外伝 『傲慢』は素直


 『罪の牢獄』には個性豊かな魔物が多い。

 『大罪』の魔名が魔物に真名を付与できる回数が多いのも影響しているかもしれない。


 そんな『罪の牢獄』の中で、誰もが認める取り扱い注意の最強魔物がいる。



「そ、そんなにじっと見られると……僕恥ずかしいよ」


「まだまだハクのことは知らないことだらけだよな……一番付き合い長いのに」


「それは能力のお話?」


「能力の話もそうだし、色々とな……せっかくコアルームで一緒にいる時間長いから、お昼寝の時間かもしれないけど、たまにはお話でもどうだ?」


「うん♪ マスターと2人なら何でもいいよ♪」



 ハクがコアルームに置いてある寝床から出て、近くに来てくれる。

 ウサ耳はひょこひょこ揺れているのは機嫌が良いときってのは知っているので、今ひょこひょこ動いているのは話しやすい状況であるお知らせみたいなものだ。


 椅子を1つ隣に置く。

 ちなみにクルクル回る椅子で、ガラクシアがよく大回転して遊んでいる人気の椅子だ。


 コアを弄ってハクのページを映しておく。

 ハクが回らないように椅子に座り、なんだか楽しそうに自分の能力について解説してくれる。



「まぁ……ハクは『私だけが唯一絶対ゼロ・スペルビア』があるからな」


「えへへ♪」



 完全な反則アビリティ『私だけが唯一絶対ゼロ・スペルビア』。

 ハク以下のLvかステータスの存在は基本的に能力というものを使用不可になり、このアビリティの効力は防ぐことができないという意味不明な力。

 ハクが本気を出せば、ハク以外誰も能力使用不可の状態になるという地獄絵図が誕生してしまうという最終奥義。


 承認式の面もあるが、戦闘時はそんなこと考えたくないし、承認するのは大変なので基本的にはやれないと考えたほうが良いようだ。



「僕一人で全部倒せちゃうから、マスターがお願いしてくれるなら頑張るよ!」


「そうだよなぁ……ハクだけで一面任せられるのは本当に大きいよ」


「探知さえ出来れば……跳んで斬れば全部おしまいだからね♪」



 探知できる範囲内に自在に跳べるスキル『兎の理』。


 一撃で仕留められずとも一発当てれば、『回復不可』『防御無視』『環境恩恵破壊』と相手を絶望的な状況に陥れることができるアビリティ『無限銀河唯我独尊ユニバース・プライド』。

 

 とにかく相手とのステータス差を広げ、攻撃性能の高い『傲慢プライド』と相性の良い『黎明の子、明けの明星ルシファー』、基本的にハクの能力に影響されてしまう存在が天と地ほどの差を強制される恐怖のアビリティ。


 

「圧倒的ステータスをもって一撃で勝負を決める……シャンカラくらいかな、今のところハクの舞台に辛うじて上がれるのは」


「僕の方が強いよ? 誰も僕からマスターを奪えないんだから」


「そいつは心強いよ……ハクがコアルームに居てくれるおかげで安心して悪巧みできるから助かってるよ」


「えへへ♪」



 テンコ盛りすぎて、いくつかの能力に必要性を感じてしまうが、ハクと同じLvとステータスの相手がいた場合は『私だけが唯一絶対ゼロ・スペルビア』の効力を避けられてしまうので、その時に他の力が輝くんだろう。


