第11話 荒れ狂う『寝床』


 帝国に存在する8つのSSランクダンジョンの内の1つに『天狗の寝床』という帝国内でも上位3指に入るほど有名なダンジョンがある。


 有名なわけと言えば、まず『天狗』という珍しい魔物が多数存在している点であろう。

 山伏の格好をしており、鼻が高く、翼を持って空を飛翔することができ、個体によって様々な武器と武技を使いこなす高ランクの魔物だ。


 山や空の神としても崇められるような魔物で、自然の環境恩恵を多く受けられる魔物としても有名で、風系統のスキルや武技を使って空中から仕掛けてくることから、冒険者の中でも遭遇したくない魔物として名が通っているような魔物だ。


 そして『天狗の寝床』が有名な理由のもう1つは単純に長い間存在しているダンジョンということだ。


 冒険者が滅多に寄り付かなくなり、今ではこのダンジョンの魔王を崇める人間たちが多くいるような『天狗の寝床』に堂々と侵入する魔物が2体。



「ふむ……今まで叩いてきたダンジョンとはやはり違うのぉ」


「感じる気配の強さ、それに血の香りが濃い」


「存分に暴れられそうじゃな」


「若に心配をかけるような真似をするなよ……」



 周囲をキョロキョロと見物し、堂々と煙管を吹かせながら歩いている2体の魔物。

 『大罪の魔王ソウイチ』の配下、『枢要悪の祭典クライム・アルマ』である巨大な仙人蛙五右衛門と鬼神である阿修羅のペアだ。


 互いに戦闘面では相性が良くはないが、付き合いはそれなりにあり、戦闘以外では相性が良いペアということで抜擢されたのだ。

 主に阿修羅がメインと戦い、五右衛門が阿修羅の能力範囲外を心掛けながら邪魔者を落としていくのがメインの攻略法になるのだろう。


 そんな五右衛門と阿修羅にむかって飛んでくる存在が多数。



「貴様らッ! 『大罪』の魔物だな!? 何の用だ!」



 烏の頭を持った天狗、『烏天狗』の集団が五右衛門と阿修羅を取り囲むように陣をつくり警戒をする。

 『天狗』の中では低位の魔物だが、それでもAランクという高ランクの魔物であり、気配察知や剣技を得意とした魔物であり、通常の天狗を率いることもできる統率力のある魔物である。


 常にダンジョン内を警備する役割で配置されている『烏天狗』たちは、隠そうともしない闘気を放っている五右衛門と阿修羅の周囲に次々と集まってくる。



「こんな夜中にダンジョンに来たんじゃ……わざわざ言わんでも分かるじゃろうに」


「若のことはさすがに知っているだろう? ならば問う必要など無いはずだ」



 大量の烏天狗に囲まれながらも、特に変わりなく脱力姿勢を貫く五右衛門と阿修羅。

 烏天狗は通常種でBランクの『天狗』では近付くだけで気圧されると判断し、自分たちで囲み切ってから仕掛けることが最適と考え、少しでも味方の数を増やすために時間稼ぎを仕掛ける。



「ここは『天狗の魔王ハテン』様の治める地! このような無粋な真似をして、今後帝国で生きて行けると思っておるのか!?」


「儂らとダンジョンランクとやらは変わらんぞ。それにお主らの許可なんぞ貰う必要はどこにもないじゃろ」


「噂で聞いていた通り……天狗というのは傲慢な魔物だな。まず自分たちだけで数さえ居れば俺たちを討ち倒せると思っているのが傲慢そのものだ」


「貴様らの強さは聞いている! だが我らは誇り高き烏天狗ッ! たかが蛙と鬼に後れをとるような存在ではないッ! 行くぞッ!」



 増援を待つという策が見破られていると判断した烏天狗の一体が突撃の合図をあげる。

 烏天狗の得意分野である剣技を活かすため、それぞれが得意とする剣を抜き放つ。

 そんな中でも五右衛門と阿修羅は特に気張ることも無く、冷静に烏天狗たちの動きを観察する。


 ここに入ってからの烏天狗たちの動きは、入り口に到達してすぐ、阿修羅が神通力である『天耳通』と『他心通』によって筒抜けだったので焦る要素はどこにもなかったのだ。



「天下風雷ノ陣……『暴風濫拳』」



――ブオォォォォォンッ!



