンを攻略できる見込みのある戦力が揃っていたという話ですから、いくら夜戦奇襲とは言え、かなりの魔物を討伐したに見えますね」


「血の臭いがキツイしな……昆虫系統の魔物の残骸も凄いもんだ」


「これらに触れようとしない街の人間たちに驚きます」


「関われば自分たちが痛い目を見ると思っているんだろう」


「この街から離れる準備で忙しいかもしれませんね」


「アークで楽しい生活を送ってもらうことにしよう……人手が欲しいところはいくらでもあるからな」



 ここに来た目的は崩壊するであろうこの街の人を救出と言う名の勧誘にきたこと、カノンとアルバスの2人が居れば問題は無いだろう。

 もう1つは傷をある程度負っているであろう『火百足』にトドメを刺しておこうということだ。


 同じ魔王、しかもルーキー同士で何故ここまでやる必要があるのかと問われそうなもんだが、ここに来て街の住民を勧誘している時点で、俺と『火百足』の間には何かしらの因縁が残ってしまう。



「そんなものを残して足下救われる可能性を生み出すなら、漁夫の利だろうが何だろうが潰せる時に、確実に潰しておく」


「そろそろ行かれますか? 先ほどデザイアとバビロンが戻ってきて、ダンジョン深部前にいつでも転移出来るように陣を作っておいてくれたそうです」


「行くか……ルーキー魔王に聞いておきたいこともあったし、そろそろ起きなメル」


「……今起きた」


「では……参ります」



 実は熟睡しながら俺の腕の中にいたメルに声をかけて目覚めさせる。


 ポラールが時空間魔法を使用してくれる。

 バビロンとデザイアがコンビを組んでダンジョン深層まで攻略してくれているはずだ。

 わざわざそのまま終わらせずに待っていてくれたのは俺が『火百足』と話がしたかったからという我儘なのである。


 俺はどうやって話をするか考えながらポラールの転移魔法陣の上に乗った。













「全身百足ってわけじゃないんだな」


「わざわざそんなことを言いに来たのかよ……やっぱ同期No.1は違うねぇ」


「今のは会話の導入ってやつだ、雰囲気良くしとかないと聞きたいこと聞けないかもしれないからな」


「あんたが知りたがるようなことなんて何もないぜ」



 オーガの身体に百足の身体のような尻尾の生えた個性的な外見をした『火百足』の魔王。

 肩が燃えているので熱そうではあるが、きっと本人は熱を感じないんだろうな。


 ダンジョンは洞窟型で基本的に森が燃えているような感じだった。面白い発想だけど、なんだか目が痛くなりそうな場所だ。


 『火百足』以外は壊滅させ、コアルームで諦めたように椅子に座る『火百足』と話を続ける。



「俺たちは魔王として生まれた存在だけど……なんだか自分って記憶が無くなった何か別の存在だったかもなんて思ったことはあるか?」


「……難しいこと聞いてくるんだな」


「俺の頭がおかしいのかもしれんけどさ……なんか目覚めたときから記憶が無いっていう認識があったんだよな」


「ルーキーにして魔王界のトップに名を連ねてるだけあるな……頭壊れてんのな」


「あぁ……こんくらいぶっ飛ばないと容赦なく殺しなんてできないぞ?」



――グシャッ!



「最後にかましてやろうとしたから反応しちゃった」



 気付けば煽り合いのような形になってしまっていた中、『火百足』の敵意に反応した『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』が『火百足』の上半身を喰い千切る。

 ドシャっと音を立てて『火百足』の下半身が倒れながら光の粉となって消えていくのを見守る。


 自分でやっておいて何だけど、力の差ってのは恐ろしいもんだと、この『火百足』を見て思ってしまう。

 正直、俺の力ってよりも『大罪』の魔名のおかげで魔王としての力はある俺だが、満足行く死に方も選ぶことができない弱肉強食社会ってのは本当に残酷だ。


 自分の欲のために喰らい尽くすように力を振るう……なかなか魔王界の常識ってやつに馴染めないもんだ。



「ますたー、ダンジョンに戻る頃には把握できるよ」


「さすがメル……わざわざ眠かった時にすまなかった。他のみんなもありがとう……また一歩、色々と近づけたよ」


「我が王が真理に到達するその日まで! 我らの力を存分に活かすがよろしいですぞ!」


「ご主人様と同じルーキーから得られる情報……またメモに纏められるので?」


「あぁ……時間があるときに各々確認しに来て欲しい。無心で打ち込んでるから変だったら触ってもらってもいいからな」


「何かあればルジストルに触らせましょう」


「よし……『罪の牢獄』に帰るとするか」



 アークを拠点にしてDEとお金を落としていってくれていた冒険者集団とプレイヤーたちを残念ながら失ってしまったが、人手と情報を手に入れることができた。

 『火百足』には大変申し訳ないが、今回は俺の糧となってもらい、来世では満足の行く道を歩めるように祈っておくことにしよう。


 コアのメモに打ち込んでおかないと、すぐに記憶から抹消されてしまうから、少し休みたいけど、急いでやらなきゃいけないな。



「本当に……頭が痛くなる世界なもんだ。そん中で命を奪うことが目的の最善の道って思っちゃえば躊躇なく殺せちゃうのは魔王らしいって感じなのかね?」



 とりあえず……今日も無事生きることができたので良しとしておこう。



 

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