第2話 圧倒的『補正』
3人の勇者と多くの聖国騎士団員死亡という前代未聞の事件。
それは聖国に住む国民以上に、聖国にいる魔王や多くの魔物たちに影響を与えた。
聖都に憎悪に近い感情を抱いていた多くの魔王が絶好のチャンスだと言わんばかりに徒労を組み、大量の魔物と共に聖都へと進軍しているのである。
残った4人の勇者と聖国騎士団、そして聖国を拠点とする冒険者たちは全力で迫りくる魔物たちを撃退していた。
「スッ!」
――バァンッ!
聖都から少し離れた平原で戦っているのは勇者である
本人が動きづらいということで日本からきたときの学生服にパーカーという格好を変えず、武器も何ももたずに自身の身体1つで魔物の群れに単騎で突っ込み大暴れしている異質の存在。
拓真の右ストレートがハイオーガの顔面に突き刺さり、たったの一撃のストレートでハイオーガは膨れ上がった風船が破裂するかの如く吹き飛んでいく。
「俺一人に対して魔物の数多すぎだろ!?」
すでに魔物大群のど真ん中で30分以上単騎で無双しながらも、大声でツッコミを入れながら戦闘できるだけの無尽蔵の体力。
大量の魔物が勇者である拓真に遠距離スキルを放っているのに、まったく当たりもしない謎の身のこなし。
そして見る者が見れば、すぐにでも分かる素人の動きから放たれる大ぶりな打撃は躱せそうなものなのに、魔物たちは避け切れずに直撃を受けていく。
戦闘経験の無さを丸出しにしながら、大量の魔物たちが成す術も無く散っていくほどの圧倒的戦闘力。
彼こそ歴代最強勇者と噂されている、女神ですら把握できていない完全エラーの存在。
女神の加護を受けることができておらず、ブレイブスキルを保有してはいないが、ヒーロースキルという本人すらよく理解できていない謎の能力を持つ17歳の青年。
「いくら異世界だからって人を見殺しにさせる訳にはいかねぇーんだよッ!」
――バァンッ! ズシャッ!
ほんの僅かな闘気と魔力、たったそれだけしか纏っていないはずの拳打や脚撃がハイオーガやロックゴーレムのような屈強な身体を持つ魔物を容易く粉砕していく。
この状況を作り出しているのは本人ですら理解できていない唯一無二のヒーロースキルの1つである『
能力はとてもシンプルに『誰よりも勝る圧倒的な主人公補正がかかる』というものだ。
主人公補正というものが理解出来ていない拓真からすれば、ちょっと運が良くなった程度にしか認識されていないが、敵の攻撃がまともに当たらず、自分の攻撃が直撃するのも『
魔物の大群にとりあえず突っ込んで数を減らして、聖都へと被害を無くすという無謀を通り越して不可能に思えるほどの作戦が成立してしまっているのも、何故か魔物が拓真に寄っていってしまうのも、全て『
「魔物は聖都まで辿りついてないな……よし! もうひと踏ん張りッ!」
多種多様な魔物が拓真に襲い掛かるが、特性も能力もランクもお構いなしで拓真は素人感満載の拳打と脚撃をただただ力を籠めて振るっていくのみ、それだけで魔物たちは木っ端微塵になっていってしまうのだ。
自分と同じ他勇者3人も各自の配置場所で頑張っているので、自分も全部倒すまでは終わらないという謎の自己目標を立てながら、襲い掛かる魔物に攻撃をかましていく拓真。
「魔王が何体か出てきてるって話だから……魔王をやっちまえば早い話なんだろーけどッ!」
魔物を殴り倒しながら今回の魔物たちの聖都襲撃を解決できそうな方法を考える。魔王は魔物を無尽蔵に生み出せると拓真は聞いているので、現状では時間稼ぎ程度にしかなっていないと考える拓真は、このままではジリ貧になっていくだけの状況を解決すべく、指定されていた配置を魔物たちを引き付けながら動き回り、魔王を探索し始める。
回復魔法が使用可能な魔物がでてきているが、拓真の繰り出す攻撃が掠りでもしたり、二次被害を受けた魔物たちの傷が決して癒えることのない状況に困惑する魔物たち、そんな困惑する魔物たちへ拓真は勢いよくは走り込みながらツッコミを入れる。
「俺のパンチは治らねぇーらしいから! 嫌ならお家に帰って寝んねしてなッ!」
――バァンッ! ドゴッ!
拓真から受けた何かしらのダメージが決して癒えることがないのは、拓真が持つ2つの目のヒーロースキル『
決して癒えることのないダメージを与えることができるというシンプルながら極悪な能力。しかも本人はあまり意識していないがしっかりオンオフ可能なのである。
回復魔法もアビリティによる自動回復も全て、拓真からのダメージは回復することができず、拓真は死ぬまで永遠と残り続ける力、魔物たちは『
「蓮さんたちがやられてから……こんな短時間で攻めてくるなんて、絶対魔王たち全員仲良しで情報共有してそうなんだよな」
雫がボロボロになって聖都に帰還し、魔王討伐失敗の知らせを持ち帰ってから。ほんの僅かな期間での魔王たちの襲撃。
拓真は雫から伝えられた様々な言葉と、とある手紙の内容を考えながらも身体を動かし続ける。
聖国騎士団が実は魔物だということも、この世界に来た時からなんとなく感じ取っていたので驚かなかった拓真だが、だからといって聖都に住んでいる善良な市民たちを見殺しにできないという想いから、今は無我夢中で魔物を打倒している。
「この襲撃が終わったら、すぐにでも女神様とやらと魔王の元締めに話を聞きにいかねぇーとな」
拓真から見れば、曖昧であり、矛盾だらけで不完全なこの世界。
自分たちと違う時代の日本から来た『プレイヤー』という存在がいることも知り、自分たちが住んでいた日本からも何人も呼ばれているという拓真的には許したくない行為、全部終わらせて直接聞いてやろうと、新たな決意を胸に拓真は再度走り続ける。
魔物を殴り倒し続ける拓真の視線の先にひと際目立つ岩の集合体が見えてきた。
拓真が見ているのは聖国でダンジョンを運営している『岩像の魔王ダムレス』だ。
全長7mほどの巨体を誇り、『岩像』の魔名の通り、岩を纏った魔物が多く、鈍足ではあるが、頑丈でパワーのある魔物が多いのが特徴の魔王である。
直感で魔王だと判断した拓真は闘気を自身の身体に強めに纏わせる。
この世界に来て闘気や魔力の存在、戦い方をある程度教わっているので、その教えをしっかり頭の中に浮かべながら、勢い殺すことなく魔王へと向かっていく。
拓真に気付いた『岩像』の魔物たちが迎撃してくるが、頑丈な岩だろうが一撃で砕けてしまう『
配下の魔物という存在に対して絶大な特攻補正を得ることができるので、鉄壁の守りだろうが関係なしに粉砕できる拓真に『岩像』の魔物たちは為す術なく打倒されていく。
「貴様が勇者かァ!?」
「あんたは石っころの魔王的な奴か!?」
「舐めた口を! その身体叩き潰してくれるわァッ!」
「勇者が何度も魔王に負ける訳にはいかねぇーんだよ!」
ダムレスの巨大な岩腕が拓真に振り下ろされる。
喰らってしまえ一撃で潰れてしまいそうな攻撃を前に、怯むことなく拓真は拳を握りしめ、迫りくる岩腕へと打ち込んでいったのだった。
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