第2話 『追放』された勇者


――『罪の牢獄』 居住区 コアルーム



 四大学園からの学生がアークを見学に来るという日をついに迎えた。

 正式に学園側から書類をいただいており、ルジストルにリーナ、カノンにアルバスが対応してくれることになっている。大体はカノンとアルバスに任せてるんだけどな。


 学園側から生徒の情報も書類として届いており、元『七人の探究者セプテュブルシーカー』であるルーク君以外にも王国の貴族さんやら、そこそこ名のある冒険者の息子だとか面白そうな若者が来てくれている。


 しかし残念なことに『追放』されたとか言う勇者と、その仲間に女の子もいるそうだが、学園の関係者ではなく、1つの勢力として一緒にアークに来たんだが情報がまったく得られていない。

 どこかでイデアに確認してもらわないとな。



「『瞳に映る未知の世界テレポーテーション』か……」



 元『七人の探究者セプテュブルシーカー』であるルーク君。17歳にしてSSランクを与えられ、いくつもの高ランクダンジョン攻略に貢献した能力。

 学園側から送られてきた書類には書いていなかったけれど、カノンたちのことを調べれば自然とたどり着いた。


 自身か自身の触れているものを、自分の目に映る範囲に自在に転移させることが出来る能力、それが『瞳に映る未知の世界テレポーテーション』。

 かなり使い勝手の良い能力で、やりたい放題することが出来る可能性を秘めた素晴らしい力だと思う。自身の移動させられるってのが最高に厄介だ。



「最高の補助であり、圧倒的な経験値『ルーク』、ヒーラーで医療系志望の『パティ』、王国貴族で王国騎士になりたい『シェイラ』、父親のような立派な冒険者になりたい『ナッシュ』、珍しいエルフ族で、ダンジョンを攻略して稼ぎたい『キャンディス』か、確かに学生にしては強力な集団だな……転移は正義ってよく分かるわ」



 カノンにアルバス、ミネルヴァが将来有望と言っていた意味がよく分かる。個人的にはパティちゃんには、ぜひともアークで働いてもらいたいものだ。

 ルーク君とシェイラちゃん以外は頑張れば将来アークに来てくれるんじゃないかって言う可能性があるから、カノンとアルバスもいることだし、ぜひとも頑張ってほしい。


 そして問題なのが元勇者の『本橋恭弥』と一緒にいる『エル』っていう2人だ。特に元勇者は一応学生たちの護衛として雇われたようだが、わざわざ自分たちが申し込んできた研修に護衛を付ける意味が分からんぞ。ここが迷宮都市だから?



「ちゃんと勇者みたいだね。気配が勇者たちと同じ感じがするかな……異質な気配が」


「モニター越しでも分かるんだな」


「ますたー。ルジストルが精霊ってバレてるよ」


「まぁ……そこは仕方ないな。カノンとアルバスが上手くやってくれるだろう」



 すでにルジストルの館に7人を案内し、ルジストルとカノン、アルバスが色々話をしている。

 さすがに『七人の探究者セプテュブルシーカー』メンバーなだけあって3人は会話が弾んでいるように見える、カノンが一方的に話をしているようにも見えるけど……。

 他の学生たちはカノンとアルバスを前にして、かなり緊張している様だ。そういえば2人とも人間界では数少ないEXランクだったな。


 

「ダンジョンに挑みたいようだけど、どうしたものか…」



 元勇者の力次第ではアヴァロンのところまで辿り着ける可能性は大いにどころか行けるだろう。アヴァロンはダンジョンを進もうとする相手に容赦なんてしないので、どうにかアヴァロンのところに行く前に満足するか、苦戦するかでご帰宅してもらわなくちゃいけない。

 元勇者の力が、俺たちが殺した3人の勇者並みならば地下4.5階層辺りでギブアップになるだろうから、出来ればそうなってほしい。

 ルーク君以外の学生たちも戦闘経験がそれなりのあるようで、イブリース前までは4人でもすんなり行けるくらいの実力はありそうだ。



「研修期間として、体験したい仕事がある子もいるみたいだから、そこらへんも上手くサポートしていかなきゃな」


「人間に対して随分と手をかけるね」


「ますたー、変わってる」


「アークでは、どんな種族だろうが若者は大切にするさ。もしかしたら将来を支えてくれる存在になるかもしれないからな。街を勝手に良くしてくれる有望な人手になりうるからな」



