第4話 激戦前『休憩』
僅か3時間半で3体の魔王を倒すという前代未聞の快挙を成し遂げ、魔王軍の侵攻を一時的に停止させた最強の勇者『東雲拓真』は、さすがに疲労を感じて聖都へと戻ってきた。
現在は聖都にある南西門付近で坂神雫とともに補給をしている最中である。周囲には誰もおらず、騎士団員たちは警戒態勢に入っており、危険と思われる場所へと配置されている。
「こういうとき門が2つあると戦力分担されるのがキツイっすよね」
「勇者が半々……確実にこちらのほうが敵数が多くなりそうだから、私と東雲君の配置、仕方ないと割り切るしかないんじゃない?」
「魔王3体倒したってのに、一時しのぎにしかならないって、この世の中にどんだけ魔王がいるって話だよ」
「…相変わらず規格外ね」
東雲拓真と坂神雫。
異性と距離をつめるのが何故か上手い拓真は雫とも早々に仲良くなっており、勇者としての悩みを相談できるほどの関係にまでなっているのである。
ともに世代で最強の勇者と言われてきているだけあって、勇者として似たような境遇を今のところ歩んでいるというのが大きいところだろう。
「聖女様の想定では、すぐにでも魔王軍は進軍を開始するから……準備を整えないとね」
「例の魔王は本当に来るんすかね?」
「聖国に存在している魔王たちの襲撃も、聖国騎士団の本当の姿も……あの魔王の言った通りだったわ」
「………そうっすね。手紙の内容が本当なら……聞きたいことが山ほどありますよ」
「あの魔王の言うことを信じる?」
「俺の勘が大丈夫って言ってるんすよね……とりあえずは勘を信じます」
元々直感力があった拓真だが、この世界に来て『
基本的に自分の勘を信じて突き進むため、女神ですら制御ができず、女神の強制力すらも唯一突き抜けることができる存在が東雲拓真なのである。
用意されている食料を手当たり次第に摘まみながら、拓真は再度出撃するためにエネルギーを蓄えていく。
「やっぱ日本の飯が恋しいなぁ……」
「日本と同じようなものが食べれる迷宮都市もあるそうよ」
「……そういうとこも手紙の魔王の言葉を信じれる要因になりますよね」
「結構鋭いのね」
「本当ツッコミどころ多すぎるんすよ……この世界」
「貴方に言われるまで気付けなかったわ……言われてからはよく思うようになったけれど」
雫が気付けなかったのも無理はない。
異世界から呼び出された勇者には女神から何かしらの強制力が働いており、おかしいと思うことも気付かないように細工されていたのだ。
拓真の『
拓真は雫が正気に戻ったのは自分の能力のおかげだと知らない。
「……貴方は聖国騎士団をどうするつもりなの?」
「ん~……聖国を守ってるのは確かだから、魔物だからって倒そうなんて思わないけど、聖国騎士団の親玉さんが何考えてるか聞いてみないと分かんないっすね」
「そういう考えが……お手紙の魔王さんに通ずるところがあるのね」
「誰かの考え云々ってより、まずは自分がどうしたいかって奴ですよ」
「貴方みたいなのが……本当に勇者っていう存在に相応しいのかもしれないわね」
「肩書なんて気にしてたら疲れちゃいますって……とりあえず壁にぶち当たるまでは自分らしく! ぶつかったらそん時考えればいいんすよ」
雫は力が欲しかった。
女神のような胡散臭い存在にでも縋るしか、元の日本で戦っていた魔なる者たちを勝る手段がなかったのだ。
自分の存在が犠牲になってでも、大事な妹たちが生きる世界を平和にしたいがために、この世界にやってきた。
雫からすれば『原初の魔王』討伐さえ達成できれば、この世界がどうなろうと知ったことではないという考えだった。
しかし、拓真はこの曖昧で矛盾だらけの世界すらも自分が考える最善の世界にしようと力を出し尽くしている。
雫から見れば、これこそ『勇者』という名に相応しいと言えるような存在が拓真なのだ。
「3回目くらいかもしれないっすけど、俺たちの日本に魔物みたいなのが居たことが驚きっすよ」
「……一般人にも多大な影響を出し続けていたから、世に知られるのも時間の問題だったわ……私たちが帰る頃には誰もが知り、誰もが恐れるような存在になっていると思う」
「……とっとと終わらせて帰らないと行けないっすね」
2人とも『原初の魔王』がどこにいるかは解らない。
本当に『原初の魔王』を倒したら元の世界に帰れる保証も無ければ、女神が元の世界でも使えるような力を授けてくれる確証もない。
拓真自身も全て終わらせて、日本に帰っても、今持っている力は無いかもしれないと思いながらも、もしこの世界での記憶を引き継げるならば雫を探し出し、必ず力になってみせるという覚悟を決めていた。
そして自分が帰れなくても、どうにか元の世界を救えるような手立てをつかみ取ってみせると言う決意までも…。
「あぁ……なんとなくですけど、来てる感じしますね」
「そうね……かなりの数の魔物が迫ってきているわ」
「こっちは手薄ですからねぇ……聖都内部と反対門に贔屓しすぎっすよね」
「最悪……聖国騎士団が本当の姿を見せると思うわ」
「魔物vs魔物になるってことっすね……とりあえず避難している街の人たちのとこまでは行かせないようにしないと」
「聖堂付近は聖国騎士団のトップ層が守っているから、さすがに大丈夫だと思うけどね」
残った食料を無理やり口に詰め込んでから、拓真は門の方へと力強く歩んでいく。
その顔は覚悟と自信に満ち溢れ、すれ違う聖国騎士団員が思わず距離を空けてしまうほど、そのすぐ後ろをついて歩く雫。
戦地に行くとは思えないような格好。
拓真がこの世界に来た時に着ていた学生服を洗って使いまわしたり、似た素材で出来ている軽めの服を着るという、なんとも勇者らしくない装備。
しかし、そんな軽装を通り越した装備に関しても、誰にも有無を言わせぬ如く、堂々と門までの道のりを進む拓真。
「魔物の大群相手でも……その格好なのね」
「動きにくいんすよね……とりあえず当たんなきゃいいかなって…鎧なんて着たことないんヤメときます」
「何故か魔物の攻撃が当たらないのか、遠目で動きを観ていて何度疑問に思ったことか……」
「とにかく動き続けるに限るっすよ……先輩は後衛型なんで厳しいかもしれないですけど」
「ステータスに無い謎の力が……貴方にはあるものね。本当に不思議……本当にチャンスなのかもしれないのね。これを渡しておきます。」
「……先輩」
拓真は雫から一通の手紙を受け取る。それを読むことなく、拓真はポケットに仕舞い込む。
2人が門に近づいていくと、少しずつではあるが、魔物の大群が近づいてくる足音と鳴き声が聞こえてくる。
3体の魔王を倒しても尚、数がまったく減ったように感じることができない魔物の大群を前に、聖国騎士団員の若者たちはこの世の終わりのような雰囲気を醸し出してしまっている。
そんな悪い雰囲気を一蹴するように大きく息を吸って、拓真は自身の身体に闘気を漲らせ、勢いをつけるために足に力を入れる。
「よっしゃ! 第2ラウンド開始だ! 全部まとめて片付けるッ!」
「私も……『覚悟』を決めないといけないわね……信用する覚悟を」
――ドンッ!
響き渡るような大声で高らかに宣言したと同時に、拓真は魔物の大群に向けて勢いよく突っ込んでいく。
雫はその背中を見ながら、とある決意を瞳に宿し、少し遅れて拓真を追っていく。
聖都前防衛線がここに始まったのであった。
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