第1話 『人の世』の難しさ
――王都アトラス 城下町の外れ
アークに未来明るい若き人間たちが見学に来てくれる日が残り1週間と迫る中、俺はカノンとアルバスに、人間界で1番『貧富の差』が分かりやすく感じられる四大国の都市を聞いてみたら王都ということだったので、ウロボロスに王都まで連れてきてもらった。
けっこう離れた場所に転移してきたので、そこそこ歩いたが、良い景色だったのと以外にも警備がザルだった。王城周囲と貴族街は凄い警戒度らしいが…。
メルとリトスによる気配消しも完璧なようで、王国騎士団にも怪しまれることは無いだろうし、王国にいる猛者たちにもバレていないはずだ。
最初は煌びやかな貴族街というところを見て周って見たが、かなり驚かされた。
建物の作りや歩く人の格好、販売している物、どれもこれもアークの何倍も金のかかるようなものばかりだった。
何故わざわざ金をかけずとも暮らしていけるのに、煌びやかな物を追い求めるのかは魔王である俺には分からない価値観ではあるが、アークには存在していない貴族という者達が、凄まじい生活水準値にあることが分かった。
「からのこの惨状か………王都が広すぎるが故かね? さすが四大国で1番広いだけはあるな」
カノンたちに聞いた王都の闇と呼ばれるような場所に来てみたが、それはそれは落差が激しすぎて、思わず大声を出してしまうほどに驚いてしまった。
王都でも所得が低い人たちが暮らしている地域らしく、狭いし王都中央から遠すぎるし、なんだか薄暗い気もするし良いところなしな場所だ。
貴族や貴族街で暮らしているような人たちとどれほどの『所得・資産』の差があるのかは分からないが、同じ都市の中でこれほどまでの差があって良いのかって思わず感じてしまう。
「少し贅沢どころか、1日1日を過ごすのにも苦しい人たちがこんなにもいるのか………ここの者たちを上手くやれば、もっといい国になるとは思わんのかね? こんなにも人手が揃っているというのに…」
メルに色々読み取ってもらって人々から情報を頂いていくが、ここにいる人たちは誰もが生活に苦しんでおり、生きていくことに必死な感情が驚くほどに大きい。
王都を出る金もなく、家庭がある者は子供を養っていかなければいけないという使命もある。
アークでも人が生きる流れを見ているが、あまりにも貧富の差が激しすぎて別の生き物なんじゃないかって思えてくる。
「この先にカノンが言ってた孤児院とか言う場所があるのか」
「人間の子どもの気配がたくさんする」
王国騎士の見回りも、この地域には全然見られない。
王都が成り立つ上では、ここにいる人たちが働いている仕事がないと成り立たないはずなのに、ここまでの扱いをされているのは不憫でならない。だからと言って助けるかと言われれば、わざわざ王都を救ってやろうとは思ってはいない。
少し歩いていくと白い2階建てで、かなりボロボロである1つの建物が見えてきた。
「確かに目立つし、子どもたちが幼い時代を暮らすには良い環境とは言えないな……物騒だし、蹴落とし合いで生きようとする者が多すぎて、子どもには苦しいぞ」
この孤児院でマザーと呼ばれている孤児たちの面倒を見ている女性はカノンと面識があるようで、子どもの頃仲良しだったらしく、今でも年に2回ほど手紙のやりとりをするようだ。
カノンが『
建物に近づくと、10人ほどの子どもたちと小さな庭なようなところで遊ぶ女性と目が合う。
第一印象は疲労、だけど芯が強そうなしっかりとした女性だ。腰まである黒髪に艶は失われているが、肌を見た感じ栄養はある程度摂取出来ているようだな。
俺は玄関らしきところに近づいていく。
「マザー! お客さんだよっ!」
「わざわざ、こんな孤児院まで……どちら様でしょうか?」
「……とある笛吹き女冒険者から紹介を受けた……悪い奴だな」
俺はカノンから預かった手紙を女性に渡す。
手紙を読んだ女性は深いため息をつきながら、俺を中へと案内してくれた。