 真祖とやらの力も、月に関するスキルも普段は使うことが少ないと思うが、こういった機会に改めて、深く聞いておかなきゃいけないな。



「真祖ってのは前も軽く聞いたけど……まず『吸血鬼』っていう存在が難しいよな。吸血鬼をメインにした魔王もいるんだろうけど、ウチのダンジョンには他にいないからな」


「特別な吸血鬼……ん~、とにかく弱点が無くなって夜に強いよってことで良いんじゃないかな?」


「ハクも俺の血吸った後だと……なんだか強くなるもんな」


「マ、マスターの血を吸ったら……ん~……世界丸ごと滅ぼせちゃうかも!」


「まぁ……本当にヤバくなった時の秘密兵器にしとこうな」


「うん♪」



 こんな可愛らしいリアクションで色々答えてくれるハク。

 俺の考えている中では、切り札にもなり、切り込み隊長にもなる戦力として本当に頼りになる存在だ。


 ハクのおかげで変わったことも多くあって、阿修羅や五右衛門がハクの強さに近づこうと仕事をたまに忘れてでも修行しているのが個人的には好きなところだ。

 特に阿修羅はハクの圧倒的な剣技に一度敗れているのらしいので、かなり燃えているようだ。五右衛門も一蹴されたみたいだし…。


 ハクと比べられているポラールとシャンカラは特に気にしていないようだけど…。



「まぁハクは戦い特化って感じだよな……改めて『枢要悪の祭典クライム・アルマ』は各々尖っていて、適材適所力が強いから物事が本当にスムーズに進めれるよな」


「うー……僕まだ活躍できてない?」


「みんな活躍できるのはハクが最終関門として守ってくれているからさ……何かあってもハクが出てきてくれれば最悪事を治めることができるからな」


「マスターがコアルームに居てくれないとつまんない」


「俺もできればコアルームに引きこもれるように立ち回るよ。ここが一番安全だからな」


「ここにちょっかいかけてきてた奴もいたっぽいけどね」


「それはハクが配合される随分前の話だからな……もちろん対策済みだよ」



 本当にそうか決まったわけではないので誰とは言えないが、この『罪の牢獄』居住区に怪しげな仕掛けをしていった悪い魔王がいる。

 メルが気付いてくれたのでバレないように逆に細工をしてやったが、あまり効果は無かったようで、どの魔王がやってくれたか気になる話だ。


 俺と会ったことのある魔王は数少ないので、かなり絞れる話なんだけどな。



「あーあ……何も考えずにハクとゴロゴロ過ごすような余生を送りたいもんだよ」


「っ!! えへへ♪ 今からここ以外の全部滅ぼしてこよっか!?」


「本当にすまんかったからやめてくれ」



 ハクのアビリティ効果範囲は、何故かよく解らないけれど、気分次第で効果範囲が変わるような形になっており、最初模擬戦で試していたときにこれくらいって教えてもらっていたのに、次見た時は全然違うってのがあったので、とりあえずハクのモチベーションと気分は戦闘時には最高になるようにして、普段は落ち着いてもらうようにするのが『罪の牢獄』のルールになっている。


 普段は昼寝をし続けているのに、突然やる気スイッチが入るので、俺もどんな感じで話を進めて行けばいいのか、実はよくわかっていないところがある。


 とりあえず素直で良い子ってことには変わりがないので、難しく考えすぎないようにしているけど…。



「そういえばハクの太刀って名前ついてないよな……阿修羅の『三明の神剣』や五右衛門の『智慧の本源を断つ刃アマノムラクモ』みたいにさ」


「ん~……マスターがつけてくれていいよ? 僕別に名前に拘らないし」


「そう言われると難しいな……みんなの真名もそれなりに意味のあつものを付けているつもりだから、せっかく付けて良いなら少し考えておくよ」


「うん♪ また決まったら僕に教えてね! マスターが決めてくれた名前だったら戦いの最中でも頑張って叫ぶよ!」


「それはなんだか恥ずかしいな……良さげな何か無いか調べてみるか」


「ただでさえ、誰も僕に勝てないのに、マスターがこれに名前をつけてくれたら、さらに勝負にならなくなっちゃうかもね」



 圧倒的な実力と自信。

 正直少しでも良いから俺に欲しいもんだが、逆にビビりだからこそ今の立場にいたのかもしれないと考えると、あんまり変わるのも怖いなって思ってしまう。


 ハクと話をしていると毒気が抜かれて、少しスッキリするし、自分を見つめ直す良い時間にもなっている気がする。


 ハクを見習って自分らしく……自分が考えるがまま素直に生きて行けるように頑張ろう。



 

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