第8話 『真実』と『覚悟』
原初の爺さんと女神の遊び場。
何故2人が争い合っているのかは知らないし、なんでそんなことに俺たちが巻き込まれているのかも知らない。
最早自分が人間だったという事実が認められたことに対する驚きもない。
俺の考察を聞いた女神たちの反応を見て、東雲拓真が我慢できなくなってしまったのか、怒気を含んだ闘気を解放した。
「テメェらの遊びのためだけに……どれだけの命が失われたと思ってやがるッ!」
「そうじゃなぁ……数えきれんもんじゃなぁ……お主らが強ければ立場は違ったかもしれんのぉ」
「私たちに貴方の怒りをぶつけられても……共感はできませんよ?」
その通りだ。
いくら東雲拓真が怒りを露わにしようと、この2人は最初っから互いのことしか見ていない。
どっちがこのゲームに勝利をすることができるのか……そして俺の勘が正しければ、この世界の2人を倒したとしても、また世界は再構築でもされて同じような流れが再び始まってしまうだろう。
俺の考えは半分以上正解しているという爺さんの言葉を信じておくとしよう。
この世界の2人は挑戦権をゲットした後であれば勝てる要素がしっかり有ると言うこと、ある程度の決まりは2人にもどうしようもない風になっていることは正解と見ても良いだろうな。
「俺の力に関しては干渉できないのか……『大罪』は爺さんからしても予想外だったんじゃないか?」
「そうじゃなァ……儂の選択魔王は歴代もそうじゃが、能力は完全にランダムじゃからなぁ、儂らは基本干渉はできんよ。そのためのリーナだったんじゃがなァ」
「『大罪』は冷静ですね。記憶の欠片集めも、ここまで解っていては必要無さそうですし、『七元徳』に勝利してしまったら、今回は私の負けになってしまいそうですね。私たちのどちらかが死ぬまで終わらないと言うルールにしてから最速で終わってしまいそうです」
「そうはならねぇ……こんな茶番は繰り返させねぇ!」
「お主の存在だけは本当に儂らも分からんのじゃ……元の世界に返してやろうかいのぉ? 女神に頼んでやるぞい?」
誰も予測できなかった東雲拓真というイレギュラー。
だけど、この世界に囚われてしまっている俺たちからすれば最高の切り札に成り得る存在。
女神と爺さんから聞き出したいことは、聞けたので全員準備はできているだろう。
勘と口先だけで色々語ってみたけど、おかげさまでこのゲームとやらに飽き飽きしていた2人が多くのことをベラベラと話をしてくれた。
世界を構築したり、勇者・魔王・プレイヤーに関して、多くのことが面倒だったのかランダム要素で創造されていることが分かったのなら……色々できそうだ。
「……じゃぁ……とりあえず第一歩、『七元徳の魔王アクィナス』……俺と魔王戦争をしてください」
「……この受けなければならないという感情も創られたものなのですね女神様」
「えぇ……今回は貴方が私を守るための守護神なのです。任せましたよ」
「……受けましょう『大罪』。30日後に貴方と魔王戦争を行いましょう」
「私の戦士……坂神雫、まだ終わった訳ではありませんよ。原初の守護神を見つけて打ち滅ぼすのです。世界の勇者として、貴方の世界を守る者として。もし諦めたのならば殺されて他勇者に権利を渡しても良いのですよ?」
『七元徳』は状況を飲み込めないという感じだったが、逆らえないように造られているんだろう。俺との魔王戦争を許可してくれた。
女神は感情がまるで籠っていないような声で坂神雫に奮起を促す。
とんでもなく残酷な絵面だ……まるで自分たちが元居た世界を人質にとっているかのように……まるで女神が坂神雫の世界にも存在していて、そこでも好き勝手やれているとのように……。
このゲームの主催者の口が軽くて本当に助かったもんだ。これが女神と爺さんの罠だったら終わりだが、『覚悟』を決めるしか無いようだな。
「狂った賭け事は好きかい? ……俺はオールインしてるぞ」
俺の突然の発言に女神と爺さん、『七元徳』は訳が分からないと言ったような顔をしている。
やっぱ爺さん直接会っているときは心の内を読む能力を使っていない時もあるみたいだな……自分のおしゃべりに集中しすぎだ。
「私も『覚悟』はできたわ……よろしくお願いするわね、全部」
「………これしかねぇーんだな」
「よし……ルーセットを回そうか」
――パチっ!
