外伝 のんびりと『神化』


 神ならざる者が神の力を被る罪。

 他の『大罪』の力と違い、他者に何かしらの効力を与えるのではなく、シャンカラが使う『神化アヴァターラ』は自身にのみ影響を及ぼす力だ。


 9種の神へと自身を変化させるシンプルながら、ハクやポラールと比べられるような能力だ。



「9種の使い分けとかあるのか? 攻撃的なスタイルばっかだから、何がどうか難しくないか?」


「相手に寄るかもしれないね……僕の中では後手のスキルだと思ってるからね」



 相手の能力なんかを見て後だしで判断できるってのは凄いもんだ。


 とっても平和に会話をしているが、俺は今、シャンカラと一緒にルジストルから報告を受けた『プレイヤー』集団を狩り殺しに来ている。

 何やら『PK集団』とかいう名前のグループらしく、冒険者だったり、自分たちと同じプレイヤーを殺すことを生業としている迷惑な集団だそうだ。


 アークに装備やアイテムを揃えに来たプレイヤーが狙われているらしく、このままだと冒険者やプレイヤーがアークに近寄らなくなってしまう可能性があるということを言われたので、シャンカラにお願いをして実体を調査しにきたのだ。



「わざわざ主が直接見たいと言わなければ……わざわざ僕が出張るような事ではなかったんじゃない?」


「直接見ておきたかったんだ……一応プレイヤーだから異世界の人間だろ? 何か面白いことがおこるかもしれないじゃないか」


「その好奇心に忙しいポラールが僕に頼みに来ることになったんだから……好奇心も行き過ぎると首を絞めることになるよ?」


「気を付けるさ……とりあえず今回はシャンカラが居てくれるから、色々見ることができそうだ」



 『霧の魔王』のいる『迷宮絶霧』に少しだけ近い場所にアジトらしき場所があるんじゃないかという話を聞いたので、蒸し暑い森の中を歩いているが、シャンカラがいるおかげか、魔物が本当に寄ってこない。


 さすがにシャンカラに挑むような野良魔物が、こんな場所にいるわけないから当たり前なのだが、フォルカで森の中を歩くときとの差に驚きを隠せない。


 少し歩いていると、巨大な樹の上に人が住めそうな家のようなものがいくつか出来上がっている場所に辿り着いた。器用な事をするもんだ。



「わざわざ人目から離れるために、こんな面倒なことをするんだな……ダンジョンと違って全部手作業だろうに」


「魔除けに関しても徹底してあるね。気配としては20人くらいだけれど……」


「そこそこの数殺してきてるらしいからな。もちろんアークに悪影響を与えたってことで相当の罰を受けてもらうさ」


「メルクリウス用に死体でもいいから一部を持ち帰ることを忘れないようにしないとね」


「まずは様子を見ようか……外周クルっと見てみたい」



 あんまり見たことのない拠点の形だ。

 樹の上に器用に作られた基地という感じで、個人的には面白いと思う。

 

 ウチではレーラズが見たら真似しそう感じではあるが、別にこんな拠点みたいに生きるのに何かが必要であるって感じじゃないし、面倒ということで作りはしないだろうな。


 シャンカラと一緒にコソコソと外周を動き回る。

 忙しそうに動いている気配を感じながら、シャンカラが耳を立ててくれて状況を探ってくれているが、あんまり表情がよろしくない。



「彼らが元いた世界では味わえない弱者を殺す愉悦……やっぱりよろしくない集団みたいだね?」


「同じプレイヤーでもこんなにも違うもんなんだな。特に同じプレイヤーを殺すことで女神様から何か恩恵があるってわけでもなさそーだし、もういいかな」


「僕たちの家を脅かした罪を償ってもらわないとね……『神化アヴァターラ』『闘争ト武天ノ神ドゥルガー』」



――ゴウッ!!



