第5話 『戦火』の平原


 聖都周辺では魔王戦争が行われているんじゃないかと思われているほど魔物がウジャウジャと集っている。

 どの魔物がどの魔王の配下なのかも全然わからない程に群れており、聖国騎士団に冒険者、そして4人の勇者が聖都にある門を死守するかの如く立ちはだかっている。


 聖都よりかなり離れた上空から観戦しているが、そろそろ俺たちもコソっと乱入するタイミングがやってきたっぽいな。


 ポラール・シャンカラ・ウロボロス・デザイア・イデアという豪勢な面子で聖都周辺まで来ている。

 とりあえずウロボロスとデザイアには姿を極力潜めてもらいながら活動してもらうとして、表立っての行動は他3人に任せることとなっている。



「それにしても計11体も魔王が表に出てきてるって……さすがにDEをたんまり使ってくるだろうし、残り8体いる魔王を仕留めないと聖都はヤバそうだな」


「ダンジョンに籠って魔物を排出し続けているだけの魔王もいますからね」


「聖都が陥落しそうになった瞬間にでる魂胆じゃない?」


「さすがに『七元徳』がそんなことさせんじゃろ」


「さぁ……主の期待に応えに行こうか」


「よし…魔物も騎士団も全部敵だ……第3勢力としてかき乱しに行こうか」



 聖国として魔王連合軍としても大迷惑な話だろうが、個人的な欲望のため好き放題やらせてもらおう。

 どちらも敵に回すっていうリスクはあるが、チャンスは待ってはくれない。


 せっかく訪れた最高のチャンス……最凶の悪党として掴みとっていこうじゃないか!


 両手を広げて『大罪』の魔力を5人へと注ぎ込む。



「俺が威張って言えるもんじゃないが……『大罪』の力……『枢要悪の祭典クライム・アルマ』の力をカッコよく見せてやるとしよう。『原罪之欲シン・ディザイア』」











――ガシャンッ! カランッ!



 多種多様な魔物たちと、聖国騎士団員・聖国を拠点としている多くの冒険者たちの激戦。

 互いの正義や誇り、存亡をかけた雄叫びと悲鳴が木霊し、血で血を洗い続ける戦場。僅かな隙が命を奪い合う極限の争い。


 3体の魔王が東雲拓真に討伐され、多くの魔物が消滅したとは言え、まだ8体の魔王が生み出し続けている魔物が聖都へと押し寄せる。


 なんとか時空間魔法や何かしらの転移の類を防ぐ結界は張られているので、戦線を維持させできれば、余程のことがない限り魔物が聖都へ侵入できないような防衛線を引いているが、聖国騎士団が考えていた以上に魔物の数が多く、戦線はまさしく崩れようとしていた。


 1体のオークを斬り殺した騎士団員が、ふっと空を見上げると、戦場にむかって赤く燃える何かが物凄い速さで迫ってきているのを発見する。



「な、なんだあれ!?」



――ヒューーー……ドシャァァァァァァァンッ!



 騎士団員の叫びもむさしく地上に飛来した燃え盛る赤き流星は巨大なクレーターを作り出し、周辺の騎士団員に冒険者、魔物の全てを等しく塵と化し吹き飛ばす。

 戦場を一瞬にして業火で染め上げながら、燃え盛る炎の中より姿を現したのは逆立った金髪に3つの目、そして4本の腕を持ち、7頭の炎で出来た馬が引いている戦車に乗った人型の神。


 『神化アヴァターラ』によって『太陽ト天翔ノ神スーリヤ』へと姿を変えたシャンカラが戦場に爆誕したのだ。


 シャンカラは業火に怯んで進めなくなった魔物の大群にむけて右手をむける。



「『日輪が示すは黄金道アウシュニャ・キラナ』」

 


――ゴシャァァァァァァッ!