◇
「お茶しか出せずに申し訳ありません」
「突然訪問してきた奴に、そんなに気を使わなくても大丈夫だ……お茶だって安い物ではないだろ?」
孤児院の中に入れてもらい、食堂に案内してもらった。
ちなみに彼女は『ロゼッタ』と言い、王都の端っこで6年ほどこの孤児院を切り盛りしている様だ。
この孤児院は15歳までの子どもが暮らしており、15歳を過ぎた子たちはどうにか働く場所を探して巣立って行っているようで、彼女は自身も幼少期を孤児院で過ごしたらしく、少しでも王都の身寄りのない子どもたちのためになりたいと思い、孤児院を開いたようだ。
「それが今では40人の子どもを1人で面倒を見なくちゃいけないとはな」
「上の子たちがしっかりしてきましたから、家庭菜園や街のお手伝いで、なんとか食い繋いでいることが出来てるんだ」
「何より素晴らしいのは、人間だけじゃなくて他の種族の子もしっかり面倒を見ているところだ」
「……カノンから聞いた?」
「いや、気配で分かるんだ」
なんたって魔王だからな。
ロゼッタさんのやっていることは、俺の理想に近しい考え方だし、とても共感できるところがある。
カノンが仲良くしているのも納得だし、多額の寄付を受け取らない頑固さも、どこか好感が持てる人間だ。
俺が感じた気配は人に比べれば少ないが、何種類かの獣人族の気配がする。しかも他の子どもたちと一緒に遊んでいる感じなのだ。
「それで、カノンの手紙にも書いてあった件はどうかな?」
「……有難い提案ではあるんだけど、なかなか信じられないというかね……」
「まぁ…建物ごとアークに移動させて、仕事や教育だなんて言っても意味不明だよな」
カノンから四大国の小競り合いが活発になってきて、戦争による税が民に降りかかることを懸念して、友達を助けてあげたいとの相談を受けた。
ロゼッタだけがアークに来るという話では絶対に頷かないし、この建物と子どもたちに思い入れがある、そして子どもたちの将来と安全が何よりも大事にしている人だから、どうにか出来ないかとカノンと話し合いをした結果、建物ごとアークに転移させて色々やろうという摩訶不思議な作戦。
もちろんウロボロスに頼んで、建物ごとアークに転移させてもらうということだ。場所はしっかり確保してあるので安全だし、王都よりも良い暮らしで、子どもたちの将来の保証も出来る。
「もちろん子どもたちが良いって言ってくれたらだけどな」
「……このためにわざわざ出向いてきたのかい?」
「あぁ…ロゼッタの考えや孤児院と言う活動をぜひともアークで活かしてほしいと思ってな。まだ出来たばかりの街だけど、どんな種族だろうと関係なく暮らしていけるし、王都の富裕層のような生活は無いけれど、理不尽の無き、平凡な暮らしを保証するよ」
「カノンの言うことが嘘とも思えないからね。子どもたちが良いと言うのならカノンに会いに行ってみようかな」
ロゼッタが納得してくれたようなので、俺は子どもたちのところに行って、出来るだけ分かりやすくアークについての話をする。
なんか盛り上がってくれたので良しとする。年長組は疑っているが、ロゼッタがカノンの話をしてくれたので信用してくれたようだ。
しっかり全員の許可を得られたので、特に王都でやりたいことも無いそうなので、さっそく行動に移すことにした。
「では……ようこそ。迷宮都市アークへ」
ウロボロスにお願いして建物ごとアークへと転移させてもらう。
こうして、またアークの住人が増え、俺の理想とする街に近づいて行くんじゃないだろうか?
一度こういった経験を味わった者の根の思想は変わりにくいだろうけど、アークでノビノビと育ってもらいたいもんだ。
ちなみにウロボロスの転移のおかげで王国騎士団は大慌て、なんと帝国からの者というところまでバレてしまい、近づきづらくなってしまったのは残念なお話。
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