第8章 若人の『覚悟』

プロローグ 『四大学園』



 『四大学園』。

 各国の若者が将来の友、一生の思い出や経験、夢を掴むための実力を得るために集う場所であり、決して仲良くない四大国の争いが禁じられている唯一の場所でもある。


 そこでは各国から未来ある若者に教鞭を揮いたいという優秀な人材が教師という立場で多く揃っており、冒険者や商人など多くの世界的有名な人物を数多く輩出している学園でもあるのだ。


 各国にある街からも人材募集が多く集まる場所であり、2学年の中で1度、どこかの街に研修に行かなくてはいけないというカリキュラムが存在する。


 学園中央にある巨大な中庭にあるベンチで1人の少年がベンチに座りながら、1つの資料を確認しながら昼食をとっていた。



「迷宮都市アーク……あの2人が突然拠点にした街か……」



 彼の名は『ルーク』。

 隠していたつもりだったが、1年生を終えることには残念なことに広まってしまった元『七人の探究者セプテュブルシーカー』の一員。

 そして現役での個人SSランクを所得している人物でもある。


 『七人の探究者セプテュブルシーカー』の解散後、とあることを調べる目的と、友達や仲間と呼べる人を探すために四大学園に入学した少年だ。

 17歳ではあるが『七人の探究者セプテュブルシーカー』での経験が17歳ではありえないような落ち着きを醸し出させている。

 少し茶色が混じった黒髪に黄色の瞳は、1週間後に研修として出向く街の情報をしっかり読み解いていた。


 ルークの恩人でもある『七人の探究者セプテュブルシーカー』の団長と副団長、その2人は団長に掛けられた呪いのせいで世界中を旅しているはずだったのだが、3カ月ほど前に『迷宮都市アーク』という街を拠点にしたから遊びにおいでという手紙をもらったルークは、丁度いいと思い、仲間を誘ってみて研修先に選ぶことにしたのだ。


 そんなルークに駆け寄ってくる1人の少女。



「またその資料を読んでるの? ルーク君がそれを読んでる姿を見ると10回目くらいだよ?」


「……気になるんだから仕方ないだろう。パティは目を通したのか?」


「もちろん1回は読んだけど、ルーク君みたいに何回もは読んでないな~」



 彼女はルークと同学年で1年の頃からルークと仲の良く、聖国出身者らしく『回復魔法』や『付与魔法』を得意としている少女パティだ。

 肩のラインで揃えられた桃色の髪が特徴的で、将来的にはどこか平和な街で医療関係の職に就きたいと考えている真面目な子でもある。

 Cランクを所得しており、ヒーラーやサポート系統での役割はルークも認めるほどの将来性のある少女だ。


 パティはルークの隣に座り、ルークが真剣に資料に目を通しているのを楽しそうに眺めている。



「わざわざ外で読む必要あるのかしら?」



 そんな2人に対して、少しだけ棘のある言い方をしながら近づいてくる長い銀髪を束ねたスタイルの良い少女。

 学園の制服に加えて腰には1本の立派な剣まで携えている。



「中だと騒がしいから外の方が集中できる」


「…何回も読んでいるのに集中する必要あると思えないけれど」


「ルーク君は心配性なんだよね?」



 王国出身で立派な貴族の娘、そして将来は王国騎士団に入るため、騎士学校ではなく、より強者が集まると思い、わざわざ四大学園にやってきた変わり種。

 彼女の名は『シェイラ・アールグレイス』という王国でも有名なアールグレイス家の娘、1年の頃は1匹狼のようなタイプだったが、ルークに命を助けられたことでルークに興味を持ち、気付けばルークたちの中に入っていた少女。


 シェイラも迷宮都市アークへと一緒に行くメンバーとして資料は2回ほど読んではいるが、特に変わりはなく、様々な種族が平和に暮らしているという珍しい街であったことくらいしか気になるところは無かったので、ルークがそこまで何度も読み返す理由が分からないのだろう。



「『七人の探究者セプテュブルシーカー』、その仲間がやはり気になるのかしら?」


「あぁ……あの2人が拠点にするんだから、確実に何かあるはずだと思うんだけど、全然分からんから正直行ってみないとってところかな」



 1週間後に出発する研修はルークを含めた5人の学生と、ルークたちが4カ月ほど前に共闘した元勇者とその仲間の1人の計7人でアークに向かうことになっている。

 勇者グループから追い出されたっていう聞いたことの無い経歴の持ち主だけど、実力は自分よりも上だし、依頼料を払えば護衛として付いてきてくれるとのことだったので話し合った結果、依頼をすることになり引き受けてもらったのだ。


 世界で多くの人が知っている実力者である『七人の探究者セプテュブルシーカー』のトップ2人がいるから安全だと思ったルークだが、何か嫌な予感がしたから安くない依頼料を捻りだして支払ったのだ。



「迷宮都市って言うんだからダンジョン攻略も出来るわね!」


「ルーク君がいたら攻略出来ちゃうかもしれませんね」


「高ランクダンジョンは俺一人如きじゃ歯が立たないって……たぶん今挑んでも浅い階層で返り討ちになるよ」



 『七人の探究者セプテュブルシーカー』時代の経験、圧倒的下っ端ではあったが、確かに高ランクダンジョンを攻略したことのある実績を含む、ルークの発言は2人にしっかりと考えさせるには十分なほどだった。


 迷宮都市アークにあるダンジョンは『罪の牢獄』と呼ばれているらしく。出来たばかりのダンジョンだが、他のダンジョンとは違い、生息する魔物に統一感がまったくなく、Gランクの魔物、その魔物の強化版、そして高ランクの魔物と極端な構成になっているらしく、現在地下4Fまでしか確認出来ていないらしい。


 そんなダンジョンがありながらも、ルークが1番警戒するのは、自分たちの団長でもあったカノンに呪いをかけた『八虐のユートピア』だ。

 ルークは2人が拠点にすると言うことは、きっと『八虐のユートピア』に何かしら関連があるからだろうという考えをしており、もしかしたら戦いになるのかもしれないという意味合いで呼ばれていると思っているのだ。



「まずは準備をしないといけないな」


「そうだね。長旅になるかもしれないから準備を怠らないようにしないとね」


「2人にもしっかり伝えておかないといけないわね!」



 ルークはここに入学してからの1年半と少し、何かしらのトラブルに巻き込まれてきたし、引き起こしてきたので、今回の何かしらはあるだろうと予測し、迷宮都市アークへの研修にむけて気持ちを整えるのであった。


 毎年何かしら事件が起こる『四大学園』の生徒たちが行く研修期間が始まろうとしていた。



 

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