第13話 強大で『凶悪』
「触れた何かを……奪うだと? そんな強大な力を蛙如きが?」
「何が奪われたか頑張って考えるんじゃな」
――ドンッ!
なんとなか五右衛門の分身を含めた5体同時攻撃である『朧陽炎之陣』を、極風魔導である『
普段相手の動きを把握するために使用している『風の声』と『神通力』のスキルが使用できなくなっている分、五右衛門の動きに後手後手になってしまっている。
『
「「「「『簒奪影手裏剣之陣』」」」」
「舐めるでないッ! 『風顎火伏烈波』」
――ゴウッ!
五右衛門の分身たちが放った手裏剣の嵐を火の力を秘めた猛風で迎え撃つハクホウ。
団扇で迫りくる手裏剣たちを薙ぎ払いながらも、周囲を警戒することを怠らないハクホウ。五右衛門が使用しているスキルが『忍者』の力だということは『分身』を使用しているのを見て理解しており、天狗たちの中でも忍びのスキルを使用出来るものがおり、普段なら神通力でどうにかなるが、使用できない今、ハクホウは警戒を怠ることができないのだ。
五右衛門は分身たちにハクホウの相手をさせながら、次の一手を打つべく『
さすがにハクホウも五右衛門が何かを仕掛けると察知し、邪魔をすべく行動を起こす。
「させぬッ! 断風舞ッ!」
――ブオォンッ!
ハクホウが振るった団扇から放たれる巨大な斬撃かのような真空波。
地面を抉りながら力を練る五右衛門に勢いよく向かっていくが、さすがにそんな大ぶりが届くわけもなく。
「「カァァァァァァッ!!」」
――ズゴォォォンッ!
五右衛門の両肩に乗る八咫烏の鳴き声からでる衝撃波でいとも簡単にハクホウの断風舞は掻き消される。
そして準備万端とばかりに本体の五右衛門がハクホウにむけて技を放つ。
「『地獄の大釜』……そして、仙法『
――ゴボゴボゴボゴボゴボゴボッ!
突如沼地へと姿を変えていく広間の地面。
沼地からハクホウに向けて勢いよく伸びていく泥で形成された大量の腕、4体の分身を捌くことに精一杯なハクホウはなんとか回避を試みるも、連携のとれた五右衛門の分身たちに追い詰められ、泥の腕に捕まれてしまう。
「たかが蛙如きが仙力など使いようてッ!?」
「ほれほれ……抵抗せんと茹で天狗の出来上がりじゃぞ」
泥の腕に捕まれたハクホウが引きずり込まれる先には、ハクホウが余裕で入れるほどの超巨大な大釜。
かなり勢いよく燃え上がる炎の中に置かれ、ぐつぐつと煮え滾る熱湯の中にハクホウが叩き込まれる。
泥の腕に押さえつけられながらも、灼熱の湯の中で大暴れするハクホウ。
なんとか首から上を出し、状況を確認しようとするが…。
「こんなところに斬りやすい首があるではないか」
白々しい声が聞こえたと思った時には……ハクホウの視界は宙を舞っていた。
ゴトリという音が響く中、状況が読み込めないハクホウの首に五右衛門が言い放つ。
「死んだら終いじゃ……儂らの戦い方をもう少し勉強するんじゃったのぉ」
「……申し訳……ありませぬ………ハテン様」
大釜から出てきた首を一瞬のうちにして斬りとった五右衛門。
薄れゆく意識の中、ハクホウは自身の主に謝罪の言葉を述べる。完全に力を侮った結果の敗北であり、大天狗としての力をまったく発揮させることのできない見るに堪えないような結果に対しての謝罪である。
ソウイチが一貫してやらせてきた戦い方。
それは相手の力を発揮させる前に、相手がこっちの力に察しがつく前に、素早く、そして押し付けるように理不尽な能力たちを前面にだして『初見殺し』を遂行することである。