 俺と魔物たちが居てくれれば『罪の牢獄』は成り立つけれど、アークはそうはいかない。様々な種族の困っている者達を各地から、本人たちとの話し合いの末、アークには来てもらっているから人口は増えていくけれど、それだけでは街は成り立たないからな。

 ポトフ商会やヒナタ商会なんかもアークでは商業の中心として活躍してくれているから宣伝力も上がっているし、人が増えればそれだけ街に求められるものは増えていく。



「できれば、あの若者たちもアークに欲しいものだ」


「ガラクシアに頼めば解決する」


「一応それにもリスクがあるからな……」



 元勇者に効かない場合と、万が一にもガラクシアがやられてしまった時は大惨事になりかねないから、今回は正攻法でカノンとアルバスには頑張ってもらう。


 もちろん俺は若者たちばかりではなく、他にもやることが多いのでそっちばかりに気をとられていては不味いので、しっかりとプレイヤーやら他魔王への対策と、勇者の動きを探っていくつもりだ。



「元勇者に付いてる子、あれ人間じゃない」


「……人間にしか見えないけど、リーナたちみたいなホムンクルスか?」


「少し違うね。人間だったものに大幅に手を加えられてるみたいだけど……私が創った魔物と似たようなものかな」


「人間が人間を改造したってことか?」


「どこかで私が視るか、メルに細胞の欠片でも摂取してきてもらうのが速そうかな」



 人間という種族では無くなるような改造を受けた元人間。

 気になるのは、本人が望んで今の形になっているのか、誰かしらの都合で手を加えられてしまったかによって大きく違ってくる。

 誰かを改造することを生業としている者が存在しているってのは、あまり好ましいことには感じないからな。


 メルとイデアに話し合いの場を観ていてもらうのは継続してもらい、俺は別モニターで毎日攻略の糸口を掴もうと、ダンジョンに挑んでくれているプレイヤーたちを見ることにした。



「毎日攻略しにくる根性は見事なもんだ」



 プレイヤー最前線組の「黒鉄の猛牛」とやらがアークに来てから、アークにいたプレイヤーたちの動きがとても活発になった。

 階層ごとの的確な攻略方法を確立しているんだろう。イブリースの攻略方法は残念なことに編み出されてしまったので、今は地下第4階層をプレイヤーたちが頑張って調査をしている。

 最前線組の凄いところは現地冒険者たちとも協力をして、しっかりと多くの冒険者が共有できる形で攻略記録を残しているところだ。稀に死人も出ているが、基本的にプレイヤーは不味くなったらすぐ逃げるというのを徹底しているので、本当にルールがしっかりしている集団だなと見ていて思う。


 最近地下第4階層と5階層は少しだけ戦力ダウンをしたので、アヴァロンのところまで辿り着くのは意外と早いのかもしれない。

 だが、本格攻略の日に俺が、ダンジョン構造を変化させたらどうするんだろうか?  

 ウロボロスがいれば、脱出用魔道具なんて使用不可に出来るので、もしその日が来たらやってみてあげても面白そうだな。



「レベルアップ促進能力が厄介すぎる」



 プレイヤーが共通でもっている経験値を追加でもらえる能力が、ありえない速度での成長をプレイヤーにもたらしている。イブリース狩りっていうレベル上げの方法や、大森林でもレベルアップ週間みたいなものも作り出されており、ミネルヴァの話では、人間はLv130くらいから、かなり上がりにくくなるそうだが、この世界に来てから1年でプレイヤーのトップ層はLv100には辿り着きそうだ。



「5年もすればLv250も夢じゃないだろうな」



 Lv上げに集中すれば5年で人間の限界値を目指せるだろう速度に感じる。

 『罪の牢獄』に新たに加わった魔物たちにも、その経験値追加能力を上げて欲しい。阿修羅や五右衛門がLv上げを手伝ってくれているので、グングン成長してくれているので文句はないんだけど……。



「女神って何者なんだ? 俺たちにとっての『原初の魔王』みたいなもんだとしても……女神って呼び名以外、調べても出てこない」


「ますたー、元勇者が魔王に会わせてくれって、コソコソ話してるよ」


「まぁ…やっぱり知ってるか、迷宮都市の裏には確実に魔王がいるってのは…」



 追放されたのが本当だとしたら、ある程度の期間は勇者をやっていただろうから、魔王が迷宮都市の裏に確実にいるってのは知ってるだろうな~とは思っていたけど、まさか直接交渉をしてくるなんて、なかなか度胸のある元勇者さんだ。


 みんなが寝静まった時間を指定して、俺は元勇者に会って見ることにした。


 生かすか殺すか……一番何がメリットになるのやら。

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