第3話 『加速』していく真実
――迷宮都市アーク ルジストルの館 真夜中
「まさか本当に姿を現してくれるなんてな……」
「好奇心に負けてさ……それに自分が呼んだんだろう? 元勇者『本橋恭弥』」
「しっかり調査済みってことか」
「まぁ元勇者に会うのを快く許してくれる最高の配下がいるもんでな」
こちらが決めた時間通りに、元勇者はルジストルの館を訪ねてきた。
わざわざ相棒のエルを引き連れてきた、何やら話がしたいようなので、俺もしっかり護衛を連れて時間通りに館にある空き部屋へとやってきた。
ちなみに護衛はイデアとポラールだ。多すぎるとゴチャゴチャするから解析担当をイデアに、戦闘担当をポラールにして護衛してもらっている。
ハクが来たがっていたが、一緒にくるとイデアの解析を邪魔してしまうので、申し訳ないが待機してもらうことにした。本当にヤバくなったら跳んできてくれるだろうから安心だ。
「わざわざ魔王を呼び出しておいて、何の話がしたいんだ?」
俺の発言に対して、イデアとポラールが少し圧をかけるのを感じる。少しなんだろうけど、部屋から少しだけ軋む音が聞こえてしまっている。壊さないでくれよ。
2人からの圧を受けても元勇者は表情をあまり変えることは無かったけど、エルちゃんのほうは驚いてしまったようで、萎縮してしまった。
黒髪黒目で戦えるようには見えない体格をしているが、その眼はしっかりとした芯のある何かを感じる青年である元勇者『本橋恭弥』。
紅色のショートヘアをした可愛らしい少女であり、人間ではない何かの『エル』。
聞いてみたいことは山ほどある。
「まさか出来たばかりのダンジョンに、こんなとんでもないのが潜んでいたなんて驚きだ」
「そんな軽口言える余裕があるなら大丈夫だろう」
「…『魔王だけ』が知っていること、そして『勇者だけ』が知っていること、このことについて話をしたいんだ」
「……話す相手が俺で良かったな」
他の魔王にこんな話したら、笑われて戦争になってお終いだ。戦争になるどころか俺なら暗殺して潰しちまうレベルの意味不明ムーブだ。
俺の発言に少しホッとしたのか、少しだけ肩の力を抜く元勇者。少し油断のしすぎだとは思うけど、さすがに後ろの2人にはどう足掻いても勝てないって思ったんだろうか?
魔王側しか知り得ない情報ってのはどこまで聞きたいのか分からないけど、勇者側しか知らない情報は俺からすれば聞きたい話だ。
とりあえず軽く勇者について知っていることを元勇者に話をしてみた。
地球から来た奴がいるだの、魔王討伐して元の世界に帰るやらブレイブスキルっていう恐ろしい力を持っていることを、事前に知っているという意味で伝える。
「日本のことを知っているのか……信用してもらうためにも俺から話をしていくと、俺たち勇者と今世界にたくさんいる『プレイヤー』は同じ日本から来ているんだが、時間軸も世界線も大きく違う……はず」
「場所や設定は同じだけど、全然違う時間の中から来たってのか?」
「同じ日本にしても歴史が全然違うし、プレイヤーたちのいた日本は時間だけで言えば、俺の暮らしていた時よりも遥か未来から来ている」
「ややこしい話だな……」
同じ日本でも交じり合うことの無かった存在たちが、この世界に来て出会ってしまったってことか。
勇者はプレイヤーがこの世界に来るキッカケとなった鍵、『Free Desire Online』とやらの存在はまったく知らないようで、突然足下に魔法陣が出てきて転移させられたのが勇者みたいだ。
目の前の元勇者を除いてのようだが……。
「俺は日本で事故死したんだ……そしたらこっちの世界に飛ばされていた」
「…日本に戻っても死んだままってやつか」
「だから魔王討伐なんていう、また命を失うような行為は拒否したんだ。それに対して能力も魔王討伐に向いてなかったようで聖都から追い出されたって感じだ」
「…よく殺されなかったな?」
「なんとか撒いたってとこかな」
本橋恭弥は暁蓮たちと違って、日本で死んでしまった結果、輪廻転生のなんたらを抜けてこっちの世界に呼び出されてしまったような流れみたいだな。
それで2回も死にたくないから、この世界では平和に暮らしたいと言ったら用済みとされて命を狙われた……なんとも理解しがたい話だ。
「これは俺がこっちの世界に来てから知った話なんだけど、俺たちのいた日本には、魔物みたいなのが実は存在していて、それを討伐していた実績があったから呼ばれたらしいんだ」
「……日本でも魔物討伐経験があるから、その経験で魔王を倒してくれって意味合いで呼ばれたってこと……か」
ちなみに本橋恭弥は日本に魔物みたいなものが存在しているとは知らずに暮らしていたようだが、『救世の賢者・坂神雫』は日本で『退魔師』とやらをしていた人間だったらしい。
……わざわざこの話を俺になんでしようと思ったんだ?
