第7話 『最強勇者』と『最凶魔王』
恐ろしく濃い魔の圧力を察知して、物凄い速さで跳んできたであろう歴代最強勇者と呼ばれており、ヒーロースキルとかい訳の分からない能力をもった化け物が、タイミングよく間に入ってくれたおかげで、『七元徳』側が放っていた魔力や闘気は一瞬にして霧散した。
さすがに勇者の前で、魔王と魔物なんて言っていたら問題だと判断したと思うが、さすがに遅すぎる。
「いきなり担いで跳ぶなんて……何を考えてるの?」
「そのおかげで……最高のタイミングで到着できましたよ」
「さすが正義のヒーロー様だ」
「……その言い方、アンタが手紙の大悪党さんとやらか?」
「あぁ……優しい人間面してワイワイやっていた魔王の化けの皮を剥がしに来た……大悪党様さ」
「そのカッコつけようとしてる感じ……本当に手紙の奴みてーだ」
手紙を一通渡して読んでもらっただけの関係なのに、随分馴れ馴れしいと思ってしまうが、そんなことは置いておこう。俺も慣れ慣れしいタイプだからな。
アクィナスさんたちは最悪だという雰囲気を綺麗にだしてくれているので、作戦は成功したみたいだし、『七元徳』でも、この化け物勇者は手に負えないということがよく分かった。
衝動性が高くて、自分の中に芯がしっかりとあるタイプの人間。今までの実力が大してなくても少し褒めてやれば自由に洗脳できていたであろう勇者とは違う……本物の勇者。
「アンタから聞いてたから知ってたけど……本当に聖国の上層部が魔物だらけだったなんてな。しかも勇者を洗脳するようなヤベー奴らだったとは」
「洗脳と言っても、この世界に対する考え方を弄るだけだったけれどね」
「それも立派な洗脳的なやつっすよ……たぶん」
2人の勇者がアクィナスさんのほうへ視線をむける。
しっかりと俺のことも警戒しているようだが、勇者の敵意や疑念は『七元徳の魔王』にむけられているようで助かる。
ちなみに坂神雫に託し、東雲拓真に渡してもらった手紙の内容は簡単にまとめると…。
①聖国騎士団は『七元徳の魔王』の魔物である。
②もうすぐ聖国の魔王たちが組織を作って聖都に攻め込んで来る。
③勇者にも何かしら女神や魔王から細工されている可能性がある。
④魔王たちの襲撃と同時に遊びに行くから、一緒に女神と会わないか?
⑤魔王・勇者・プレイヤーについて話がしたい。
⑥女神と原初の魔王がやっていることについての考察。などなど。
これらを正義のヒーロー様宛で、大悪党様の名で送っただけの話だ。
「なるほど……先ほどまで挑発も、全てこのためでしたか……」
「そこの正義のヒーロー様は、最高のタイミングで現れてくれる存在でな、あんまり信じていなかったけど、やっぱすげーもんだ」
「とっととアンタの話を聞かなきゃいけないからな……どうすんだ? 『
「やはり貴様は例外だったな……拓真」
「人を変な世界に呼び出しておいて、勝手に好き勝手決めつけてるほうがおかしいんすよ……自分たちが創ったゲームかなんかと勘違いしてんだろ?」
最強勇者が闘気をその身に纏わせる。
今の東雲拓真の発言は、俺の考えている様々な考察と通ずるところがある。かなりの時間かけて辿り着いたものを一瞬にして見抜くなんて、さすが規格外。
きっと今の俺たちを見ている『原初の魔王』と『女神』はあんまり楽しい顔をしていないだろう。
――ゴゴゴゴゴゴゴッ!!