 シャンカラの右手から薙ぎ払うようにして放たれたのは真紅の光線。

 触れる者、近づく者を塵と化し、周囲に存在する全てを燃やし尽くしていく破壊の紅閃。

 玉座に座ったシャンカラの視界全てが真紅の業火に一瞬にして染まりあがる。


 僅か一撃にして数千の魔物を消滅させたシャンカラは、すぐさま次簿行動に移る。

 手のひらに小さな火球を作り出し、反対側にいる聖国騎士団員たちにむけて勢いよく飛ばす。



「『日天はここに在りヴェーダス・アグニ』」


「……えっ?」



――ゴオゥッ! ゴゴゴゴゴゴゴオォッ!



 魔物の大群を焼き払ってシャンカラを見て、味方だと思い込んだ先頭の聖国騎士団員に着弾した『日天はここに在りヴェーダス・アグニ』は騎士団員を灰と化し、そこから紅い波動が広がっていく。

 勢いよく広がっていく波動は次々と騎士団員たちを灰と化していき、聖都へむけて広がる波動に抵抗空しく騎士団員と冒険者たちは飲み込まれていく。


 シャンカラが聖都のほうを眺めると、何体かの天使が自分の方へと向かってきているのが見えた。



「『座天使ガルガリン』だったか? 貴様らが幾ら集ったところで意味など無い」



 一般の騎士団員に冒険者のほとんどが一撃でほぼ全滅してしまったとのことで『七元徳』から指示が出たのでシャンカラの様子を見に来たのは30体ほどの『座天使ガルガリン』。


 誰かしらの人間に目撃されるのを覚悟でシャンカラを討伐するため差し向けられたDEを使って急遽生み出されたEXランクの天使魔物である。

 

 しかし、そんな天使たちを軽く見ただけで、シャンカラは興味を無くしたように視線を切り変え、玉座に座り、リラックスしながらも魔力をさらに放出する。



「貴様ッ! 『大罪』のまッ!?」



――ゴウッ!



 『太陽ト天翔ノ神スーリヤ』へと姿を変えたシャンカラから放たれた灼熱の魔力が『座天使ガルガリン』を焼き尽くしていく。

 岩を融かし、大地を燃やす灼熱の魔力は一定の距離まできてしまった『座天使ガルガリン』たちを抵抗させる間もなく消し炭へと変えていく。


 EXの天使である『座天使ガルガリン』ですら相手にならないシャンカラの力。


 天使たちが集ってステータスを上げたり、防御能力を付与し合う力もアビリティ『我は壊す。世の全てをラーマーヤナ』で無力と化している以上、シャンカラからすれば、いくらEXランクの魔物ではあるが、敵と見なすレベルに無いということだ。


 魔物軍が来る方向へと戦車の向きを変えさせ、再び右手に魔力を集中させる。



「魔物のほうは次々と湧き出てくるな……『日輪が示すは黄金道アウシュニャ・キラナ』」

 

――ゴシャァァァァァァッ!



 魔物の大群に再び放たれる真紅の光線。

 ただただ聖都へ向かい破壊してこいとだけ命じられた魔物たちを無慈悲に消滅させる業火の光は一瞬にして数千の命を塵へと変える。


 この大量な魔物を一度に失う光景、もしソウイチが失う側だったら、一発で失神してしまうだろうなと思い、戦場に居ながらも1人苦笑してしまうシャンカラ。



「どの魔王が痺れを切らして出てくるか……それとも早々に逃走の決断をするか」



 デザイア・イデア・ウロボロスの調査の結果、魔王の数は多いが、Sランク魔王までしか出てきていないので、そこまで危険ではないと判断しているソウイチ。

 ソウイチの考えでは上級魔王は聖都が『七元徳』第2の巣であることを知っているから仕掛けていないと思っているので、それを知らない魔王たちが攻め込んでいるので、途中は退くことはないとソウイチは考えている。


 シャンカラとしては無駄な消費をしたくないので、早々と退いてもらった方が助かると思ってはいるが、邪魔者は全て好きにしていいと言われているので、2度と自分たちの主の顔を見たくなくなるように刺すつもりではいるのだ。



「さて……進もうではないか」



 シャンカラは馬たちに指示を出して、灼熱の魔力を放ちながら魔物軍へと向けて真っ直ぐに進んでいく。

 近づくことすら許されぬ日輪を止めれる者は魔物軍には存在せず、ただ真っ直ぐ進むだけのシャンカラに焼き尽くされていくのだった。

 

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