「その元勇者の力は『破滅の予言』ってものだって」
「っ!? 視るだけで能力が解るのか……」
イデアがブレイブスキルを解析してくれたようだ。
さすがに自分の力を言い当てられて、驚いているようだが、その『破滅の予言』とやらの影響で、わざわざ魔王と情報交換をしようと思ったってわけか?
「『破滅の予言』は簡単に言えば未来予知みたいなことが出来る力なんだ。そして俺がこの世界から来たときに予言したのは……15年以内に全生命がこの世界から消えてしまうというものだ」
「……ほう」
全生命と言うのは、おそらく人間だろうが魔物だろうが関係なく全てって意味だろう。
女神からもらったブレイブスキルってんだから信憑性はある。だけど分からないのは人間だけ、魔王だけってのじゃなくてどちらも滅んでしまうっていうことだ。どちからかの勢力が相手を滅ぼしたんじゃなくて、まとめて滅んでしまっているところが気になるところだ。
「俺も奇跡的に第2の人生を歩めてるんだから、15年以内に死にたくないんだ。でも人間側だけがどうこうして解決出来る問題でもないと思った。勇者として迷宮都市っての魔王が管理してるってのを、なんとなく知っていたんだ」
「まぁ……そういうもんだからな」
「この街を見たり聞いたりして、まず感じたのは……この街を創った魔王の感覚がどちらかと言えば俺たち日本人に近いってことだった」
「…一応誉め言葉として受け取っておくよ」
アークの理念や発展の流れ、日本人らしさってのがイマイチ説明されても分からなかったけれど、近いものがあると感じてもらったようだ。
プレイヤーの商会を気にもせず信用しているところだったり、若い人を大事にする考えや、教育と道徳を重要視しているところを他の魔王とは違うと感じたようだ。
それでわざわざ呼び出したのも、少し軽い気もしたけれど、面白い情報が聞けた俺としては有意義な時間だ。
俺も魔王についての話を知られても困らない程度に話をしていく。人間からすれば魔王戦争なんて意味不明なことだと思うけどな。
「……魔王戦争でわざわざ魔王の数を減らさなきゃいけないシステムもよく分からないし、まず1番感じるのが魔王の数が多すぎるってとこなんだ。日本人の感覚で言わせて貰えば王ってのは基本1人なんだよ」
「まぁ…王国だって王は1人だからな」
「魔王戦争って言うのも、わざとたくさん用意した魔王から何かの目的で絞っているようにしか感じない。魔名を獲得してランクが上がったりするのも、それのためとしか俺は思えない」
「一理ある意見だな……」
アイシャが言っていた「弱い魔王なんて必要ない」に通ずる考え方だ。
もし『原初の魔王』の狙いが、強い魔王だけ残していくことだとしたら、アイシャはその流れの通りに生きているってことになるけど、きっかけがラムザさんの死だから狙ったとは言いづらいものだ。
勇者は女神とやらの加護はあるけど、実際に会ったことは無いらしく神託という形で聖都で声を聞けるだけのようだ。とりあえず魔王討伐とのこと。
聖国から命を狙われて大変そうだが、四大学園の土地でひっそりと何でも屋のような形で生活しているらしく、稼ぎながら世界が滅亡しないように活動しているらしく、今回は魔王と繋がれる大きなチャンスだと思っていたようだ。
「分からんな。『原初の魔王』と女神ってのに会ってみない限りはなんとも言えん」
「15年……長いようで一瞬の話だ」
この話を最古の魔王様たちに話をしたらどんな反応をするだろうか?
逆に自分が何に滅ぼされるのか楽しみにしてしまうんだろうか? アクィナスさんは徹底的に調査してくれそうだから話をしてみてもいいのかもしれない。
そんな感じで勇者についてと魔王についての話し合いは2時間程続き、さらにこの世界について混乱させられて終わっていった。
なかなか面白い時間ではあったけど、この話し合いをしようと思った元勇者も、わざわざ来た俺も、頭のレベルがそこまで良くない同士だってのは1つの収穫だったかもしれない、街を少し見たくらいで信用なんてしちゃいけないからな。
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