いつ戦闘が始まってもおかしくない空気を一瞬で掻き消すような空気の震え。
聖堂の奥に感じる圧倒的存在感……『原初』の爺さんと同じような有無を言わさないようなフワフワしつつも確かに感じる……つまりよく分からんということだ。
『七元徳』の連中が道を空けるようにして列を正す。
その空いたど真ん中を歩いてくるのは眩しい白銀の長髪を靡かせた、白いドレスの女性。
なるほど……『七元徳』は女神のワンコちゃんだったってことね。
「申し訳ございません。女神様のお手を煩わせえる形となってしまい」
「大丈夫ですよアクィナス……『原初』がソワソワしていましたので、こうなることは想定していました」
「何やってんだよ爺さん。せっかく爺さんも気付かないようにやってたのに」
「大悪党さん……なんか戦う空気じゃないし、色々聞かせてくれよ」
「たぶん俺の方が年上だから敬語使っとけって正義のヒーロー」
「私の貴方がここまで辿り着けた考えが気になります」
女神の微笑みと共に背後から感じる懐かしい威圧感。
気付かぬうちに俺の肩に手を置いていた存在が、女神に同調するように声をあげる。
「儂も気になるもんじゃ……お主が初めてじゃからのぉ、欠片を集める前に気付いた魔王は……」
「来るなら女神と同タイミングで来いよ……『原初』の爺さん」
「どうせ、儂らのやっとることにも気付いとるんじゃろ?」
「適当に話すから……話さないと痛い目に合いそうだから仕方なくだぞ?」
女神と原初の爺さんが来ている以上、誰も動くことはできない。
さすがのポラールたちも、この2人相手に動こうとは思わないし、俺が指示しない限り動くことは無いだろう。
何から話そうか悩んでいると、原初の爺さんが待ちきれずに質問をしてくる。
「儂が全ての魔王の内側を覗けることはいつから気付いたんじゃ?」
「『銅』との魔王戦争の時に直接言わなかったか? 読めてるんだなって」
こうやって俺が思っていることを全部、コアみたいな何かで読めているんだろ?
本当に考えないようにするのは、けっこう大変だったんだぞ?
やりたいことやら、手の内が全部誰かに知られているってのはメンタル的にも嫌だったからな。
「ほう……お主を使って何かをしようとしとることに気付いたのは何時じゃ?」
「ん~……怪しんだのはリーナを見たときで、確信したのは他魔王にリーナみたいなのがいないのを知った時だな。アンタら2人は自分たちも逆らえないルールみたいなので争っているんだろ?」
「リーナを早々に大精霊に見張らせて遠ざけたのは、そういうことじゃったか」
「遊びか何だか知らないけど、爺さんは色々適当だな……わざと見過ごしてるのか知らんけど、まるで俺にバレてほしいみたいだったよ」
この世界で目覚めてから気付くことは本当に多かった。
リーナの存在、記憶が無いと判断出来ているのに色々な知識を何故か知っていること、爺さんから頼まれたミルドレッドという存在、何百年・何千年と生きているのに、あからさまにそうとは思えない他魔王の数々……。
他にも人間臭いと何度も言われることや、『大罪』とかいうぶっ壊れ魔名、本当に誰かが筋書きを描いているかのような展開の数々に、短期間で勇者側と魔王側がぶつかるイベントの多さ……ぶっちゃけ何もかもが怪しすぎる。
「記憶の欠片とかいう大爆笑アイテム……これはきっと俺が魔王になる前、プレイヤーとして参加する前の記憶か何かだろ?」
「少し勘頼りなとこもあるが……やはりお主は凄いもんじゃ、歴代のお主と同じ立場だった魔王たちは、お主の1/5も気付けんかったぞ?」
「その言い方的に……何回目か知らないけど、爺さんと女神が互いに1人代表者を内緒で選出し、爺さんか女神が死んだら終了ってやつか」
「大悪党さんも……元は人間だったのか」
「あぁ……だけどプレイヤーと違った意図をもって、この世界に来たんじゃないかなーって思ってるんだけど……」
「ハッハッハッ! さすが儂の代表者じゃな! 思っとることの半分以上は正しいぞい」
「俺と坂神雫が代表者だろう……正義のヒーローはアンタらの理解の範疇からも逸れた存在だろ?」
俺の話を黙って聞きながら、信じられないと言うような顔をしているのが『七元徳』。
この世界が女神と『七元徳』の遊び感覚で作られたものだというのが信じられないのだろう。
俺としても信じられないようなことだが、『この世界』とかいう世界の名前すらも判らないように作られており、かなり適当と言えるような世界観をした場所なもんで……認めるしかない。
「アンタを殺す挑戦権ってのも存在するんだろ? ここまで好き放題許してるってことはさ……俺は『七元徳』に勝つことなんだろうけど」
「今回は貴方が選んだ魔王の方が数枚上手でしたね……私は失敗してしまいました」
女神が発言した瞬間、東雲拓真から見たことも無いほどの怒気を含んだ闘気が放たれる。
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