第9話 『都合』vs『都合』


 魔のモノが暴れ回り、暮らす人々を脅かす世界に生まれた坂神雫。

 雫の見立てではそのまま行っても自分たちの世界を救えないと考えていた矢先に現れたのが女神だった。

 

 もちろん坂神雫も辛気臭いとは思っていたんだろうが、それに頼らざる終えないとい状況まで追い込まれていたようで受けてしまった。


 その結果待ち受けていたのは、命を何とも思わないような殺し合いの日々。

 自分たちとは別の世界線から来たプレイヤーも、自分と同じ世界からきていた勇者も次々と死んでいった。


 多くの魔王を討伐して『原初』の魔王への鍵を手に入れて、『原初』の魔王を討伐すること。

 

 そして立ちはだかったのは絶望的なまでの力の差。

 何年かかっても届かないと確信してしまうようなほどの力の差。

 すぐにでも力をつけて戻らなければと思っていた坂神雫にとっては絶望することは許されなかったんだろうが、あまりの状況に深く絶望してしまったそうだ。


 そんな中出会った、とてつもなく人間臭く……そして勇者しか知らないような事情を色んな形で伝えてくる変な魔王。


 坂神雫やプレイヤーしか知らないような『紙飛行機』を作る方法や、言葉の所々から自分たちと同じような匂いがした。


 

「俺が元人間だなって……完全に思ったのは坂神雫が心の中でそう思ってくれたのをメルが感じ取ってくれたときかもな」



 女神と原初に対して並々ならぬ敵意をぶつけている状況を眺めながら、倒れている坂神雫を見て感傷に浸ってしまった。

 しっかりとこの少女の想いを背負って行かなきゃな……この勇者は俺に数多くのヒントを与えてくれたんだから。



「自分と『大罪』に……儂らの干渉を封じる能力、随分都合の良い能力を発現したもんじゃな」


「坂神雫を殺したことで……私の戦士は彼になりましたね。これは私にも勝ちの目が出てきましたね」


「直接干渉できんくなった以上……面倒じゃから儂は帰るぞ」



 爺さんが消えるのとほぼ同時に女神も消え去った。

 どうやら2人は東雲拓真が発現したらしい新能力で俺と東雲拓真への直接的な干渉ができなくなったようだ。

 干渉できなくなったことで世界ごとリセットすることが出来なくなったようだ。さすが『主人公』を謳うだけはあるなぁ……賭けは大成功だ。


 残ったのは俺たちと『七元徳』、そして東雲拓真だ。


 しかし、状況はまったくもって変わってしまった。『七元徳』からすれば理解の範疇を超えたところまで来てしまっているだろう。



「『七元徳の魔王』……30日後の魔王戦争、全力で向かわせてもらうよ」


「あのようなことがあっても変わらないのですね。私も受けるしか道は無いようですね。私も楽しみにしておきましょう」



 そういって『七元徳』たちは消えていった。

 

 俺たちも話をしたいところだが、坂神雫の死体をそのままにしておくには惜しいので、とりあえず移動をすることを提案しようと思ったが、かなり真剣な表情で考え込んでいる東雲拓真を見て、声をかけることができなかった。


 

「狙いは手紙に書いてあった通りだろ……俺は少し修行して『星魔元素』ってやつを倒せばいいんだな?」


「……魔王側の勇者が俺の予想では『星魔元素』でな。たぶん『原初』への挑戦権の鍵だと思っている。もし違ったら『皇龍』なんだろうけど、どうなんだろうな」


「俺とアンタはあいつらから干渉されなくはなった……さっきも思ったけど、挑戦権ってのは必要なようで、殴りかかってもダメージを通せるビジョンがまだ浮かんでこなかった」


「これで内側を読まれず心置きなく悪巧みできる! やっと解放されたぞォ!」


「おめでとうございます……これでコアのメモ欄での会話も終わりますね」


「『魔王戦争』のとこに指パッチンしたら殴るって書いといたのにな……あれのおかでげコアの中までは覗いていないってのが分かったけど」



 本当にやりたいことはコアのメモ欄を使って指示を出していた。

 口に出していた指示は全て聞かれても良いことだけ、ルジストルにもリーナが怪しいということを伝えるのに、度々コアルームまで来てもらっていたので、これでルジストルに引きこもって仕事をしてもらえるな。


 リーナは『原初』から元々監視カメラみたいな役割しか与えられていないだろうから、何か起こるまでは今まで通りで良いだろう。


 矛盾だらけ、曖昧でツッコミどころ満載な世界に、これで心置きなくツッコミを入れることができるな。


 とりあえず記憶の欠片とやらを取り戻すとしよう。勇者討伐は……坂神は賭けてくれたおかげで達成できたからな。

「本当に先輩はこうならなくちゃいけなかったのか?」


「いや……これは俺が自分の都合を最優先させた結果だ。別に坂神雫が死ななくても良かったルートもあったかもしれないが、あの2人をどうにかするのにはアンタとやったほうが可能性があると思っただけだ」


「……けっこう冷静なんだな」


「プレイヤーの情報から、俺と同期の魔王も、俺と同じように記憶が消された元人間じゃないかって予測もできてる。そんな元人間かもしれない魔王を何体か殺してる。それにプレイヤーだって自分の都合で殺してるからな……もう引き下がれないだろ?」


「……そうなのか。だったらこれ以上犠牲が増える前にやらねぇーとな。俺は先輩の死体を埋葬したら、アンタがやる30日を目安に公国に殴り込みに行ってくるよ」


「そうだな……手紙に書いた通り、1年以内に決着を目指すさ。あの2人の掌の上かもしれんが、やるしかない」


「あぁ……また会おうな、大悪党さん」


「互いに責務ってやつを果たすとしよう。正義のヒーロー」



 東雲拓真は丁寧に坂神雫を抱え上げて立ち去っていく。

 こっから聖都は都合よく誰かしら先頭に立って修復を図り、何事も無かったかのように聖国騎士団が再び治安維持に努めるんだろう。


 俺の問題は『原初』の爺さんから間接的にどんな嫌がらせを受けるかどうかだな。なんとなくだけど、すんなり行かせるのが嫌そうなねちっこい性格しているのは分かったので、『魔王八獄傑パンデモニウム』のときみたいに嫌がらせをしてきそうだな。


 

「俺の力……俺の『大罪』の魔名が少しでも混じっていれば、みんなでも叩けることが十分わかった。『大罪』とヒーロースキルとやらがあいつらを傷つける唯一の力って考えるとチート野郎どもだな」


「本当……解放されたからって話しすぎじゃない? もしかしたら聞かれてるかもよ?」


「そろそろ帰らなきゃな」



 シャンカラも魔王連合軍をほぼ壊滅させていてくれてるだろうし、デザイアがこっちにいるということはアークでも問題は無かったようなので、とりあえず大博打は成功としていいだろう。


 イデアの言う通り、もしかしたら聞かれてるかもしれない。

 こっから本当に手探りをしながら目標を達成するために全力で突き抜ける戦い。



「半分以上は正解みたいなこと言ってたからな……本当にどれが正解だか答え合わせしてほしかったよ」


「欠片集めはそこも含まれているのでは?」


「はぁ……切り替えていくか」



 魔王生活で1番緊張した瞬間を無事に終え、ウロボロスに『罪の牢獄』まで転移するように頼む。

 こんだけ俺に都合の良い力がたくさん集まってくれてるんだから、負けるわけにはいかないな。


 

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