2人の『覚悟』を聞けたので少しカッコつけて指を鳴らしてみた。恥ずかしいが、必要なことなので許してほしい。
その瞬間に動き出したのはウチの仲間たちと最強勇者の東雲拓真だった。爺さんと女神の顔が少し強張るのも感じたけれど…。
東雲拓真の拳が黄金に輝くのと同時にウチの魔物たちは俺の背後にいる爺さんに敵意をむける。
そして俺の視界が一瞬にしてポラール達の背後から視点へと変わる。ありがとうウロボロス。
「『
「『無限無窮の牢獄』」
「根源魔導『
――ドシャァァァァァァンッ!!
ポラール達の攻撃によって視界が一瞬にして巨大な閃光に包まれる。さすがに互いの力で最大限のものは放てなかったと思うが、それなりの威力のはず。
聖堂すらも破壊したんじゃないかと思った連携の取れた一撃だっと思ったが、煙が晴れて見えてきたのは、肩が少しだけ焼けただれている爺さんと、『七元徳』の天使たちに守られて無傷な女神。
そして東雲拓真の拳に貫かれ、ポラールたちの攻撃を受けていても、とても穏やかな顔をしている坂神雫の姿が見えた。
――ドサッ!
「……どういうことじゃ『大罪』」
「散々人の内側読んでたんだから……今更聞くまでも無いんじゃないか?」
「お主は儂に悟られんよう……同じことの繰り返しだったり、突発的なことを繰り返しておっただけじゃろ? 儂らを攻撃することを明確に指示しておったことは一度もなかったはずじゃ」
「何故……坂神雫が?」
「……先輩に変わって、俺が今生きている日本の皆と……違う世界線の日本を救う」
「……もちろん俺も背負うさ、きっとこの世界に来たときから『覚悟』は決めてただろうからね」
「………申し訳ありません。投げやりみたいな形になって…しまい」
「正義のヒーローを信じておけ……そいつなら大丈夫さ、アンタの妹も安心してくれ」
「……お願いします」
坂神雫は安らかな顔をしたまま息を引き取った。
今は余計なことを考えたり、振り返ったりするのはやめておこう。とりあえず爺さんと女神の動きを見て判断しないといけない。
爺さんと女神は俺から見た感じだが、自分たちのゲームが面白くない方向性にぶち壊されて不快感を出しているように見える。
「……そのようなことをして、この世界をリセットされて、全員虚空の海に沈むことを考えなかったのですか?」
「ずっとそこが怖すぎて震えてたけど……そこの正義のヒーローを一目見て最後の決心がついたよ」
空気が震えるほどの黄金の闘気を身体から迸らせ、鋭く真っ直ぐな敵意を爺さんと女神にむけている東雲拓真。
シャンカラやハク、ポラールを見てきた俺からしても考えられないようなほどに凄まじい圧。
坂神雫の身体を丁寧に横たわらせてから、立ち上がり爺さんと女神を睨みつける姿は、まさしく『主人公』ってやつだった。
「……今にも世界をリセットしてしまおうかと思いましたが……やはりそこの少年を早く消しておくべしたね」
「儂らの干渉を無効化する? お主は何なのじゃ?」
「東雲拓真……それ以上でもそれ以下でもない。アンタらは絶対に許さねぇ」
さすが『主人公』と自身の能力で謳うだけはあるなと感心しながら、俺も油断せず、悪巧みをまだまだ実行するために頭を回すことにした。
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