「さぁて……反対側も盛大にやっとるようじゃな。やはりEXランクなんぞ、大して珍しくもなかったようじゃな……『原初』が面白がって隠していたという主の読みは正しかったようじゃな」
五右衛門は遠くで感じる阿修羅の闘気の揺らぎで戦闘中だと判断し、我先にと山頂への道を再び歩み始めることにした。
同じEXランクの真名持ち同士の戦い第1戦は、蓋を開ければ五右衛門の圧勝に終わったのだった。
◇
五右衛門が大天狗ハクホウの首を斬った直後。
山の反対側を登っていた阿修羅は自分より少しだけ大きな天狗と正対していた。
一本の見事な太刀を持ち、他の天狗たちと違い黄金色の翼をした凄まじい闘気を放っている一体の天狗に、阿修羅は怯むことなく問いかける。
「大天狗……なるほど、聞いていた以上の存在感だな」
「我らの住処を荒らす鬼よ。戦に狂い理性を手放した愚かな鬼」
「ウチの若は、なかなか理性を手放させてくれんものでな……厄介な性格をしておるので常に考えさせるものだ」
「生まれたばかりの雛が……力を持ったばかりに野蛮なことばかり繰り返す」
「あながち間違ってないのかもしれんな」
「この大天狗クラマ……鬼一体に遅れはとらぬ」
「鬼神阿修羅……暴れさせてもらおう」
2体の魔物から溢れ出る闘気が空気を大きく震わせる。
クラマは宝刀『天嵐鎌鼬』を、阿修羅は周囲に『三明の神剣』を構え、相手の出方を伺う。
バチッ…バチッ…と音が鳴るほど互いの闘気がぶつかり合っており、配下の天狗たちでは近付くことすらできないほどの空間を作り出している2体の魔物。
互いに武技を極めしタイプであると察知し、後の先で確実に仕留めてやろうと神経を尖らせる時間を先に破ったのは阿修羅であった。
「久々に震える展開だ……もしかしたら五右衛門にも影響を出してしまうが……許せ」
「ッ!?」
――ゴウッ!!
阿修羅から放たれるのは闘気とは違う異質なオーラ。
思わず大天狗クラマも呆気にとられるほどに暗く、深い闇のような底が見えないオーラが豪雨とともに周囲を覆う。
阿修羅の瞳が紅く輝いた後、大地は軋み、空気は歪み始める。
響くのは豪雨の中為り続ける雷の音のみ、爽やかとも思えるような光景が広がっていた広間は薄暗く、黒雲に覆われた漆黒の世界へと染まってしまう。
「『天下風雷ノ陣』が奥義……『大狂界天狗道』。さぁ……俺を戦に狂う鬼と表するならば……ともに狂おうでは無いか、大天狗!」
狂ったような笑みを浮かべ、阿修羅は冷や汗をかくクラマを見つめる。
阿修羅が発動したのは『天下風雷ノ陣・大狂界天狗道』という『天下風雷ノ陣』の奥義。
阿修羅が指定した対象と強制的にどちらかが死ぬまで脱出不可能な結界のようなものを作り出し、結界内も外も雨が降る範囲は全て『大武天鬼嶽道』の効果範囲内になり、『大武天鬼嶽道』の影響を受けた者が多ければ多いほど『
もちろん味方が近くにいる内は使用すれば大迷惑な技だが、五右衛門は近くにおらず、単騎でEX真名持ちとその他と戦うには有効だと判断した結果の使用である。
結界内で阿修羅と対する者は強制的に『大武天鬼嶽道』の影響を受けることとなり、全ての防御能力を貫通して影響を及ぼすため、どんな存在であっても近接能力以外封じられてしまうと言う恐ろしい状況化での戦いを強いられてしまうのだ。
「我の神通力を遮っておった正体はこれか……」
「大天狗の剣技……参ろうか」
互いに剣を構えなおし、大天狗と鬼神はぶつかり合う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます