第6話 『徳』と『罪』


――聖都 聖堂前



 『大罪』の配下であるシャンカラが放った数発の灼熱が一瞬にして両軍の前線を崩壊させた。

 聖国騎士団員と魔物、ともに恐ろしいほどの数が一撃にして消し炭となってしまったことで、戦線は完全に崩壊してた。


 シャンカラの行動は数で勝る魔物軍へと優位に働く形となり、結果として聖都内に魔物の侵入を許してしまい大慌て、避難している民や聖堂を重点的に守っていた、聖国騎士団のお偉いさんたいを動かさざるえない状況になってしまったようだ。


 門以外からの侵入を防ぐ結果が張ってありはしたが、デザイアとウロボロスの前では特に意味をなしていなかったので、聖堂周辺に転移してきた。


 南西は化け物勇者である東雲拓真がほぼ一人で戦線を維持しているという怪物っぷりを発揮しているが、さすがに数が数なだけに時間はかかりそうだ。


 南東はシャンカラが完全に制圧し、何体かの魔王を仕留めに行ってくれているはずなので、南西も含めそのうち魔物はいなくなるだろう。



「これが女神様とやらの神託が受けれる聖堂ってやつか」


「ご主人様。周辺の掃除は終わりました」


「中に大きな気配がいくつか……予想通りって感じかな?」



 ポラール・イデア・デザイア・ウロボロスが一瞬にして聖堂周辺の聖国騎士団を掃除してくれた。

 天使へと姿を変えさせる間すら与えずに残滅してくれた様はさすがと言うべきだ。一応保険で『原罪之欲シン・ディザイア』によるパワーアップもかけてあるので、余程のことが無い限り大丈夫なはず。


 そんな話をしながらそびえたつ巨大な聖堂の中を拝もうと思っていたら、中から見覚えのある顔がでてくる。



「お久しぶりですね……『大罪』」


「お久しぶりです。大変そうですねアクィナスさん」


「わざわざこんな所に何の用でしょうか?」


「……勇者の本拠地を魔王らしく潰しにきただけですよ。やっぱ魔王として勇者の脅威は叩いておくに限ると思いませんか? 『七元徳の魔王』様」


「見ない間に随分と……大きなことを言うようになりましたね」


「どんな風に思われようと、俺は理想を叶えるために堂々と進むだけですよ」



 聖堂から出てきた『七元徳の魔王アクィナス』さんと『神熾天使ミカエル・フスティシア』を筆頭とした天使魔物たちも続いて出てくる。

 ダンジョンの守護にも大量の魔物を割いていると考えると驚くべき数だ。大体20体程の煌びやかな天使さんたちがいる。


 だけど、真名持ちだろうなって思えるようなオーラのある天使は2体だけだ。



「まるで敵対するような構えですけど……どういうことですか?」


「もう解っているのるのではないですか?」


「アクィナスさんがそっち側についている理由は解っていないですよ。こうして向き合っているのは、偶々俺の行く先に貴方がいたからってだけです」


「……それだけで『大魔王の頂きゴエティア』2人を敵に回すとは……本当に不思議な存在です」


「理想を現実にするには、実力と覚悟を示さないと」


「わざわざ貴方が前にでてくる危険を冒してまで、それらを示しに来たと?」


「……この展開は貴方が『罪の牢獄』に来て、色々細工をしてから考えていたイベントなんでね」


「……特別な何かに選ばれ、魔名に恵まれたルーキーだと思っていましたが……とんだ落とし穴でしたね」


「そんなルーキーをいきなり呼び出して仕掛けてきた『大魔王の頂きゴエティア』の皆さんを見て……俺は少しガッカリしましたけどね」


「主……これ以上、あの魔王の口を開けていくことは我々とて許容できませぬ」



 アクィナスさんと絶賛心温まるお話をしている最中に割り込んで来る天使が一体。

 あの黒っぽいラインの入った鎧は『座天使ガルガリン』だったかな? 天使は数が多ければ互いにバフをし合って強化する特性があったはずだから、数が多いのは厄介そうだ。


 もちろん対策は考えているし、油断なんてしてないけれども。



「王同士の心温まる会話に割って入ってくるなんて……配下のお勉強が足りないんじゃないですか?」


「たかが1年程度しか生きておらぬ魔王如きがッ!?」



――ゴウッ!!