 シャンカラの身体が輝き、爆発的な闘気と魔力が溢れ出る。

 俺は避難しながらシャンカラが『闘争ト武天ノ神ドゥルガー』へと姿を変えていく様を見させてもらう。


 身体の大きさは4mほど、腕が10本に煌びやかな武装を纏った女性型の神。

 額に3つ目の瞳をもっており、10本の腕にはそれぞれ色んな武器を持っており、殺意の高い姿へとシャンカラは変化した。



「さぁ……気付いた時には地獄に行けるぞ」


「ば、化け物だぁぁぁぁぁぁ!」


「ひぃぃぃぃぃぃ!」



 殺しが愉悦だとか生意気なことをやって生きてんなら、強い奴とあっても堂々と挑んで来るくらいの気概を見せて欲しいもんだ。

 最早溢れ出す闘気や殺気だけで、次々とプレイヤーたちが気絶していく。


 さすがに力の差がありすぎて、最早『闘争ト武天ノ神ドゥルガー』の姿を直視することもできないだろう。


 こんなことされたら生きて逃げれても一生のトラウマになりそうだ。


 シャンカラが1本の腕を天へと伸ばし、そこから魔力が一閃輝く。



「まとめて消し飛ぶと良い……『栄光の数々はマルディニー・天より来たるマーハートミヤ』」



――ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!



「わあぁぁぁぁ!!」


「空から降ってくるぞ!!」


「防御スキルを使えぇぇぇぇぇぇ!」


「我が『我は壊す。世の全てをラーマーヤナ』の前に守ろうなど無意味なり」



 天から降り注ぐのは凄まじい闘気と魔力を纏った武器の数々。

 掠れば絶命という絶望的な雨はプレイヤーたちを次々と葬っていき、立派な拠点も一瞬にして崩壊状態だ。


 これまたスゴイ技だ。

 範囲を指定できるっぽいし、何より一度発動すれば攻撃の雨を降らせつつ、シャンカラは好き勝手動けるので、範囲指定で被害を与えることで相手の動きを止めることができる便利なもんだな。



「まさしく阿鼻叫喚、一網打尽ってやつだな。襲撃するような活動をしているのに、自分たちが襲撃されることを想定していないってのは勉強不足だ。来世で頑張ってくれ」



 プレイヤーたちはこの世界の人間では無いが、この世界での死は元の世界での死を意味するようなので、彼らはこれで終わったのだろう。

 プレイヤーの特徴として、一人一人個性的な装備をしているのに、まったく落とさずに装備ごと光の粉となって消えて行ってしまうところだ。


 シャンカラによる無慈悲な『栄光の数々はマルディニー・天より来たるマーハートミヤ』は僅か1分も経たないうちに1人を除いてプレイヤーたちを殺し尽くしてしまった。


 残った最後の1人は、あまりの光景だったのか気絶してしまっている。



「そんな器用に降ってくる武器を調整できるのか」


「もちろん……なんだって降らせるよ」


「さすが……『闘争』と『武天』の神か…阿修羅が聞いたら盛り上がりそうだな」


「我は近接戦闘を主とした神では無い……鬼神のが血肉踊るような戦いをするならば『時間ト殺戮ノ神カーリー』であろうな」


「『時間』と『殺戮』だったか? また物騒なものだな……とにかく、ありがとうシャンカラ」



 俺の礼に合わせてか、シャンカラが『神化アヴァターラ』を解除する。


 『栄光の数々はマルディニー・天より来たるマーハートミヤ』によってプレイヤーたちが頑張って作り上げたんであろう拠点が崩壊してしまったが、ある程度何か残っていないか調べてみるのが良いかもな。



「何か面白い物が見つかるかもしれんな……探し物に便利な『神化アヴァターラ』はいるのか?」


「その要望には応えられそうにないかな……さらにボロボロにするか、跡形も無く消すことは可能だけど」


「そうか……少しの間ゆっくりしててくれ」


「主の安全確保をしながら……見学させてもらうよ」


「まぁ……見てろって」



 俺はシャンカラに見守られながら1時間程残骸の中を探し回ったが、大したものは見つからず、シャンカラに慰められながら『罪の牢獄』に帰還することにした。


 


 

 

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