 阿修羅が勢いよく拳を天に突き上げる。

 拳圧と阿修羅の闘気が暴風となって巻き起こり烏天狗たちを吹き飛ばす。

 そんな中巻き込まれないと離脱しながらも烏天狗からバフを奪って回る五右衛門、阿修羅の『天下風雷ノ陣』も発動したことで、ダンジョンは暴風雨へと天候を変える。


 たった一撃で大半の烏天狗は勢いよく吹き飛ばされ、阿修羅の近くにいた烏天狗たちは拳圧で木っ端微塵になってしまった。


 

「儂の『智慧の本源を断つ刃アマノムラクモ』が火を吹くもんじゃ~」



 天下風雷ノ陣によって普通の魔物では空中飛行することが困難な状況下の中、宙を跳びまわりながら烏天狗からバフを奪いつつも『智慧の本源を断つ刃アマノムラクモ』で次々と斬り倒していく。


 阿修羅は天下風雷ノ陣でバランスを崩している烏天狗たちを『三明の神剣』とともに次々と打倒していく。


 

「後衛型も来とるのぉ!」


「変わらん! 俺の『大武天鬼嶽道』の影響範囲内にわざわざ来るなら狙い撃つのみッ!」



 跳びまわりながら烏天狗を次々と葬っていく2体にむけて狙いを定める烏天狗とは違った種類の天狗がいる。

 その名は『飛天狗』といい遠距離武技や気配殺しを活かしたスタイルであり、赤い顔が目立つ存在ではあるが、大軍での矢の嵐は1つの戦術として確立できるほど強力だが、阿修羅の天下風雷ノ陣で吹き荒れる暴風雨の中では空中で飛んでいることすら困難なようで、バランスを取ることに全力を尽くさざる終えない状況だ。


 そんな宙に浮くだけで精一杯になっている飛天狗なぞ、阿修羅と五右衛門からしたら格好の的でしかない。



「お主の鬼獄道があるとやりづらいから、儂は違うルートを進むぞ!」


「若の予想ではEXランクの真名持ちがいるとのことだ! 油断はするなよ!」


「承知じゃ」



 阿修羅と一緒に戦うと、いくら五右衛門でも『大武天鬼嶽道』の影響を受けてしまい、本来の力をまったく発揮できないまま終わってしまうので、『天狗の寝床』がかなり広いことを見越して分担でルートを潰していく作戦を2人は実行することにした。


 『天狗の寝床』は山を登っていく式のダンジョン。


 上空から次々と迫りくる様々な天狗たちを退けながら、ハテンが待ち構える山頂へと向かう形式となっており、山頂までは様々なルートがあるが、とりあえず2人は目についたルートを天狗たちを薙ぎ払いながら進むことにする。


 

 今や互いに帝国屈指の魔王である『大罪の魔王ソウイチ』と『天狗の魔王ハテン』。

 ダンジョンが割と近い位置に存在しているのに、今までまったくと言っていいほど干渉を互いにしてこなかったが、ここにきて突然のソウイチ側からの奇襲。


 これはソウイチが帝都を落とす事前準備。

 帝都を落とし、ソウイチの記憶の欠片である条件を全て満たすための自己都合的な侵略。


 そのために邪魔になりそうだったり、隙をついてアークを攻めてきそうな魔王を落とすなり話を付けるなりしておこうという行動だ。

 いつも通り、日を跨いで連携されるのを嫌うソウイチなので、一夜にして『枢要悪の祭典クライム・アルマ』のゴリ押しでどこまでやれるか試している作戦。各ダンジョンにソウイチが考えた適正と思われる戦力を送り込んでの奇襲。


 この世界のダンジョンが夜中に侵入することが基本的に禁止になっていることが多いという謎の規定、魔王が人間と似たような生活習慣を送っている場合があるという謎の決まりを的確に突いたソウイチの作戦。


 もちろん『天狗の魔王ハテン』もソウイチのやり方を知っており、山を登ってきている五右衛門と阿修羅を来たかと言わんばかりに、罠と魔物を嗾けていく。


 蛙&鬼vs天狗の大戦争が始まったのであった。


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