 俺のしょうもない挑発に綺麗に激昂してくれた座天使ガルガリンが向かってこようとしていたが、『七元徳』の一歩後ろに控えるミカエルが放った闘気によって一瞬にして我に返ったのか、残念なことに控えてしまった。


 さすが最強大魔王の1人が誇るリーダー魔物って奴だ。正直びっくりした。



「さすが……普通にビックリしましたよ。……聞きたいんですけどアクィナスさんは女神のワンコなのか原初のワンコなのか、どっちなんですか?」


「貴方は一々煽るような言葉選びしかできないのですか?」


「あんまり遠回しにして聞くと話が長引きそうになることが、よくあるんでストレートに聞こうと思いまして……」


「なるほど……そんな悪巧みの回る貴方は私が素直に答えてあげるように見えたのですか?」


「今のところ会話をしてくれているアクィナスさんなら行けると思ったんですけど……」


「この立場になって、対等に話をしてこようという者が少なくなってしまい、ついつい興奮してしまいました」


「……さすが3000年でしたっけ? 長生きしていることはありますね。 俺もその立場にまで登りたいもんですね……後3年もあれば辿り着く計算なんですけど、行けると思いますか?」



――ゴウッ!



 さすがに煽りが過ぎたのか、アクィナスさんから今までのどの魔王からも感じたことが無い、圧倒的に重苦しい圧のある魔力が放たれる。

 こっちにもポラールとイデアがいるおかげで、そこまで圧を感じずにすんでいるが、聖堂が軋むような魔王の圧が辺りを覆っている。


 やっぱ化け物でしたは……さすが『大魔王の頂きゴエティア』。



「やはり『大罪』とはぶつかり合う宿命なのでしょうか? 近しい理想を持っていると思っていたのですが……」


「もしアクィナスさんの理想が、この聖都のようなモノならば、こんな『支配』と『洗脳』で完璧に見せてるだけのもんを俺の理想と同列にしないでくださいよ」


「貴方がやっていることも力で支配することでしょう? 結果的には同じでは? 力で支配する……これこそ正義の原点と私は思っています」


「理想の示し合いなんて、会話だけじゃ永遠に終わらないんでやめときましょう。勝利して示しをつける……それが魔王ってものでしょう?」


「……まさかルーキーが、私に魔王を説くとは……本当に貴方との会話は面白いですね」


「俺は会話を続けるたびに失望しますよ……3000年の月日の結晶が、この程度の魔王なのかって」


「……これ以上話し合いを続けても、私の天使たちが耐えきれそうにないので終わりにしておきましょう」



――バサッ!



 アクィナスさんの言葉が終わるのと同時に、天使たちが一斉に騎士団員に近しい状態から、完全な天使の姿へと変身していく。

 アクィナスさんが放っている魔王の魔力も、さらに圧が強くなり、聖堂が潰れてしまうのではないかというほどの魔力や闘気が天使からも放たれて、スゴイ状況になってしまった。


 なんでこうも、この世界の長生きしている魔王は煽り耐性のない者が多いのか不思議で仕方ない。

 アクィナスさんの場合は天使さんたちが堪え性が無さ過ぎる。


 こんなところでそんな『魔物』ですよなんて魔力を出したら大ごとになっちゃうのに…。

 


「だから言ったんですよ……3000年の学びがその程度かって……そんなことしたら正義の味方が来ちゃいますよ?」



――ドンッ!



 俺とアクィナスさんたちの間に勢いよく跳んできたのは、戦士とは思えないような軽装をした少年と、青年に担がれた少女。少女の方は少年の勢いに耐えられなかったのか目を回している。


 最強の勇者……東雲拓真と坂神雫のお出ましだった。



「……本当に魔王の国だったなんてな」


「最高のタイミングだ……正義のヒーロー様」

 

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